新型インフルエンザH1N1のウイルスの病原性等の解析に関する研究

文献情報

文献番号
201225001A
報告書区分
総括
研究課題名
新型インフルエンザH1N1のウイルスの病原性等の解析に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
信澤 枝里(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 高橋宜聖(国立感染症研究所 免疫部)
  • 西村秀一(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部)
  • 田中成典(神戸大学 工学部)
  • 松嵜葉子(山形大学 医学部)
  • 安武義晃(独立行政法人産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
19,998,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、新型インフルエンザ2009の病原性、抗原性に関する網羅的な解析を行い、得られた結果を治療や予防に役立て、国民の健康被害を最小限に抑えることを目的とする。24年度は、1. 新型インフルエンザ2009感染と喘息発作との関連を明らかにする。2. 新型インフルエンザウイルス2009(新型ウイルス)HAの抗原構造の詳細を明らかにし、抗原領域地図を完成させる、ワクチン接種者の接種後血清中和抗体が認識するHA抗原領域を同定する、ワクチン接種及び感染者の抹消血からB細胞を分取しmAbを作製し、新型ウイルスに対するヒト抗体のエピトープ構造の詳細を明らかにする。ワクチン接種により誘導されるヒト液性免疫応答(低/無抗体応答者の割合の把握等)の詳細を把握し、より効率的なワクチン接種法の開発に役立てる。新型ウイルスHAと中和抗体の相互作用に関する原子レベルでの詳細な情報を得る、計算機を用いた動力学シミュレーション実験により、HA-レセプターの相互作用に重要な役割を果たすアミノ酸残基の特定を行う。

研究方法
気管支喘息モデルマウスNC/Ngaに新型ウイルス感染と喘息発作誘発の時間的差による症状の増悪化を検討した。新型ウイルスに対するマウス単クローン抗体(mAb)エスケープ変異株の解析、ワクチン接種者の記憶B細胞から抗体遺伝子のクローニング、抗体蛋白の作製、新型ウイルスワクチン接種者の血清抗体のHI試験、HAに対する結合能の測定、高速高精度の計算機シミュレーションによるHA複合体中の全アミノ酸の相互作用に関する網羅的・系統的な解析、結晶構造解析法の構築を行った。
結果と考察
ウイルス感染後の喘息発作誘導で、BALF中の好中球数、好酸球数、ケモカインの産生が高くなり、逆に喘息発作後にウイルス感染した場合は、発作を誘導するとケモカインの産生は減少した。新型ウイルス感染後に喘息発作が起きると増悪化が認められ、その原因はケモカインの産生量の増加によることが明らかとなった。新型インフルエンザワクチン接種者の接種後血清が特異的に結合するHAの抗原領域(Sa, Sb, Ca1, Ca2, Cb)を同定した結果、約7割がSa+Sb及びCa2領域に結合し、約3割がCa1領域に結合した。また、大半の血清が複数の抗原領域に結合した。
A/Narita/1/2009株HAに対する16種類のマウスmAbを用いて、計800株のエスケープ変異株を分離し解析した。その結果、変異アミノ酸と変異箇所の異なる50種類のエスケープ変異株を同定し、このうち38株と16種のmAbの組み合わせで赤血球凝集抑制(HI)試験を行い、抗原領域地図を完成させた。ウイルス抗原に特異的なBリンパ球を単一化し、mAbを作製する技術開発に成功した。ワクチン接種者由来B細胞からmAbを作製し、交叉反応性を明らかにした。健常成人を対象に新型ワクチン接種後の免疫応答をHI試験にて確認した結果、低/無応答者が約2割存在した。また、50歳以上では低/無応答者が多いことを確認した。新型ウイルスHAとヒト型・トリ型レセプターの複合体構造で、HAの190, 225, 226番目のアミノ酸変異レセプターとの結合に及ぼす影響及び重要性を計算機実験により定量化した。抗原-抗体結合部位の詳細解析のため、新型ウイルスに対し中和活性のある2つのmAbの結晶化を試み、このうち1抗体の結晶化に成功した。しかし結晶が微細なため構造解析に用いる質の回折データ取得には至っていない。
結論
アレルギー素因を有するNC/Ngaマウスを用いて新型インフルエンザウイルス感染による喘息発作悪化の病態モデルを構築、解析し、病態形成機序を明らかにした。
新型ウイルスHAの抗原領域地図を作成し、新型HA特異的抗原構造の詳細を明らかにした。
新型ウイルスワクチン接種者の血清抗体が認識する新型HA抗原領域の詳細構造を明らかにした。
プラズマ細胞の抗体遺伝子からモノクローナル抗体を作製することに成功し、その中に、いくつかの交叉結合性を示す抗体を同定した。
新型ウイルスワクチン接種および感染に対し、低/無HI抗体価を示す集団の多くが、季節性インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチンに対しても低反応性を示すことが明らかになった。
分子動力学(MD)法とフラグメント分子軌道(FMO)法を用いた高精度計算機シミュレーションを行うことで、HA複合体内の分子間相互作用の定量的解析が可能であることを示した。
目的とするデータの取得にはいたらなかったものの、今後、結晶構造解析法と高速原子間力顕微鏡実験の組み合わせにより、抗原-抗体相互作用の詳細な解析が可能であることを示した。


公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201225001B
報告書区分
総合
研究課題名
新型インフルエンザH1N1のウイルスの病原性等の解析に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
信澤 枝里(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 高橋宜聖(国立感染症研究所 免疫部)
  • 西村秀一(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター 臨床研究部)
  • 田中成典(神戸大学 工学部)
  • 松嵜葉子(山形大学 医学部)
  • 安武義晃(独立行政法人産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、新型インフルエンザ2009の病原性、抗原性に関する網羅的な解析を行い、得られた結果を治療や予防に役立て、国民の健康被害を最小限に抑えることを目的とする。新型インフルエンザ2009は、喘息の既往歴のある患者で重症化が報告されているが、その病因は明らかではない。一方、新型インフルエンザウイルス2009(新型ウイルス)は季節性インフルエンザウイルスとしてヒトの間で感染を繰り返し、抗原変異を起こすと考えられた。そこで、本研究では気管支喘息モデル動物を用いて、重傷化の病態を解明する、新型ウイルスの抗原構造およびヒトの免疫応答を明らかにすることを目的とした。
研究方法
気管支喘息モデルマウスNC/Ngaに卵白アルブミン(OVA)でアレルギーを惹起した後、新型ウイルスを経鼻接種し、さらにOVAで喘息発作を誘発して、新型ウイルス感染による症状の増悪化を検討した。新型ウイルスに対するマウス単クローン抗体(mAb)エスケープ変異株の解析、ワクチン接種者の記憶B細胞から抗体遺伝子のクローニング、抗体蛋白の作製、新型ウイルスワクチン接種者の血清抗体のHI試験、HAに対する結合能の測定、高速高精度の計算機シミュレーションによるHA蛋白質内の全アミノ酸の相互作用に関する網羅的・系統的な解析、結晶構造解析法の構築を行った。
結果と考察
アレルギーモデルマウスに新型ウイルスを感染後、喘息発作を誘導することで、喘息発作が悪化する病態モデルの作製に成功した。新型ウイルス感染後に喘息発作が起きると増悪化が認められ、その原因はケモカインの産生量の増加によることが明らかとなった。
新型ワクチン接種者の接種後血清が特異的に結合するHA上の抗原領域を同定した。約7割がSa+Sb及びCa2領域に結合し、約3割がCa1領域に結合した。大半の血清は、複数の抗原領域に結合した。また、約5割の血清で反応性が低下するアミノ酸変異が一部の流行株でも確認されていた。本研究では、ヒト血清が認識する新型ウイルスHAエピトープ構造を明らかにし、新型ウイルス変異株がヒト血清により選択された可能性、流行規模に大きな影響を及ぼす部位の予測を行った。
A/Narita/1/2009株HAに対する16種類のマウスmAbを用いて、計800株のエスケープ変異株を分離、解析し抗原領域地図を完成させた。新型ウイルスHAの抗原領域の特徴として、旧H1HAの5つの領域のうちSa, Sbに相当する領域が重なっている、旧H1HAで1997年以降に欠失した147位のアミノ酸残基が新たな中和エピトープを構成することが示された。
健常成人を対象に新型ワクチン接種後の免疫応答をHI試験にて確認した結果、低/無応答者が約2割存在し、50歳以上では低/無応答者が多いことを確認した。20代健康成人感染者では、中和抗体価の上昇が確認されたが、ワクチン接種に対する低/無応答者は、中和抗体価の上昇も無/低だった。
新型HAとヒト型・トリ型レセプターの複合体構造で、アミノ酸変異が結合に及ぼす影響及び重要性を計算機実験により定量化した。1918年のスペイン風邪ウイルスに対するヒトmAbと過去のHA サブタイプの複合体構造を作成し、結合特異性に関する計算値と実験値との整合性を確認した。抗原-抗体結合部位の詳細解析のため、中和活性のある2つのmAbの結晶化を試みたが、結晶が微細なため構造解析に用いる質の回折データの取得には至っていない。一方、高速原子間力顕微鏡によるHA-mAb相互作用観察を試みたが、相互作用領域の詳細を議論する高品質のイメージを得る事はできなかった。
結論
アレルギー素因を有するNC/Ngaマウスを用いて新型インフルエンザウイルス感染による喘息発作悪化の病態モデルを構築、解析し、病態形成機序を明らかにした。
新型ウイルスHAの抗原領域地図を作成し、新型HA特異的抗原構造の詳細を明らかにした。新型ウイルスワクチン接種者の血清抗体が認識する新型HA抗原領域の詳細構造を明らかにした。プラズマ細胞の抗体遺伝子からモノクローナル抗体を作製することに成功し、その中に、いくつかの交叉結合性を示す抗体を同定した。新型ウイルスワクチン接種および感染に対し、低/無HI抗体価を示す集団の多くが、季節性インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチンに対しても低反応性を示すことが明らかになった。分子動力学(MD)法とフラグメント分子軌道(FMO)法を用いた高精度計算機シミュレーションを行うことで、HA複合体内の分子間相互作用の定量的解析が可能であることを示した。結晶構造解析法と高速原子間力顕微鏡実験の組み合わせにより、抗原-抗体相互作用の詳細な解析が可能であることを示した。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201225001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新型ウイルスA/H1N1pdm2009 HAの抗原領域地図を作成し、新型HA特異的抗原構造の詳細を明らかにした。新型ウイルスワクチン接種者の血清抗体が認識する新型HA抗原領域の詳細構造を明らかにした。計算機実験によりHA複合体内の分子間相互作用の定量的解析が可能であることを示し、また、結晶構造解析法と高速原子間力顕微鏡実験の組み合わせにより、抗原-抗体相互作用の詳細な解析が可能であることを示した。
臨床的観点からの成果
アレルギー素因を有するNC/Ngaマウスを用いて新型インフルエンザウイルス感染による喘息発作悪化の病態モデルを構築、解析し、病態形成機序を明らかにした。 ヒトプラズマ細胞の抗体遺伝子からモノクローナル抗体を作製することに成功し、新型インフルエンザワクチン接種者の中に、いくつかの交叉結合性を示す抗体を同定した。また、ワクチン接種及び感染者の中にHI抗体価の低い集団を同定した。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特に無し
その他のインパクト
該当無し

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
38件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
42件
学会発表(国際学会等)
28件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shirakura M, Kawaguchi A, Tashiro M et.al.
The HA and NA affects the antigen yield of influenza A(H1N1)pdm09 candidate vaccine viruses.
JJID  (2013)
原著論文2
Eri Nobusawa, K. Omagari, S. Nakajima et al.
Reactivity of human convalescent sera with influenza virus HA protein mutants at antigenic site A.
Microbiology and Immunology.  (2012)
原著論文3
Akio.Yoshioka, K. Takematsu, I. Kurisaki et al.
Antigen-Antibody Interactions of Influenza Virus Hemagglutinin Revealed by the Fragment Molecular Orbital Calculation
Theor. Chem. Acc.  (2011)
原著論文4
6. Kaori Fukuzawa, Katusmi Omagari, Katsuhisa Nakajima et al.
Sialic acid recognition of the pandemic influenza 2009 H1N1virus:binding mechanism between human receptor and influenza hemagglutinin
Protein and Peptide letters  (2011)
原著論文5
Ainai A, Tamura S, Suzuki T et al.
Characterization of neutralizing antibodies in adults after intranasal vaccination with an inactivated influenza vaccine
J Med Virol.  (2012)
原著論文6
Onodera, T., Y. Takahashi, Y. Yokoi et al.
Memory B cells in the lung participate in protective humoral immune responses to pulmonary influenza virus reinfection
Proc. Natl. Acad. Sci. USA  (2012)
原著論文7
Ichinohe T, Ainai A, Ami Y et al.
Intranasal administration of adjuvant-combined vaccine protects monkeys from challenge with the highly pathogenic influenza A H5N1 virus
J Med Virol  (2010)
原著論文8
Fujii, H., M. Ato, Y. Takahashi et al.
HIV-1 Nef impairs multiple T-cell functions in antigen-specific immune response in mice
Int. Immunol  (2011)
原著論文9
Matsuzaki, Y.,Sugawara, K., Nakauchi, M.ete.al.
Epitope apping of the hemagglutinin molecule of A(H1N1)pdm09 influenza virus by using monoclonal antibody escape mutants
J. Virology  (2014)

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
2017-06-02

収支報告書

文献番号
201225001Z