結核等抗酸菌感染症における生体防御及び抗菌制御を介した治療予防法の開発戦略

文献情報

文献番号
201225007A
報告書区分
総括
研究課題名
結核等抗酸菌感染症における生体防御及び抗菌制御を介した治療予防法の開発戦略
課題番号
H22-新興-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 正彦(国立感染症研究所 感染制御部)
研究分担者(所属機関)
  • 柴山 恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 田村 敏生(国立感染症研究所 感染制御部)
  • 星野 仁彦(国立感染症研究所 感染制御部)
  • 竹田 潔(大阪大学大学院 医学部)
  • 河村 伊久雄(京都大学大学院 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
39,705,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
20世紀最大の恐怖を与えたばかりか、未だ衰えを全く見せない結核において、緊急を要する最重要研究課題は、発症予防法の確立と多剤耐性結核菌に対応し得る新規抗結核薬の開発である。この2つの問題を中心として据え、新規予防法及び治療法を開発する。
研究方法
免疫抑制性シグナルPD-1を欠損するマウスを用い、新しいワクチン投与法を開発する。初回免疫ワクチンとして用いる新規リコンビナントBCGを多方面から作製し、それらのT細胞活性化能、メモリーT細胞産生能、ワクチンとしての結核菌増殖抑制能を検討する。高齢者結核の発症を予防する際必須となるCD8陽性細胞障害性T細胞を賦活する追加免疫用ワクチンの開発に向けたIL-17F産生誘導機構を解析する。抗酸菌特異的ヌクレオチド加リン酸分解酵素(Rv2613c)の基質結合部位の機能阻害を誘導するリード化合物を決定する。宿主自然免疫応答に関与し、細胞質結核菌DNAを認識するAIM2を欠損するマウスの結核菌高感受性誘導機構を解明する。
結果と考察
PD-1欠損マウスはBCGの早期生体外排除、結核菌感染時には早期の宿主個体死をもたらすが、BCGワクチンを投与すると結核菌高感受性は阻害された。BCGワクチン接種したワイルドタイプマウスにPD-1に対する中和抗体を投与すると、結核菌抵抗性が増強した。ワクチン接種時の強い獲得免疫応答は結核菌の増殖を強く抑制し得ることを証明した。活動期結核菌に発現するCysOを組み込んだリコンビナントBCGはヒト未感作T細胞を強く活性化すると同時にマウス生体内で抗原特異的メモリーT細胞をポリクロ―ナルに産生した。IL-17F産生性CD4陽性ヘルパーT細胞は、IFN-γ産生性ヘルパーT細胞と協調してCD8陽性T細胞にキラー活性を付与し、両T細胞は異なる未感作CD4陽性T細胞をプレカーサーとしている可能性が示唆された。Rv2613cの基質結合部位に結合するリード化合物が複数同定され、新薬開発の方向性が規定された。AIM2欠損マウスでは、結核菌に対するIL-1産生など自然免疫応答に加え、獲得免疫応答も阻害され、その結果として結核菌高感受性が誘導されることが判明した。
結論
結核に対する新しいワクチン開発技法、ワクチンの新しい投与法が明らかになるとともに多剤耐性菌にも奏効する新薬の開発が可能となった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201225007B
報告書区分
総合
研究課題名
結核等抗酸菌感染症における生体防御及び抗菌制御を介した治療予防法の開発戦略
課題番号
H22-新興-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 正彦(国立感染症研究所 感染制御部)
研究分担者(所属機関)
  • 柴山 恵吾(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 田村 敏生(国立感染症研究所 感染制御部 )
  • 星野 仁彦(国立感染症研究所 感染制御部 )
  • 竹田 潔(大阪大学大学院 医学部)
  • 河村 伊久雄(京都大学大学院 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エイズ・マラリアと並び3大感染症である結核の制御を目指し、発症予防方策の開発と多剤耐性結核菌に有効に作用する新規治療薬の開発を中心課題として据え、ワクチン開発、新規薬剤開発のためのリード化合物の同定を行う。
研究方法
免疫抑制性シグナルを増強させるPD-1を欠損したマウスを用い、結核菌感受性及びBCG感受性を検討し、宿主免疫応答を利用したワクチン投与法を開発する。乳幼児期に接種し、アウトブレークを引き起こす結核菌に対して有効に作用する新規リコンビナントBCGを作製し、そのT細胞活性化能、メモリーT細胞産生能、キラーT細胞分化誘導能、ワクチンとしての肺内結核菌増殖抑制能を検討する。高齢者の肺結核発症予防に必須なCD8陽性長期生存型メモリーT細胞のTh1ペプチド依存性分化誘導に必須な因子を同定し、追加免疫ワクチンとしての必須条件を同定する。抗酸菌特異的ヌクレオチド加リン酸分解酵素(Rv2613c)の基質結合部位に選択的に結合する新規薬剤開発に必須なリード化合物を決定する。宿主自然免疫応答に関与し、IL-1β・IL-18を介した抗結核防御因子としてのAIM2の役割を検討する。
結果と考察
PD-1欠損マウスを用いるとBCGのT細胞活性化能が増強し、抗結核免疫応答が増強された。BCGワクチン接種時に負の因子を除去することがワクチン効果の増強に繋がることが判明した。ウレアーゼ欠損リコンビナントBCGに結核菌主要抗原性因子であるMMP-IIとシャペロン効果を有するHSP70を連結した融合遺伝子を組み込ませて新しく作製したBCGは従来のBCGに比し強く肺内結核菌の増殖を抑制し、ワクチンとして極めて有用であることが判明した。さらに、活性化結核菌に発現するCysO遺伝子を連結すると多クローンT細胞が活性化された。IL-17FはキラーT細胞の効率的産生に必須であって、追加免疫ワクチンはIL-17F産生能を有することが必要不可欠であることが判明した。新薬開発に必須なRv2613c基質結合部位を選択的に阻害するリード化合物が複数同定された。AIM2は細胞質内結核菌由来DNAを認識し、Caspase-1を介しIL-1β・IL-18の産生を誘導し、結核菌の早期生体外排除を誘導することが明らかとなった。
結論
結核に対する初回免疫ワクチン・追加免疫ワクチンの開発が可能となり、多剤耐性結核菌に有効な新薬の開発も可能となった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201225007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
AIM2は細胞質結核菌DNAを認識してIL-1β及びIL-18を産生誘導する宿主自然免疫応答誘導因子であるが、AIM2欠損マウスでは自然免疫応答能が欠如し結核菌に対し強い感受性を示すことが明らかとなった。免疫抑制性シグナル(PD-1)を欠損したマウスでは、病原性因子を欠如するBCGの早期生体外排除を誘導する一方、結核菌を感染させるとESAT-6特異的CD4陽性T細胞の異常活性化を誘導し、サイトカインストームをもたらし、早期の個体死を誘導した。結核菌病原性因子ESAT-6が特異な病像を形成した。
臨床的観点からの成果
新しい結核ワクチンの作製を目的として、ウレアーゼ欠損BCGにHSP70-MMP-II遺伝子導入BCG、および、活性化結核菌に発現するCysOを導入したBCGを作出した。これらは親BCGに比し、効率的に多クローンの抗原特異的メモリーT細胞をマウス生体内で作製した。高齢者肺結核の予防にはCD8陽性T細胞の長期生存が必須であるが、その産生にはIFN-γ産生性ベルパー集団とIL-17F産生性細胞の両者が必要であることが判明した。結核ワクチンの成否はIL-17Fの産生量により規定されることが示唆された。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
抗酸菌特異的ヌクレオチド加リン酸分解酵素(Rv2613c)は、特異的基質結合部位を有していたため、本結合部位を標的とした新規結核薬の開発のため、まずリード化合物の探索を行った。その結果、数種のリード化合物(スルホン酸基、リン酸基を有する化合物)が同定された。本リード化合物は、既存の抗結核薬では全く使用されておらず、さらに、現在まで多剤耐性菌にもRv2613cに変異は無く、多剤耐性結核菌にも有効な新規薬剤の開発が可能となった
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
29件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
48件
学会発表(国際学会等)
40件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
D. Hayashi, T. Takii, T. Mukai, 他
Biochemical characteristics among Mycobacterium bovis BCG substrains
FEMS Microbiol. Lett. , 306 , 103-109  (2010)
原著論文2
Y. Miyamoto, T. Mukai, T. Naka, 他
Novel rhamnosyltransferase involved in biosynthesis of serovar 4-specific glycopeptidolipid from Mycobacterium avium complex.
J. Bacteriol. , 192 , 5700-5708  (2010)
原著論文3
T. Mukai, Y. Maeda, T. Tamura, 他
Enhanced activation of T lymphocytes by urease-deficient recombinant Bacillus Calmette-Guérin producing heat shock protein 70-major membrane protein-II fusion protein.
J. Immunol. , 185 , 6234-6243  (2010)
原著論文4
A. Yahagi, M. Umemura, T. Tamura, 他
Suppressed induction of mycobacterial antigen- specific Th1-type CD4+ T cells in the lung after pulmonary mycobacterial infection.
Int.Immunol. , 22 , 307-318  (2010)
原著論文5
S. Sakai, I. Kawamura, T. Okazaki 他
PD-1–PD-L1 pathway impairs Th1 immune response in the late stage of infection with Mycobacterium bovis bacillus Calmette-Guerin
Int. Immunol. , 22 , 915-925  (2010)
原著論文6
Y. Maeda, T. Tamura, Y. Fukutomi, 他
A lipopeptide facilitate induction of Mycobacterium leprae killing in host cells
PLoS Neglected Tropical Diseases , 5 , 1401-  (2011)
原著論文7
K. Nakanaga, Y. Hoshino, R. R. Yotsu,他
Nineteen cases of Buruli ulcer diagnosed in Japan from 1980 to 2010
J. Clin. Microbiol. , 49 , 3829-3836  (2011)
原著論文8
T. Naka, N. Nakata, S. Maeda, 他
Structure and host recognition of serotype 13 glycopeptidolipid from Mycobacterium intracellulare
J. Bacterio , 193 , 5766-5774  (2011)
原著論文9
Y. Fukutomi, Y. Maeda, M. Makino
Apoptosis-inducing activity of clofazimine in macrophages
Antimicrobial Agents and Chemotherapy , 55 , 4000-4005  (2011)
原著論文10
M. Kai, N. H. Ngvyen Phvc, H. A. Ngvyen, 他
Ann an endemic area of Vietnamalysis of drug-resistant strains of Mycobacterium leprae
Clin. Infect. Dis. , 52 , 127-132  (2011)
原著論文11
Y. Tsukamoto, M. Endoh, T. Mukai, 他
Immunostimulatory activity of major membrane protein II from Mycobacterium tuberculosis
Clin. Vaccine Immunol. , 18 , 235-242  (2011)
原著論文12
N. Nakata, M. Kai, M. Makino.
Mutation analysis of the Mycobacterium leprae folP1 gene and Dapsone resistance
Antimicrobial Agents and Chemotherapy , 55 , 762-766  (2011)
原著論文13
K. Nakanaga, Y. Hoshino, Y. Era, 他
Multiple cases of cutaneous Mycobacterium massiliense infection in a “hot spa” in Japan
J. Clin. Microbiol. , 49 , 613-617  (2011)
原著論文14
H. Saiga, Y. Shimada, K. Takeda.
Innate immune effectors in mycobacterial infection.
Clin. Dev. Immunol. , 2011 , 34759-  (2011)
原著論文15
S. Mori, K. Shibayama, J. I. Wachino, 他
Structural insights into the novel diadenosine 5¢,5¢¢¢-P1,P4-tetraphosphate phosphorylase from Mycobacterium tuberculosis H37Rv.
J. Mol. Biol. , 410 , 93-104  (2011)
原著論文16
S. Daim, I. Kawamura, K. Tsuchiya, 他
Expression of the Mycobacterium tuberculosis PPE37 protein in Mycobacterium smegmatis induces low tumour necrosis factor alpha and interleukin 6 production in murine macrophages
J. Med. Microbiol. , 60 , 582-591  (2011)
原著論文17
H. Ariga, H. Nagai, A. Kurashima, 他
Stratified threshold values of QuantiFERON assay for diagnosing tuberculosis infection in immunocompromised populations
Tuberculosis Research and Treatment , 2011 , 94064-  (2011)
原著論文18
K. Nakanaga, Y. Hoshino, Y. Hattori, 他
Mycobacterium pseudoshottsii isolated from 24 farmed fishes in western Japan
J. Vet. Med. Sci. , 74 , 275-278  (2012)
原著論文19
N. Nakata, M. Kai, M. Makino.
Mutation analysis of mycobacterial rpoB genes and rifampicin resistance using recombinant Mycobacterium smegmatis
Antimicrobial Agents and Chemotherapy , 56 , 2008-2013  (2012)
原著論文20
K. Tanigawa, D. Yan, A. Kawashima, 他
Essential role of hormone-sensitive lipase (HSL) in the maintenance of lipid storage in Mycobacterium leprae-infected macrophages
Microb. Pathog. , 52 , 285-  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2017-06-08

収支報告書

文献番号
201225007Z