ワンヘルス理念に基づく動物由来感染症制御に関する研究

文献情報

文献番号
201225010A
報告書区分
総括
研究課題名
ワンヘルス理念に基づく動物由来感染症制御に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立大学法人東京大学 大学院農学生命科学研究科獣医学専攻獣医公衆衛生学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 岸本 壽男(岡山県環境保健センター )
  • 菅沼 明彦(東京都立駒込病院 感染症科)
  • 今岡 浩一(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 井上 智(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 棚林 清(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 川端 寛樹(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 山本 明彦(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 柳井 徳磨(国立大学法人岐阜大学 農学部)
  • 森嶋 康之(国立感染症研究所 寄生動物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
34,422,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では「One Health」理念を念頭に置きつつ、分野横断的なアプローチにより、動物由来感染症の制御に深く関連する、診断、予防、治療、病原性発現機構について研究を深めることを目的とした。
研究方法
Q熱、野兎病、コリネバクテリウムウルセランス、ボレリアの病原体について、国内での存在様式を病原体検出、抗体検出にて明らかにするとともに、猟犬をセンチネルとする調査方法を確立する。また、ブルセラ、狂犬病、エキノコックスの診断、治療、予防法について検討を加える。野兎病の病原性機構を分子生物学的に解明する。
結果と考察
(1)食用ウシ299頭を対象に、C. burnetiiに対する抗体を測定したところ、21頭が陽性を示した。また、遺伝子疫学調査として、Tと畜場へ2012年に搬入された食用ウシ150頭、北海道の牧場ウシ205頭、北海道の牧場ウマ87頭、岡山県のヌートリア148頭、岡山県の野ネズミ133頭、岡山県のマダニ180匹及び北海道のマダニ563匹を対象としてC. burnetiiの遺伝子検索を実施したが、結果は全て陰性であった。
(2)ライム病患者由来ボレリア株と野鼠由来ボレリア株の患者から分離されるDNA型を多く保菌していることを初めて明らかにした。
(3)検査法開発のためブルセラ特異的な組換えタンパクを作成し、感染イヌ血清、免疫ウサギ血清との反応を検討した。また、本タンパクと分子量は同じだがPI値が異なる、交差反応をもたらすタンパクを見いだした。
(4)Corynebacterium ulceransに起因する2名の皮膚ジフテリア様症状患者が日本で初めて発見された。ジフテリア抗毒素測定にて菌分離法より多くの陽性動物を検出できた。さらに、新たな分子疫学手法としてAFLP法の応用の可能性が示された。
(5)開発した野兎病抗体検出競合ELISAの患者検体での有用性を検証し、さらに国内野生動物検体に応用した。また、野兎病菌pdpC遺伝子破壊株および相補株を作出し本遺伝子が病原性を規定することを確認した。
(6)2012年東北6県の猟犬計123頭のも野外感染症調査では、ボレリア症、トキソプラズマ症の高い陽性率、ブルセラ症、ジフテリア毒素陽性の散発例がみられた。一方、動物園水族館の調査では、新世界ザルに抗酸菌症、鯨類に接合菌症の感染がみられた。
(7)エキノコックス症の感染源となる成虫型へ発育誘導したエキノコックス原頭節を用いてトランスクリプトーム解析を行い、成虫方向への分化にともなって発現する主な遺伝子群を同定し、分化の決定時期を明らかにした。
(8)二次抗体を使用しない特異性の高い簡易な抗原検出法を確立するために狂犬病ウイルスの抗-PタンパクscFvにビオチン化ペプチドを挿入して大腸菌内でビオチン化scFvの発現に成功した。
(9)ヒト狂犬病治療に関する研究では、最新の知見を加えてヒト狂犬病資料集を改訂した。狂犬病ワクチンの接種法に関する研究では、米国で導入された暴露後免疫4回接種法の効果を国内の状況に即して検討した。
結論
本研究は今年度で終了したが、国内での存在様式が不明な動物由来感染症の実態を明らかにすることは、公衆衛生行政上重要な課題であることには変わりはない。本研究の成果はこれらの感染症の実態把握をしていく上で大きく貢献するものと考えられる。本邦は動物由来感染症に関して言えば世界的にもその制御が上手くいっていると考えられるが、近隣諸国においては未だに社会的重要課題である。近隣諸国あるいは他の国々からの輸入例への対応、あるいは近隣諸国から特定感染症の淘汰に関しては我が国の協力は欠かすことができない。そのためにはワンヘルス理念を更に実践に移し、関係者の強力な連携で動物由来感染症へ対峙していく必要があり、それを裏付ける地道で持続可能なな調査研究が必要とされる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201225010B
報告書区分
総合
研究課題名
ワンヘルス理念に基づく動物由来感染症制御に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立大学法人東京大学 大学院農学生命科学研究科獣医学専攻獣医公衆衛生学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 岸本壽男(岡山県環境保健センター 所長)
  • 菅沼 明彦(東京都立駒込病院 感染症科)
  • 今岡 浩一(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 井上 智(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 棚林 清(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 川端 寛樹(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 山本 明彦(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 柳井 徳磨(国立大学法人岐阜大学 農学部)
  • 森嶋 康之(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 高橋 元秀(国立感染症研究所 細菌第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では「One Health」理念を念頭に置きつつ、分野横断的なアプローチにより、動物由来感染症の制御に深く関連する、診断、予防、治療、病原性発現機構について研究を深めることを目的とした。
研究方法
Q熱、野兎病、コリネバクテリウムウルセランス、ボレリアの病原体について、国内での存在様式を病原体検出、抗体検出にて明らかにするとともに、猟犬をセンチネルとする調査方法を確立する。また、ブルセラ、狂犬病、エキノコックスの診断、治療、予防法について検討を加える。野兎病の病原性機構を分子生物学的に解明する。
結果と考察
(1)2009年から2012年まで、全国の食用ウシ565頭を対象として血清疫学調査及び遺伝子疫学調査を実施してきたが、C. burnetiiに対する抗体保有率は3.7%であり、遺伝子は検出されなかった。これらの結果から、食用ウシにおいては、過去の感染が疑われる個体が存在するものの、調査時点では感染個体はいなかったと考えられた。これまでに、遺伝子疫学調査として家畜1313頭、ペット2748頭、野生動物281頭及びマダニ1365匹の合計5,707検体についてC. burnetiiの遺伝子検索を実施してきたが、感染個体は確認できなかった。これらのことを勘案すると、現時点において、国内のC. burnetiiの侵淫度は低く、ヒトへの感染リスクは非常に低いものと考えられた。しかしながら、現在も毎年数名の患者が報告されており、海外の流行地域からの輸入感染も懸念されることから、今後も検査体制やサーベイランス体制を維持していくことが必要であると考える。
(2)国内分離ボレリア88株について国際標準法である多領域DNA配列型別解析を行い、ライム病起因菌のほとんどはBorrelia gariniiであり、かつこれら病原体は野鼠由来であることを明らかにした。
(3)血清抗体検査と遺伝子検出で、国内野生イノシシでB. canis感染歴を持つものがいることを示した。家畜ブルセラ菌感染は認められなかった。より簡便で特異的な検査を開発するために組換えタンパクを作成・検討した。
(4)3年間に呼吸器や皮膚ジフテリア様症状を呈する5名の患者からジフテリア毒素産生性Corynebacterium ulceransが分離され、環境調査からネコ及びイヌなどの愛玩動物に一定の汚染があり、それらからの感染リスクが高いことが考えられた。
(5)野兎病菌に対する特異的抗体を検出する新たな競合ELISAを用いて、国内野生動物のうちツキノワグマやタヌキで陽性個体を見いだした。また、野兎病菌pdpC遺伝子が病原性を規定することを明らかにした。
(6)野外活動する猟犬は,野外感染の機会が多い。2010年以降全国で約600例の疫学調査を実施、各地でレプトスピラ,トキソプラズマ,ジフテリア,ライム病を検出したことから、猟犬が野外感染の歩哨動物として有用であると考えられた。
(7)エキノコックス症の原因である幼虫が持つ二方向性分化能に注目し、至適化した培養条件で成虫方向へ発育誘導した材料を用いてトランスクリプトーム解析を行い、成虫型分化時に発現する遺伝子群を同定した。
(8)ヒトに重篤な健康危害をもたらす動物由来感染症の病原体検出系を開発するために、環境由来Bacillus 属菌の分離方法を確立してゲノム解析による病原性検討を可能にし、簡易 抗ニパウイルスIgM抗体検出ELISA系の構築に成功した。
(9)ヒト狂犬病治療に関する研究では、狂犬病救命例及び治療に関する文献に関する資料集を作成した。狂犬病ワクチンの接種法に関する研究では、曝露前免疫の曝露後発症予防への効果と暴露後免疫4回接種法の効果を検討した。
結論
本研究では、国内に存在することは確実であるが、その存在様式が不明な動物由来感染症の実態を明らかにすることを目的とし、Q熱、野兎病、コリネバクテリウムウルセランス、ボレリアの病原体について疫学的調査研究を実施した。また、猟犬の保有する動物由来感染症の病原体に対する抗体調査により、猟犬がわが国における動物由来感染症のリスク評価に有用であることを示した。更にブルセラ、狂犬病、エキノコックスの診断、治療、予防法に関する研究を実施するとともに野兎病に関してはその病原性の分子機構を明らかにすることができた。本研究の成果は、これらの感染症の実態把握や対策を立案する上で大きく貢献するものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201225010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内ではなじみの薄かったOne Health概念の啓発に役立った。
臨床的観点からの成果
該当しない
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
第153回日本獣医学会においてOne Healthシンポジウムが開催された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hotta, A, Tanabayashi, K, Yamamoto, Y. et al.
Seroprevalence of tularemia in wild bears and hares in Japan
Zoonoses and Public Health , 59 , 89-95  (2012)
原著論文2
Sharma, N, Hotta, A., Yamamoto Y. et al.
Detection of Francisella tularensis-specific antibodies in patients with tularemia by a novel competitive enzyme-linked immunosorbent assay.
Clin. Vacc. Immunol. , 20 , 9-16  (2013)
原著論文3
Sekizaki T, Yamamoto, A., Komiya, T., et al.
Corynebacterium ulcerans 0102 carries the gene encoding diphteria toxin on a prophage different from the C. diphteriae NCTC 13129 prophage
BMC Microbiol , 12 , 72-78  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201225010Z