新型インフルエンザH1N1の病態把握と重症化の要因の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201225002A
報告書区分
総括
研究課題名
新型インフルエンザH1N1の病態把握と重症化の要因の解明に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小林 信之(独立行政法人国立国際医療研究センター 呼吸器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 工藤 宏一郎(早稲田大学 アジア研究機構)
  • 齋藤 玲子(新潟大学大学院医歯学総合研究科国際感染医学講座公衆衛生分野)
  • 河合 直樹(日本臨床内科医会 (河合内科医院))
  • 浮村 聡(大阪医科大学医学部 内科学総合診療科)
  • 池松 秀之(九州大学先端医療イノベーションセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
12,517,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2011年より新型インフルエンザは季節性に移行したが、肺炎重症化を未然に防ぐ方法、重症肺炎の有用な治療法は確立されていない。新型インフルエンザの重症化要因の究明とともに、パンデミック以降のわが国におけるインフルエンザ肺炎および心筋炎の診療実態を調査し、薬剤の耐性や有効性などの最新情報に基づき、今後起こると思われる新たな「新型」インフルエンザパンデミックに対する予防・治療・管理方法を確立する。
研究方法
1)メキシコ国立呼吸器疾患センターにおける新型インフルエンザ重症肺炎患者の死亡へのリスクファクターを求めた。日本およびメキシコの病院に入院した20歳以下のインフルエンザ肺炎患者を対象として、コルチコステロイド治療の有用性について検討した。2)入院治療を要した成人のインフルエンザウイルス肺炎の診療実態について全国アンケート調査を実施した。3)2009/10年以降の3シーズンにおける小児のインフルエンザ心筋炎に関する疫学調査ならびに小児科医の意識調査を行った。4)2011/12シーズンの臨床検体からインフルエンザウイルスを分離し、型・亜型と臨床症状との関連、抗インフルエンザ薬の効果についてリアルタイムに解析した。5)2011/12シーズンの日本各地から採取・分離したインフルエンザウイルス株の抗原性および薬剤耐性の解析を行った。
結果と考察
1)インフルエンザA(H1N1)pdm09によりICUに入室した重症肺炎患者における死亡への関連因子として、P/F比と肺コンプライアンスという2つの独立した因子が検出された。メキシコおよび日本における小児のインフルエンザ肺炎の入院患者を統合し、propensity-matchingを行いコルチコステロイドの影響について検討した結果、コルチコステロイドの非投与群では、発症3日目までの投与群よりARDSになるリスクが高いことが示された。2)パンデミック以降の入院治療を要した成人のインフルエンザウイルス肺炎における死亡に関連する因子として、年齢、SpO2、コルチコステロイド使用という3つの因子が検出された。ポストパンデミックの2シーズンではパンデミックシーズンと比べて成人のインフルエンザ肺炎の重症度は低く、ARDSの合併は少なかったが、死亡率については両群で差はみられなかった。3)パンデミック以降3シーズンにおける小児のインフルエンザ心筋炎については、2009/10シーズンの8例に対し、翌シーズンでは4例、翌々シーズンでは2例と少なかった。小児科医に対する意識調査では、心筋炎診断のスクリーニングに有用である心電図検査の実施率が低いことが明らかとなった。4)2011/12年流行期は前2シーズン(2009/10と2010/11年)に流行したA(H1N1)pdmはほとんどみられなくなり、患者より分離されたウイルスはA(H3N2)型が最も多く、残りはB型であった。解熱時間の検討により、A(H3N2)型、B型のいずれでも各ノイラミニダーゼ阻害薬の高い有効性が示され、前シーズンに比較しても有効性の低下はみられなかった。5)2011/12年シーズンに分離されたインフルエンザウイルスA/H3N2型は、2011/12年シーズンのワクチン株から抗原性が変化していたが、B型のビクトリア系株はワクチン株と一致していた。4種類のNA阻害剤に対する薬剤感受性試験を行った結果、A/H3N2型およびB型ともに高度薬剤耐性株の出現はなく、NA阻害剤に対して感受性であると考えられた。
結論
新型インフルエンザ重症肺炎の死亡へのリスクファクターを求め、また、小児の肺炎における発症3日までのコルチコステロイド投与の有用性を示した。ポストパンデミックの2シーズンではパンデミック期と比べて成人のインフルエンザ肺炎の重症度は低く、ARDSの合併は少なかった。小児インフルエンザ心筋炎は、パンデミック以後のシーズンでは減少したが、小児科医のインフルエンザ心筋炎に対する意識が低いことがわかった。2011/12シーズンにおいて流行したA(H3N2)型、B型において、NA阻害薬の高い有効性が示された。A/H3N2およびB型ともに4種類のNA阻害剤に対して薬剤耐性株の出現はみられなかった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201225002B
報告書区分
総合
研究課題名
新型インフルエンザH1N1の病態把握と重症化の要因の解明に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小林 信之(独立行政法人国立国際医療研究センター 呼吸器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 工藤 宏一郎(早稲田大学 アジア研究機構)
  • 齋藤 玲子(新潟大学大学院医歯学総合研究科国際感染医学講座公衆衛生分野)
  • 河合 直樹(日本臨床内科医会 (河合内科医院))
  • 浮村 聡(大阪医科大学医学部 内科学総合診療科)
  • 池松 秀之(九州大学先端医療イノベーションセンター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2009年にパンデミックを起こした新型インフルエンザ(A/H1N1)は2011年より季節性に移行したが、いずれのシーズンにおいても重症・死亡例の多くは肺炎によるものである。しかし、肺炎の重症化を未然に防ぐ方法、重症肺炎の有用な治療法については確立されていない。本研究班では、新型インフルエンザの病態把握、重症化要因の究明とともに、パンデミック以降のわが国における重症肺炎および心筋炎の診療実態を調査し、薬剤の耐性や有効性などの最新情報に基づき、今後起こりうる「新型」インフルエンザパンデミックに対する予防・治療・管理方法を確立することを目的としている。
研究方法
1)新型インフルエンザ(Influenza A(H1N1)pdm09)の発生国メキシコにおける重症肺炎の臨床および病理検討を基盤として、重症肺炎の死亡へのリスクファクター、治療法(抗インフルエンザウイルス薬、コルチコステロイド薬、PMXによる血液浄化療法)について検討した。2)新型インフルエンザ(A/H1N1)により入院した肺炎患者に対して、全身ステロイドの投与が適切かどうか検討した。パンデミック以降3シーズンにおいて、入院治療を要した成人のインフルエンザウイルス肺炎の診療実態について全国アンケート調査を実施した。3)2009/10シーズン以降の2シーズンにおけるインフルエンザ心筋炎の全国調査を行った。小児のインフルエンザ心筋炎については3シーズンにわたる疫学調査を実施し、小児科医のインフルエンザ心筋炎に対する意識調査を行った。4)2009/10年以降の各インフルエンザ流行期に、臨床検体よりウイルスの分離培養を行い、ウイルスの型・亜型と臨床症状の関連、抗インフルエンザ薬の効果について解析した。5)2009/10年から連続した3シーズンにおいて、日本各地から採取・分離したインフルエンザウイルス株の抗原性および薬剤耐性について解析した。
結果と考察
1)人工呼吸器管理を要した新型インフルエンザ患者における死亡の予測因子として、P/F比と肺コンプライアンスという2つの因子が検出された。抗インフルエンザ薬の早期投与により肺炎の発生、重症化のリスクを減らし、入院期間を短縮することを示した。インフルエンザ肺炎による小児入院患者において、コルチコステロイドの早期投与はARDSへの進展を抑えることを示した。2)喘鳴を伴う小児のインフルエンザ肺炎患者において、全身性ステロイドの投与は、肺炎に対するネガティブな影響は認められなかった。ポストパンデミックの2シーズンではパンデミック期と比べて成人のインフルエンザウイルス肺炎の重症度は低く、ARDSの合併は少なかったが、死亡については両群で差はみられなかった。3)2009/10シーズンの新型インフルエンザ心筋炎は25例(劇症型15例)であったが、翌シーズンは4例(劇症型2例)に減少した。心筋炎の診断には心電図、心筋逸脱酵素によるスクリーニングが重要であり、劇症型心筋炎では体外式補助循環を躊躇せず使用することが救命に必要である。4)2009年に出現したA(H1N1)pdm09は3シーズン目にはほとんどみられなくなり、H3N2とB型が2010/11シーズン以降に復活した。A(H1N1)pdm09ではオセルタミビルに対するIC50値の異常高値が1~2%程度にみられた。A亜型については、4剤のNA阻害薬間の有効性に関して、解熱時間やウイルス残存率ではほとんど差はみられなかった。5)インフルエンザウイルス株の遺伝子抗原性については、A/H1N1pdm09株はCluster 2に属し、2011/12年のA/H3N2株はA/Victoria208系統に属したが前年に比べ進化していた。薬剤感受性試験を実施し、2010/11年のA/H1N1pdm09では、薬剤投与歴のない患者から2件(3.3%)オセルタミビルとペラミビルの耐性株が検出され、NA蛋白にH274Y変異を認めた。
結論
新型インフルエンザの病態、死亡へのリスク因子、治療法についての研究成果を包括的視点で踏まえ、『新型インフルエンザ重症肺炎の概要と臨床対応策の検討』としてまとめた。ポストパンデミックの2シーズンではパンデミック期と比べて成人インフルエンザ肺炎の重症度は低く、ARDSの合併は少なかった。インフルエンザ心筋炎の発症は大流行時には増加し、合併症のない成人や小児でも発症した。A/H1N1pdm09では、3.3%にオセルタミビルとペラミビルに耐性を示す株が検出され、NA蛋白にH274Y変異を認めた。2010/11年シーズン以降に流行したA/H3N2およびB型において、4種類のNA阻害剤に対する薬剤耐性株の出現はみられず、また、解熱時間の検討から、いずれの薬剤についても高い有効性が示された。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201225002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新型インフルエンザ重症肺炎の病理所見は、びまん性肺胞障害のほか微小塞栓や器質化肺炎など多彩であり、死亡へのリスクファクターはP/F比と肺コンプライアンスであった。インフルエンザ心筋炎はパンデミック後のシーズンでは減少したが、致死率は依然として高かった。A/H1N1pdm09とB型の流行株はワクチン株と抗原性が一致していたが、A/H3N2では抗原性がややずれていた。A/H1N1pdm09では3.3%にオセルタミビルとペラミビルに耐性を示す株が検出された。
臨床的観点からの成果
抗インフルエンザ薬の早期投与は肺炎の発症、重症化のリスクを減らし、入院期間を短縮することを示した。インフルエンザ肺炎におけるコルチコステロイドの早期投与はARDSへの進展を抑え、また、肺炎の治癒過程に悪影響を及ぼさないことを示した。劇症型心筋炎の救命には、体外式補助循環を躊躇せず使用することが必要である。A/H3N2およびB型ではノイラミニダーゼ(NA)阻害剤に対する薬剤耐性株の出現はみられず、また、解熱時間の検討からNA阻害剤の高い有効性が確認された。
ガイドライン等の開発
シーズン毎にインフルエンザ診療マニュアルを作成し、流行開始前に全国の医療関係者に配布した。その診療マニュアルはインフルエンザ診療の正しい知識の普及・啓発や治療の標準化・適正化に資するものと考える。新型インフルエンザの病態、死亡へのリスク因子、治療法についての研究成果を包括的視点で踏まえ、『新型インフルエンザ重症肺炎の概要と臨床対応策の検討』としてまとめた。日本循環器学会のガイドラインを基本としたインフルエンザ心筋炎の診断の手引き(案)を作成した。
その他行政的観点からの成果
新たなNA阻害薬(ペラミビル、ラニナミビル)の登場は投与経路、投与回数のバリエーションを増やし、現場の医師の選択肢の幅を広げた点で貢献しているが、本研究でこれらのNA阻害薬の使用状況、有効性の解析を行ったことは、臨床上大きなインパクトを与えたと思われる。
その他のインパクト
本研究班で行った薬剤耐性とその臨床効果の検討は世界的に高く評価されている。WHOのインフルエンザ専門家会議が2012年にNA阻害剤耐性の基準を作ったが、その際に本研究班の成果を参考にした。薬剤耐性のサーベイランスのみならず、臨床的な影響を合わせて検討した報告はほとんどないため、世界的に通用する質の高い研究となった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
インフルエンザ診療マニュアルの作成

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kawai N, Ikematsu H, Tanaka O, et al.
Comparison of the clinical symptoms and the effectiveness of neuraminidase inhibitors for patients with pandemic influenza H1N1 2009 or seasonal H1N1 influenza in the 2007-2008 and 2008-2009 seasons.
J Infect Chemother , 17 , 375-381  (2011)
原著論文2
Dapat IC, Dapat C, Baranovich T, et al.
Genetic characterization of human influenza viruses in the pandemic (2009-2010) and post-pandemic (2010-2011) periods in Japan.
PLoS ONE , 7 (6) , e36455-  (2012)
原著論文3
Saito R, Sato I, Suzuki Y, et al.
Reduced effectiveness of oseltamivir in children infected with oseltamivir-resistant influenza A (H1N1) viruses with His275Tyr mutation.
Pediatr Infect Dis J , 29 (10) , 898-904  (2010)
原著論文4
Shobugawa Y, Saito R, Sato I, et al.
Clinical effectiveness of neuraminidase inhibitors -oseltamivir, zanamivir, laninamivir, and peramivir for treatment of influenza A(H3N2) and A(H1N1)pdm09 infection: an observational study in the 2010-2011 influenza season in Japan.
J Infect Chemother , 18 (6) , 858-864  (2012)
原著論文5
Ukimura A, Ooi Y, Kanzaki Y, et al.
A national survey on myocarditis associated with influenza H1N1pdm2009 in the pandemic and postpandemic season in Japan.
J Infect Chemother  (2012)
10.1007/s10156-012-0499-z
原著論文6
Ukimura A, Satomi H, Ooi Y, et al.
Myocarditis associated with influenza A H1N1pdm2009
Influenza Research Treatment  (2012)
10.1155/2012/351979
原著論文7
Kudo K, Takasaki J, Manabe T, et al.
Systemic corticosteroids and early administration of antiviral agents for pneumonia with acute wheezing due to influenza A(H1N1)pdm09 in Japan.
PLoS ONE , 7 (2) , e32280-  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201225002Z