文献情報
文献番号
201225009A
報告書区分
総括
研究課題名
海外からの侵入が危惧される野生鳥獣媒介性感染症の疫学、診断・予防法等に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
苅和 宏明(北海道大学 大学院獣医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 好井 健太朗(北海道大学 大学院獣医学研究科 )
- 有川 二郎(北海道大学 大学院医学研究科 )
- 西條 政幸(国立感染症研究所)
- 井上 智(国立感染症研究所)
- 伊藤 直人(岐阜大学 応用生物科学部)
- 丸山 総一(日本大学 生物資源科学部獣医学科)
- 林谷 秀樹(東京農工大学 共生科学技術研究院)
- 川端 寛樹(国立感染症研究所)
- 永田 典代(国立感染症研究所)
- 早坂 大輔(長崎大学 熱帯医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
19,459,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
野生鳥獣類によって媒介される人獣共通感染症は人に感染すると重篤化するものが多く、世界各国で公衆衛生上の大きな問題となっている。これらの人獣共通感染症は病原体の分布域や宿主動物などが不明な場合が多く、発生予防が難しい。本研究では、日本において患者数は少なくとも、日本の周辺国では大きな問題となっている人獣共通感染症について、疫学的な解析、診断法や予防法などの開発を行うとともに、動物モデルの開発とそれを用いた病態発現機序の解明を目指している。
研究方法
野生鳥獣によって媒介される重篤な人獣共通感染症のうち、国内に侵入するおそれの高いダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス感染症、狂犬病、リフトバレー熱、回帰熱、バルトネラ感染症、およびサルモネラ症について、疫学的な解析、診断法などの開発を行うとともに、動物モデルの開発とそれを用いた病態発現機序の解明を試みた。
結果と考察
北海道の斜里町とロシアのサマラ州において捕獲されたげっ歯類からダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)に対する抗体が検出されたことから、両地域でTBEVの流行巣が存在する可能性が示された。TBEV Oshima株をTNFαノックアウトマウスに感染させると、正常マウス感染させた場合よりも致死性の増加がみられたことから、TNFα応答は重症化抑制に働くことが示唆された。TBEV遺伝子検出用のRT-LAMP法を開発した。ハンタウイルスの組換えヌクレオキャプシドタンパク質(NP)から保存性の高い領域を除いた短縮型のNPを作製し、これをELISAの抗原として用いたところ、北アメリカ大陸由来ハンタウイルス感染症やラット由来ハンタウイルス感染症について感染ウイルス型を推定することが可能となった。リフトバレーウイルスの糖タンパク質を持つ水疱性口炎ウイルス(シュードタイプウイルス)を作製し、これを用いてリフトバレー熱の安全な中和試験法を開発した。狂犬病ウイルス西ヶ原株のP遺伝子を持つ株は、弱毒株のP遺伝子を持つ株に比べ、in vivoおよびin vitroのいずれの実験系においても筋肉細胞における増殖性が良いことが明らかになった。したがって、西ヶ原株はP遺伝子の何らかの機能によって筋肉内で弱毒株よりもよく増殖し、その結果として高い効率で末梢神経に感染すると考えられた。リアルタイムPCR法が回帰熱の診断に極めて有用であることが明らかになった。わが国の野生のネコ亜目動物のうち,沖縄県で捕獲したマングースの15.9%(10/63)と千葉県で捕獲したハクビシンの3.8%(1/26)からBartonella属菌が初めて分離された。マングース・ハクビシンから分離された11株の6つのハウスキーピング遺伝子の塩基配列は,いずれも猫ひっかき病の起因菌であるBartonella henselaeと最も高い相同性(相同性値;99.6~100%)を示したことから,マングースとハクビシンはB. henselaeを保菌していることが初めて明らかになった。ベトナム中部ならびにカンボジア北西部に生息するヤモリからSalmonella属菌はそれぞれ19.5%ならびに17.3%と高率に分離された。ヤモリから分離されたSalmonella属菌の血清型は、いずれの地域でもS.Weltevredenの割合が最も高かった。S. Weltevredenはベトナムを含む東南アジアではヒトのSalmonella感染患者から高頻度に検出される主要な血清型として知られている。したがって、ヤモリは自然界におけるSalmonella属菌の主要な保菌動物であり、人のSalmonella症の感染源となっている可能性が高いことが判明した。
結論
海外の共同研究者からの疫学情報や、国内外での疫学調査を通じて、各種の人獣共通感染症の病原巣動物と流行地域に関する貴重な知見が得られた。本研究で得られたこれらの感染症に関する国内外の疫学的知見は、人獣共通感染症の予防のための基礎的情報として重要である。また、本研究において開発された信頼性の高い簡便な診断法は、野生鳥獣を対象とした人獣共通感染症の疫学調査や検査機関での検査に応用可能である。これにより、これまで実施が困難であった人獣共通感染症の検査が充実し、流行状況の把握が容易になることが期待される。また、動物感染モデルを用いた解析により、各種のウイルス側因子や宿主側因子が病態発現に関連していることも判明した。今後、さらにこれらの因子の解析により、人獣共通感染症の発症機序の解明につながることが期待される。
公開日・更新日
公開日
2013-06-05
更新日
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