顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーのエピジェネティック病態解明と革新的治療法の開発

文献情報

文献番号
201224116A
報告書区分
総括
研究課題名
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーのエピジェネティック病態解明と革新的治療法の開発
課題番号
H24-神経・筋-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
田中 裕二郎(東京医科歯科大学難治疾患研究所遺伝生化学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(Facioscapulohumeral muscular dystrophy, FSHD)は、進行性筋ジストロフィーの中で三番目に多く、約2万人に一人が発症する。第4番染色体テロメア近傍のD4Z4反復配列の短縮に伴ってdux4ホメオボックス遺伝子が異常発現することが原因のひとつと考えられている。2012年に我々のグループから、dux4の活性化にクロマチン制御因子ASH1が関わることが明らかにされた。本研究は、ASH1によるdux4遺伝子発現制御の分子機構に焦点をあて、FSHDの病態解明とそれに基づく治療法の開発を目指している。また、簡便な診断法を開発することにより、本邦に於けるFSHD患者の早期発見・早期治療への道を開くことも重要な課題とする。
研究方法
【dux4遺伝子のプロモーター活性解析】FSHD患者では第4番染色体テロメア近傍のD4Z4反復配列が正常の約100コピーから10コピー以下に短縮する。その5’末端の非欠損領域NDE(Non-deleted element)を含む約1KbのDNA断片をルシフェラーゼ発現ベクターにクローニングし、MLL及びASH1発現ベクターを用いて転写制御機構を解析した。
【ZFNによるASH1遺伝子ノックアウト】ash1遺伝子やdux4遺伝子の機能を抑制した場合、筋細胞分化がどのような影響を受けるか検証するため、Zinc Finger Nuclease (ZFN)型DNA切断酵素を合成し、4種について活性を測定した。また、ZFNを哺乳類細胞発現ベクターにクローニングし、ヒト由来がん細胞株に導入してash1遺伝子の変異誘導効率を検討した。
【リコンビナントPhi29DNAポリメーラーゼの合成】D4Z4はGC含有率が極めて高いため、通常のPCRでは増幅できない。そこで、高活性型Phi29DNAポリメラーゼの発現ベクターを作成し、リコンビナント酵素を合成した。
【超微量ヒストン修飾酵素活性の定量】dux4遺伝子がエピジェネティックな制御を受けるという事実は、ヒストン修飾酵素阻害剤がFSHDの治療手段となることを意味している。そこで、FRET標識ペプチドとリジルエンドペプチダーゼを用いたヒストン修飾酵素活性定量法を改変し、ヒストン修飾酵素選択的低分子化合物阻害剤のハイスループットスクリーニング系を構築した。
結果と考察
 本研究の初年度の課題として最も重要なdux4遺伝子のNDE領域のプロモーター活性を確認することが出来た。dux4はin vitroでASH1に反応することが確認された遺伝子としてはHox遺伝子以外では始めてのものである。ASH1はヒストンH3リジン36(K36)選択的なメチル化活性を持ち、ゲノムのASH1結合部位はK27と排他的関係にあることがこれまでの我々の研究から明らかになっている。NDEレポーターを用いることにより、今後NDEに於けるASH1反応配列の決定、K36・K27を中心とするエピジェネティック制御因子による転写制御機構の解明を通して、FSHDに於けるdux4異常発現の分子機構の理解が進むと期待される。
 ヒト細胞でのASH1遺伝子ターゲティングには、まだ技術的課題が残されている。ホモロジー・アームを長くする、DTAによるネガティブ・セレクションを加えるといった検討を行なっているが、今後FSHD患者由来の初代培養筋芽細胞でASH1遺伝子をノックアウトするには更に困難が予想される。場合によっては、ノックダウンによるアプローチも並行して検討するべきかも知れない。
 FSHDの遺伝子診断に向けて、Phi29Hリコンビナント酵素の合成に成功したので、今後ヒトゲノムからD4Z4領域を増幅するための条件検討を行う予定である。ただしFSHDの責任領域である第4番染色体は、第10番染色体にも極めて相同性の高い領域が存在し、その他にもD4Z4配列と相同性の高い断片がヒトゲノムには複数存在するので、その中から如何に第4番染色体を選択的に増幅するかが課題となる。
 FSHDの治療法の一つとして、エピジェネティック制御因子の選択的阻害剤が考えられる。そのために、低分子化合物のハイスループットスクリーニングに適した超微量ヒストン修飾酵素活性測定法を開発した。ただし、分子センサーとしてのリジルエンドペプチダーゼのヒストン修飾感受性を更に改善するなどの課題も残されている。
結論
 本研究の目的であるFSHDの病態解明,診断法及び治療法の開発に向けて、それぞれNDEレポーターの構築、リコンビナントDNA合成酵素(Phi29H)の産生、エピジェネティック制御因子の選択的阻害剤スクリーニングの為の基盤確立に成功した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224116Z