エクソン53を標的としたデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソン・スキップ治療薬の開発

文献情報

文献番号
201224112A
報告書区分
総括
研究課題名
エクソン53を標的としたデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソン・スキップ治療薬の開発
課題番号
H23-神経・筋-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
武田 伸一(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 永田哲也(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
  • 岡田尚巳(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所遺伝子疾患治療研究部)
  • 小牧宏文(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院 小児神経診療部)
  • 木村 円(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナル・メディカルセンター 臨床研究支援部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
18,617,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)に対する根治的治療法として、アンチセンス・オリゴヌクレオチド(AO)を用いたエクソン・スキップ治療の開発が進行している。我々はこれまでモデル動物での有効性を示し、これを受けて対象患者数が最多のエクソン51スキップについては既に治験が開始されている。次いで対象患者が多いとされるエクソン53スキップについて、我々は企業との共同研究を経て有効なモルフォリノAO配列を決定し、当該配列について国産初のアンチセンス医薬品としての承認を得るべく開発を進めている。本研究はこの開発過程で計画された医師主導による早期探索的臨床試験実施に必要な、基礎的なデータの確保(非臨床での薬理薬効試験等)、有効性評価手法の確立、さらにエクソン・スキップ治療の応用範囲の拡大を目的とした基盤的なデータの収集を目的として実施した。
研究方法
1. エクソン・スキップ治療後のジストロフィン発現の定量的評価を、モデルマウス(mdx52)を用いた二重免疫蛍光染色により検討した。
2. DMD患者由来線維芽細胞を用いたin vitroでのエクソン・スキップ評価手法について、レトロウイルスまたはレンチウイルスによる筋分化誘導法により検討した。
3. 臨床的有効性と適応患者数の拡大が期待できるエクソン45-55マルチ・スキップの可能性について、mdx52マウスに対するビボ・モルフォリノ投与により検討した。
4. 筋線維へのモルフォリノの取り込み機序について、mdx52及び正常マウスを用いて検討した。
5.イントロン領域を含むジストロフィンのエクソン53及び51を挿入したGFPベクターを構築し、エクソン・スキップのin vitroでの可視化について検討した。
結果と考察
1. DMD患者由来線維芽細胞にレトロウイルスおよびレンチウイルスを用いてMYOD遺伝子を導入して筋分化を誘導した。これによりジストロフィン遺伝子の発現が増加し、モルフォリノ投与による効果をRT-PCR、ウエスタンブロットで検出することができた。臨床試験に適用する際には、2種類のウイルスの使い分けについて検討する必要があると考えられた。
2. エクソン・スキップ治療を行ったmdx52マウスにおいて、新たに発現したジストロフィンタンパク質を二重免疫蛍光染色により定量することが可能であった。このことから、臨床試験においても同様の定量が可能なことが示唆された。しかしヒト検体での応用に際しては、用いる抗体の種類を変更する必要があることなどから、本手法の適用は慎重に行う必要があると考えられた。
3. mdx52マウスを対象に、エクソン52を除くエクソン45-55に対して設計したビボ・モルフォリノを局所投与並びに全身投与した結果、mRNAではジストロフィンのエクソン45-55の10個のエクソンがスキップし、免疫染色及びウエスタンブロットでは短縮型ジストロフィンの発現が確認された。また臨床的には筋機能の回復も認められた。
4. 筋線維に脆弱性を有するmdx52マウスにおいて、モルフォリノは筋再生が活発な時期に効率的に取り込まれた。また正常マウスのように筋線維に脆弱性を有しない個体でも、筋再生時には線維内に取り込まれることが示唆された。
5. 構築したGFPベクターはGFP遺伝子の内部にジストロフィンのエクソンが挿入されており、通常では蛍光を生じないが、モルフォリノ投与によりエクソン・スキップが誘導されると蛍光が観察された。このベクターにより、エクソン・スキップを誘導する効果的なAO配列や新たな化合物のスクリーニングが簡便化される可能性が示唆された。
結論
エクソン53スキップの早期探索的臨床試験の実施に向け、治験薬の有効性及び被験者の適格性判定に活用できるin vitroでの評価手法、また治験薬を投与された被験者におけるジストロフィンタンパク質の発現を定量的に評価可能な二重免疫蛍光染色法について一定の知見を得た。これらは計画中の臨床試験において直接的に活用される成果である。一方、エクソン・スキップの応用範囲の拡大を考える上で重要な基盤的研究の成果も得た。エクソン45-55スキップは、理論的には欠失変異を有するDMD患者の60%以上が1パターンのAOの組合せで治療可能な手法であり、同様の変異を有する患者が軽症であることから、臨床的な改善も充分期待できる。またこれまで不明であったモルフォリノの取り込み機構に関しては、筋再生が重要な要素であることを明らかにし、筋疾患全般に対しAOが応用可能であることを示唆した。さらにGFPベクターによるエクソン・スキップの可視化については、有効なAO配列の探索を加速させる可能性を秘めており、広範に応用可能な技術と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224112Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
24,200,000円
(2)補助金確定額
24,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,696,313円
人件費・謝金 8,611,593円
旅費 376,760円
その他 5,932,334円
間接経費 5,583,000円
合計 24,200,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
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