慢性疲労症候群の実態調査と客観的診断法の検証と普及

文献情報

文献番号
201224120A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性疲労症候群の実態調査と客観的診断法の検証と普及
課題番号
H24-神経・筋-指定-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
倉恒 弘彦(関西福祉科学大学 健康福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 谷畑 健生(厚生労働省国立保健医療科学院健康危機管理部疫学調査分野)
  • 福田 早苗(大阪市立大学大学院医学研究科・予防医学・疫学)
  • 稲葉 雅章(大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学)
  • 野島 順三(山口大学大学院医学系研究科・生体情報検査学・免疫学、血栓・止血学)
  • 近藤 一博(東京慈恵会医科大学医学部ウイルス学講座・ウイルス学、分子生物学)
  • 伴 信太郎(名古屋大学医学部附属病院・総合診療医学講座・総合診療医学)
  • 下村 登規夫(独立行政法人国立病院機構さいがた病院、神経内科学)
  • 久保 千春(九州大学大学病院、心療内科学)
  • 松本 美富士(藤田保健衛生大学医学部(七栗サナトリウム内科)、内科学、リウマチ学、臨床疫学)
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学医学系研究科(難病治療研究センター))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究ではCFS患者の診療を行っている医療機関を対象にCFS患者における日常生活の問題の程度の実態調査を行うとともに一般地域住民を対象に疫学調査を実施し、CFS患者の有病率や生活における問題点を明らかにする。また、昨年度に発表した疲労の客観的診断方法の検証を行うとともに、CFS臨床診断基準の項目や表現法についても検討し、医師が臨床の現場で活用しやすいCFS診断基準の確立を目指した。
研究方法
日本において慢性疲労を診療・研究している6施設におけるCFS患者の実態調査を実施した。調査項目は性別、年齢、初診年月日、診断年月日、PS評価、身長・体重、発症年齢、診断基準、発症時の感染症の有無、服薬状況、転帰等である。また、疫学調査は一般地域住民2,000名を対象とした。調査内容は、1999年調査内容を含む項目に設定した。具体的には、疲労の有無、その理由、休息による回復の有無、疲労の程度、持続期間、各種の症状、既往歴、喫煙、飲酒、等の生活習慣因子、服薬状況、PS評価、Chalderの疲労尺度、CFSの診断基準に対応した症状項目、うつ病自己評価尺度(CES-D)、FP (Fatigue-related problem) scale、痛みに関する項目、CFSに関する知識等とした。さらに、平成23年度に報告した客観的疲労評価法(身体活動量評価から得られる睡眠時間、身体活動量評価から得られる覚醒時平均活動量、自律神経機能評価のHFパワー値、単純計算課題評価の反応時間メディアン(繰上有)、酸化ストレス評価の抗酸化力検査)についての再検証を実施した。また、平成23年度研究班CFS臨床診断基準の内容についても検討した。
結果と考察
CFS患者の実態調査:CFS患者の実態としては、家族との同居例が70%、子どもはなしが、70%、有業者割合は40%であるが、そのうちには短時間や非正規、アルバイト、在宅労働なども含まれることから、正規労働者として勤務している例は更に少ない。どの程度の日常生活ができているのかを表しているPSについては、医師評価と自己評価の中央値は変わらなかったが、完全に一致することはなく、自己と医師の評価には乖離がある事例も認められた。CFS罹患後最も悪かった時の中央値は6、現在は5であり、最悪時よりは現在は少し改善していた。PS2以下まで改善して休むことなく学校や会社に通うことができているものも、医師の判断では7.5%、自己申告では20%認められた。しかし、極めて多くの患者は社会復帰ができるような回復はみられておらず、PS7以上の状態が続いており、最低限の国民生活を営むためには社会的な支援が必要であると思われる患者も1/4近く認められた。初診後のPSの変化でみてみても、良好化、変化なしがそれぞれ半数ずつで、CFSに対する治療を受けていても回復がみられない患者が半数近く存在することも明らかとなった。
客観的検査の再検証:CFS患者の陽性率(感度)に関してはa)総睡眠時間、c)自律神経のHFパワー値、d)単純計算課題の繰上有の反応時間メディアンは昨年とほぼ同様であり、b)平均活動量に関しては18.8%上昇しており、ほぼ妥当な結果であった。e)抗酸化力BAP の感度に関しては、昨年と比較すると22.6%低下していたが、この原因としては今回の調査においてはCFS症例の重症度が関係している可能性がある。実際、表3に示す重症度別の解析では、中等度群は45.9%が陽性であるのに対し、重症群は66.7%が陽性であった。PS評価を組み合わせることにより、精度が向上することが明らかである。また、PS評価との組み合わせにより、CFSと判定されるCFも減少することも判明した。この結果は、特に初診時に、医師の診断の補助として、このような客観評価が有効であることを裏付けている。
疫学調査:CFSの有病率は1999年度調査では0.3%(8/3,015)であったが、今回の調査では旧厚生省CFS診断基準を用いた場合はCFSと診断される可能性があるものが0.2%(2/1,149)、平成23年度研究班CFS臨床診断基準を用いた場合は0.1%(1/1,149)で、一般地域住民の中に原因不明の慢性的な疲労で日常生活、社会生活に支障をきたしているものが少なからず存在していることが明らかになった。平成23年度研究班CFS臨床診断基準については、臨床医が診療現場で用いることのできるように一部を変更し、診断基準をわかりやすいように表としてまとめた。
結論
慢性的な疲労病態を評価する客観的な評価法を検証するとともに、医療機関に慢性疲労を訴える患者が受診した場合に、診断の手引きとなるCFS診断基準を検討し、更に精度の高いものとして改良した。また、CFS患者の実態や一般集団におけるCFS有病率などを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224120C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 イギリスやカナダでは、CFSを筋痛性脳脊髄炎と呼んでいるが、これまでは脳脊髄炎を裏づける科学的な臨床データは得られておらず、脳脊髄炎の有無は診断上の大きな問題となっていた。我々は、CFS患者に対して、世界に先駆けて脳内炎症の有無を検出できるリガンドを用いたPET解析を行い、中脳や視床の一部に明らかな炎症が存在することを確認した。また、メタボローム解析により、CFS患者ではエネルギー代謝系にも異常が存在することを明らかにしており、学術的意義は極めて高い。
臨床的観点からの成果
本研究では、平成23年度に発表した客観的に疲労を評価するための種々の検査法について再検証し、その有用性、簡便性を確認したことにより、primary care を担っている施設における1次評価施設の拡充、疲労専門病院における2次評価が可能となり、本研究の目的は達成された。一般地域住民に対する疫学調査では、旧厚生省CFS診断基準を用いた場合はCFSと判定される可能性のあるものが0.2%、平成23年度研究班により発表された新たなCFS臨床診断基準を用いた場合は0.1%みられることも明らかにした。
ガイドライン等の開発
平成23年度、我々はこれまで日本において用いられてきたCFS診断基準(1992年、厚生省CFS研究班:木谷照夫)で取り上げられている臨床症状を最近の世界基準と一致するように修正するとともに、世界で初めて疲労を客観的に評価する手法を取り入れた診断基準を発表した。今年度は、その客観的な評価系の有用性を示すとともに、一般診療に従事している医師がより使いやすいように臨床診断基準を改良した。日本における疲労診療の礎となる重要なガイドラインであり、作成意義は極めて高い。
その他行政的観点からの成果
CFSと診断された患者の予後調査を行ったところ、半数近くの患者が治療を受けても回復がみられず、1/4の患者はPS7以上の状態が持続し、最低限の生活をおくるためには社会的な支援が必要であることが確認された。また、一般地域住民を対象とした疫学調査の結果、 CFS患者は0.1~0.2%存在することも明らかになり、今後CFS病態を診療してくれる医療体制を整えることや、重症のCFS患者に対しては公的な扶助を行う必要があることなどが明確となり、厚生労働行政における意義は極めて大きい。
その他のインパクト
厚生労働省研究班代表研究者として、慢性疲労症候群の日本における実態や、病因・病態・対処法、新たなCFS診断基準の特徴などについて取材を受けて解説した(日本経済新聞 夕刊 7面(2012年 4月20日)、毎日新聞(青森版)(2012年8月25日)、中国新聞朝刊22面(2012年8月26日、共同通信の取材のため、同様の報道が他に12社(8/27~9/9))、毎日新聞 22面(2012年11月27日)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Fukuda S, Kuratsune H, Kajimoto O, et al.
Fatigue-related Problem Scale for better understanding of pathophysiology of chronic fatigue syndrome: discriminating from fibromyalgia and related pain.
Advances in Neuroimmune Biology  (2012)
online first, 2012
原著論文2
Fukuda S, Horiguchi M, Kuratsune H, et al.
Association of monoamine-synthesizing genes with the temperament of chronic fatigue syndrome patients.
Life Sciences , 92 (3) , 183-186  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201224120Z