アンチセンスによる筋強直性ジストロフィーの治療の最適化

文献情報

文献番号
201224109A
報告書区分
総括
研究課題名
アンチセンスによる筋強直性ジストロフィーの治療の最適化
課題番号
H23-神経・筋-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
石浦 章一(東京大学 大学院総合文化研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西野一三(国立精神・神経医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
12,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 筋強直性ジストロフィー1型(DM1)の原因は、第19染色体にあるDMPK遺伝子の3’非翻訳領域にあるCTGリピートの伸長で、症状は、筋強直(ミオトニア)、精神遅滞、精巣萎縮、白内障、耐糖能異常などの全身性である。分子レベルでは、数多くの遺伝子のスプライシングが異常になっており、このために全身症状が出現すると考えられている。本症は我が国の筋ジストロフィーの中では一番多く、筋力低下やミオトニアなどの治療法の開発が望まれていて、QOLの改善が最終目標である。
 平成23年度は、塩素チャネル遺伝子を指標に、スプライシングを正常化させるアンチセンスを効率良く筋肉に導入する方法の開発に力を注いだ。また平成24年度は、アンチセンスの効果をモデル動物のミオトニアという指標によって評価した。また、塩素チャネルではなく、CTGのアンチセンスを用いることによって、全身で起こるスプライシングの異常を正常化することも試みた。
研究方法
・アンチセンス投与法
 人工的に作成した塩素チャネル・ミニ遺伝子(エキソン6、7A、7でできている短い遺伝子)を用いて、エクソン7Aの有無を定量するスプライシングアッセイを行った。エクソン7Aがない成人(正常)型と、エクソン7Aを含む幼若(異常)型の比率は、正常筋では圧倒的に前者が多く、DM筋では後者が増えている。エクソン7Aの0~25をコードするモルフォリノアンチセンスオリゴを、塩素チャネル・ミニ遺伝子とともにCTG300を持つトランスジェニックマウスHAS-LRのtibialis anterior (TA)筋に1回注射した。このときのアンチセンス配列は、エクソン7Aの0~25に対するものであり、細胞系では最もエクソン7aスキッピングが起こりやすくなるものである。最後の注射から2日後に、mRNAを抽出し、スプライシング頻度を測定した。このとき、モルフォリノオリゴ(10μg)はバブル・リポソームとともに筋注した(全30μl)。その後、0-3 Wの出力で超音波を0.5-3分照射し、筋内にアンチセンスを導入した。
 アンチセンスの効果は、ミオトニアの定量で行った。また、CTGに対するアンチセンスは、vivoモルフォリノを用いた。
結果と考察
 前年度の研究より、バブル・リポソームを用いるデリバリー法の場合、1Wの出力で超音波を1分間照射が最適条件であることが分かっているので、今回はこの条件を用いた。
 その結果、エクソン7Aの挿入した幼若型の塩素チャネルの発現が25%に低下していることが分かった。また、マウス塩素チャネルに対する抗体で染色した結果、変異マウスでは細胞膜に局在しているものは少なく、パッチ状に存在していた。アンチセンス投与後は、きれいに細胞膜局在が見られた。
 このとき、マウスのミオトニアが治るかどうかも検討した。筋電図によれば、ミオトニアの継続時間が低下し、明らかに症状軽減の効果が認められた。
 次に、CTGリピートに対するCAGアンチセンスを同様に投与したところ、塩素チャネルのスプライシングが正常化したが、その割合は塩素チャネルアンチセンスに比べて少なかった。また、アンチセンスの効果にリピートの長さが関係していることが判明し、最適化には多くの条件検討が必要であることも明らかになった。
 平成24年度の研究では、アンチセンスを用いることによって、ミオトニアという症状も軽くなるということが分かった。これは臨床研究にとって重要で、スプライシングが正常化するだけではなく、症状も治ることがわかったのである。また、単なる筋注よりも、バブル・リポソームを用いた方がアンチセンス導入の効率が良いことが明らかになった。
 一方、本症では多くの症状が一度に出ており、ミオトニアだけを治療しても完治したとは言えない。そこで、最終年度に向けて病気の本質を断ち切るCTGに対するアンチセンス導入の検討も行った。条件検討が難しかったが、CAGの長さが短い方がアンチセンス効果が高いことが判明した。
結論
 新しいアンチセンスとバブル・リポソームに組み合わせにより、筋強直性ジストロフィーのモデルであるCTGリピートを300含むトランスジェニックマウスHAS-LRに対して、有効な治療効果を得ることができた。また、スプライシングを正常化するだけではなく、ミオトニア症状までも軽くなることが分かった。今後は、CTGに対するアンチセンス治療の条件を検討し、臨床治験に向けての最適化を図りたい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224109Z