原因不明の精神遅滞の病態解明を目指した統合的ゲノム解析

文献情報

文献番号
201224123A
報告書区分
総括
研究課題名
原因不明の精神遅滞の病態解明を目指した統合的ゲノム解析
課題番号
H24-神経・筋-若手-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
林 深(東京医科歯科大学 硬組織疾患ゲノムセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 稲澤 譲治(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 分子細胞遺伝)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 精神遅滞(mental retardation, MR)は発達期における知的能力の障害によって特徴づけられる。全人口の約1~3%に存在し、長期的な医療ケアを必要とするにも関わらず、表現型(phenotype)から臨床診断がつくのは全体の約2割とされている。本研究の目的は、申請者らが蓄積してきたMR800症例以上のバイオリソース、genotype/phenotype情報、各種アレイや高速シークエンサーなどのゲノム解析技術の蓄積を基盤に、原因不明のMR症例から疾患原因遺伝子を同定して病態を明らかにし、新規疾患概念を確立することである。
研究方法
1.種々のゲノム解析手法による原因不明のMR症例の解析
病態不明であるMRの425症例を対象にSNPアレイを用いたスクリーニングを行い、微細CNVや片親性ダイソミー (UPD)を検出した。この結果を公的データベース、過去の論文報告、両親・同胞の解析の結果などと併せて検討し、疾患関連CNV, UPDを抽出した。

2.ゲノム構造変化を端緒とした疾患原因遺伝子探索
1.で検出されたCNV, UPDなどのゲノム構造変化による機能喪失が疾患原因となり得る遺伝子を文献、データベースなどを参照して抽出し、候補遺伝子とした。また、CNVのヘテロ欠失を対象とし、対側アリルに座位する遺伝子のcompound heterozygousの原因となるような変異の探索を行った。

3.オリゴヌクレオチドアレイを用いたCNV再解析とゲノム構造異常の探索
疾患に関連する可能性の高いpathogenic CNV (pCNV)を有するMR症例から70例程度を対象に、切断点近傍の詳細なシークエンスを行い、CNVが生成する機構を明らかにした。具体的には、Roche-Nimblegen社の高密度オリゴヌクレオチドアレイ (Human CGH Array 2.1Mb)を用いてpCNVを再解析し、切断点近傍をシークエンスして特異的な配列を明らかにし、ゲノム構造の面からMR発症の機序を塩基レベルで考察した。
結果と考察
結果
 平成24年度は、病態不明であるMRの425症例に加えて新規に収集した23症例、合計448症例を対象にillumina社のSNPアレイ (HumanOmniExpress)を用いた解析を施行した。その結果、病態との関連が疑われるCNVを62ヶ所に、UPDを1ヶ所に検出した。
 この検索から、特に単一遺伝子が疾患原因となっている可能性が高いものとして、シナプス安定への関与が動物モデルで示唆されているがヒトにおける疾患との関連は未報告であるGene Xの部分欠失、エピゲノム修飾に関わるGene Yの欠失を見いだした。また、MR症例においてCNVの対側アリルに座位するGene Zにナンセンス変異を検出し、Gene Zの複合ヘテロが疾患原因となっていることが強く示唆された。
 さらに、pCNVを有するMR症例23例を対象にオリゴヌクレオチドアレイによる再解析を行い、切断点近傍の配列をシークエンスし、構造の特徴を塩基レベルで明らかにした。この結果、相同配列を起因とするnon-allelic homologous recombination (NAHR)によって生じたCNVが3例、数bpの一致であるmicrohomologyに起因するmicrohomology mediated break-induced replication (MMBIR)が14例、DNA二本鎖切断を修復する過程で生じるnon-homologous end joining (NHEJ)が6例であった。

考察
 SNPアレイを用いたスクリーニングにより、448例に疾患に関連する62ヶ所のCNVと1ヶ所のUPDを検出したことから、効率よく原因不明のMRの疾患原因を探索し得たと考えられる。また、ここから3個の単一の疾患原因遺伝子候補を見いだした。
 一方、pCNVを生成する機構としては、特定の繰り返し配列に依存するNAHRよりも、配列非依存的に生じると考えられるMMBIRやNHEJの方が効率に存在していることが示された。このことは、非症候性であるMRの原因となるpCNVは、偶発的なゲノム再構成が原因となっていているとする従来の説を裏付けるものであった。
結論
 計画通りに原因不明であるMR症例のスクリーニングを行うとともにGene X, Y, Zの3遺伝子を疾患原因遺伝子候補として検出し、平成24年度達成目標「疾患原因遺伝子候補を数個程度に絞り込む」は、ほぼ達成されたと考えられる。
 これらの結果を受けて、平成25年度は疾患原因遺伝子候補の機能解析を施行し、遺伝子機能と表現型との関連を明らかにして行く予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224123Z