神経再生性人工細胞外マトリクスを用いた神経疾患治療法の検討

文献情報

文献番号
201224121A
報告書区分
総括
研究課題名
神経再生性人工細胞外マトリクスを用いた神経疾患治療法の検討
課題番号
H24-神経・筋-若手-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
柿木 佐知朗(独立行政法人国立循環器病研究センター 生体医工学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会の急速な進展に伴い、内・外因性神経疾患は増加傾向にある。これらの治療法として、神経幹細胞移植や末梢神経再生などの組織工学が注目されている。内因性神経疾患については、人工多能性幹細胞や神経幹細胞およびそれらから分化誘導したドーパミン産生神経細胞の移植によってパーキンソン病モデル動物の治療効果を示唆する報告もあり、細胞移植の臨床応用は目前のごとく期待されている。しかし、分能が不安定な細胞の混入や移植幹細胞の癌化などが懸念されているうえに、細胞種に応じた最適な移植用担体も開発されていない。一方、神経損傷などの外因性神経疾患に対しては、神経再生誘導管が自家神経移植に代わる治療法として期待されているが、細胞移植と同じく神経再生に適した細胞外環境の提供によって治療効果が一層向上すると考えられる。このような現状を踏まえて、本研究では神経再生性人工細胞外マトリクスの細胞移植用担体および末梢神経再生誘導用基材としての応用を目指し、平成24年度は人工細胞外マトリクスの発現・精製条件の詳細な検討、ポリ乳酸との複合型ナノファイバー不織布およびチューブの作製と機能評価を行った。
研究方法
神経再生性人工細胞外マトリクスとして、研究代表者らが設計したラミニン-I由来神経突起伸長活性配列(AG73)とエラスチンの繰返し配列よりなる人工タンパク質(AG-VP)を大腸菌発現系にて生合成した。Overnight Express Auto-induction Systems(Merck社製)による発現後、精製にはHisタグ精製用カラムを用いて溶出液(イミダゾール緩衝液)の濃度を詳細に検討した。
AG-VP-ポリ乳酸複合ナノファイバー不織布は、ポリL-乳酸(Mw:10kDa)とAG-VPとの質量比を4:1として、溶質濃度が20w/v%となるように調製した1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールで混合溶液をエレクトロスピニング法で紡糸することによって得た。AG-VP-ポリL-乳酸複合ナノファイバー不織布の生理的な機能は、ラット副腎褐色腫細胞(PC12)の接着数および突起伸長挙動より評価した。
さらに、同様にエレクトロスピニング法で作製したAG-VP-ポリL-乳酸複合ナノファイバーチューブ(内径 2mm, 長さ2cm)をウサギ(NZW種)の脛骨神経に作製した2cmの欠損部へ両端吻合することによって移植し、2ヵ月後にチューブ移植部の近-遠位間の活動電位を測定することによって神経再生を評価した。
結果と考察
AG-VPを500mLスケールで発現誘導し、砕菌後、His-tag用アフィニティーカラムに吸着させて、低濃度から高濃度イミダゾール緩衝溶液で段階的に溶出させてSDS-PAGEで評価した。その結果、イミダゾールが40mM以上で多くのAG-VPが遊離されてくることが分かりイミダゾール濃度20mMでの洗浄と100mMでの溶出が最適な精製条件と判断した。限外ろ過による精製後、最終的に約50mg/1Lカルチャーの凍結乾燥AG-VP粉末を得ることができた。
エレクトロスピニング法によって直径が840nm程度の均一なAG-VP-ポリL-乳酸複合ナノファイバーを作製することができた。このナノファイバー不織布はリン酸緩衝溶液に浸漬させても形状等は全く変化せず、生理的条件下において安定であることを確認した。AG-VP-ポリL-乳酸複合ナノファイバー不織布上にPC12細胞を播種したところ、ポリL-乳酸のみもしくはAG73ペプチドを混合したナノファイバーと比較して有意に細胞の接着数および突起伸長活性が向上した。
さらに、ウサギの脛骨神経に作製した2.0cmの欠損部位にAG-VP-ポリL-乳酸複合ナノファイバーチューブを移植して2ヵ月後に活動電位を測定したところ、ポリL-乳酸のみおよびAGペプチドを混合したナノファイバーチューブと比較して電位のピーク強度は大きく、かつその時間も早くなっていた。AG-VPの効果によって、AG-VP-ポリL-乳酸複合ナノファイバーチューブ内部で神経再生が促進されたものと考えられる。
結論
本研究課題の初年度では、神経再生性人工細胞外マトリクスの発現条件の最適化を完了した。現状の発現量は必ずしも満足するものではないため、発現用コンスロラクトの再設計を検討する必要がある。さらに、AG-VPとポリL-乳酸の複合ナノファイバー不織布よりなる末梢神経再生誘導チューブを作製することができた。このチューブを移植したウサギ脛骨神経欠損において神経再生の僅かな促進が見られた。一層の機能向上のためには、ファイバーの配向性やAG-VPの複合組成比などを検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224121Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,300,000円
(2)補助金確定額
4,300,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,696,050円
人件費・謝金 0円
旅費 441,910円
その他 173,010円
間接経費 992,000円
合計 4,302,970円

備考

備考
差額分(2970円)は、自己資金を充てて対応した。

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-