TGF-βシグナルに注目したCARASILの画期的治療方法の開発

文献情報

文献番号
201224122A
報告書区分
総括
研究課題名
TGF-βシグナルに注目したCARASILの画期的治療方法の開発
課題番号
H24-神経・筋-若手-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
野崎 洋明(新潟大学医歯学系)
研究分担者(所属機関)
  • 小野寺 理(新潟大学脳研究所)
  • 佐藤 俊哉(新潟大学脳研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy (CARASIL) はhigh temperature requirement serine peptidase A1 (HTRA1) の変異によって発症する劣性遺伝性の脳小血管病であり,HTRA1のプロテアーゼ機能低下によるtransforming growth factor β(TGF-β)シグナルの亢進により引き起こされる(Hara K et al. N Eng J Med 2009).有効な治療方法は開発されていない.
 本研究では,CARASILモデルマウスであるhtra1欠損マウスを用いて,脳内移行が良好でTGF-βシグナルの阻害作用を有するアンギオテンシンI型受容体拮抗薬カンデサルタンの脳小血管病変に対する治療効果を検討する.この検証のためには,脳小血管の形態変化とTGF-βシグナルの検出方法の確立,カンデサルタンと同等の降圧効果を持つ対照薬の選定が必要になる.本年度の研究では,これらを明らかにすることを目的とした.
研究方法
①脳の毛細血管のペリサイト障害の検索
22ヵ月齢以上の高齢のhtra1欠損マウス(n=4)と野生型マウス(n=4)から固定脳を取り出し,ペリサイトマーカーをCD13,血管内皮細胞マーカーをlectinとして,2重免疫染色を行った.共焦点顕微鏡で大脳皮質・海馬・線条体の毛細血管を撮影し,画像解析ソフトImarisで解析を行った.血管内皮細胞の体積を分母,それを取り巻く周皮細胞の体積を分子とし,その比をペリサイト被覆率として算出し,htra1欠損マウスと野生型マウスで比較した.
②TGF-βシグナル阻害薬であるカンデサルタンの長期投与実験
月齢4ヶ月と16ヶ月のHtra1欠損マウスと野生型マウスに対し,内服投与を開始した.カンデサルタンは既報と同様に濃度が1㎎/㎏/dayになるように調節した(Lanz TV, et al. J Clin Invest 2010).また,効果が不十分である可能性を考慮して,3 mg/kg/dayの投与群も作製した.降圧作用による効果ではないことを示すために,作用機序の異なる降圧薬であるCaチャネル拮抗薬のアムロジピンを対照とし,カンデサルタンと同程度の降圧作用となるように容量を調節した.
③免疫組織化学染色によるリン酸化smad2/3の検出
TGF-βシグナルレベルは,マウス脳スライスを用いたリン酸化smad2/3染色によって検討した.Htra1欠損マウス,野生型マウス脳それぞれのリン酸化smad2/3陽性細胞数を比較した.
④脳小血管のマイクロアレイ解析
血管内皮細胞を認識するPECAM1抗体を用いた毛細血管のpull-down法によって収集・精製した.マイクロアレイ解析はAffymetrix社のGeneAtlas systemを用いて行った.
結果と考察
①脳の毛細血管のペリサイト障害の検索
ペリサイト被覆率は大脳皮質,海馬,線条体の3部位で,htra1欠損マウスのほうが,野生型マウスに比べて有意に低下していた.また,毛細血管径は大脳皮質,海馬,線条体の3部位において,htra1欠損マウスのほうが野生型マウスに比べて有意に拡張していた.この結果は,CARASILの脳症の発症には毛細血管の機能異常が関わっている可能性を示唆する.
②TGF-βシグナル阻害薬であるカンデサルタンの長期投与実験
カンデサルタンの降圧作用は1.0 mg/kg/dayで平均13㎜Hg,3.0 mg/kg/dayで平均17㎜Hgであった.対照薬剤として用いたアムロジピン10 mg/kg/dayで平均15㎜Hgであった.両薬剤とも体重減少などの長期投与によるマウスへの毒性効果は認めなかった.これらの結果から,カンデサルタンは1.0mg/kg/dayと3.0mg/kg/day,対照となるアムロジピンは10mg/kg/dayでの投与を行うのが適当と考えた.
③免疫組織化学染色によるリン酸化smad2/3の検出
Htra1欠損マウス脳内ではリン酸化smad2/3陽性細胞数の増加が認められ,TGF-βシグナルの亢進が示された.
④脳小血管のマイクロアレイ解析
Htra1欠損マウスの脳小血管ではICAM-1をはじめとするいくつかの炎症性マーカー遺伝子の発現の増加が認められた.この結果は,htra1欠損マウスの脳症の発症機転に慢性炎症が関与する可能性を示唆している.
結論
CARASILモデルマウスにおける脳小血管の病理変化とTGF-βシグナルの異常が明確になった.また,カンデサルタンおよび対照であるアムロジピンの至適投与量を決定した.

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224122Z