細胞表面認識分子の異常により引き起こされる新規ヒトてんかんの同定と,その病態進展機構の解明、および診断法・治療法の開発

文献情報

文献番号
201224108A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞表面認識分子の異常により引き起こされる新規ヒトてんかんの同定と,その病態進展機構の解明、および診断法・治療法の開発
課題番号
H23-神経・筋-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
星野 幹雄(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 病態生化学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤 雄一(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部)
  • 伊藤 雅之(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部)
  • 早瀬 ヨネ子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 病態生化学研究部 )
  • 中尾 啓子(埼玉医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
13,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
イハラてんかんラット(IER)の原因遺伝子を確定し、さらにその発症・病態進展機構を明らかにすること。また、IERに相当するヒト疾患を新たに同定し、将来の診断法や有効な治療法の開発に道を拓くこと。
研究方法
Zinc Finger Nuclease(ZFN)法を用いて、Epi-IER遺伝子のノックアウトラットを作製し、その表現型がIERと同様なのかどうかについて調べる。野生型ラットおよびIER由来の海馬初代培養細胞の長期培養によって、神経突起の束化が起こるかどうかを観察し、またEpi-IERの遺伝子導入によってレスキューできるかどうか観察する。PDG-PETおよび脳波計測によって、IERのてんかん発作の焦点を探索する。国立精神神経医療研究センターの『精神遅滞てんかんリサーチリソース』にRNAおよびcDNAのバイオリソースを加え、そこからヒトEPI-IERの発現量の異常を示す症例を抽出し、ヒト疾患の同定を目指す。
結果と考察
ZFNをラット受精卵に injectionし、Epi-IERの6系統のノックアウトラットを得ることができた。これらの系統1~6では いずれもIERとの combined heteroでIERと同様な網膜および海馬形態における表現型が観察された。IERもこれらの ZFN ratsもいずれもwild typeとの heteroではこれらの表現型は観察されないの(劣性変異)であるが、 IER/ZFNの combined-hetero変異体では表現型が出現したため、 IERの原因遺伝子は Epi-IERであるとの確認が得られた。
 Epi-IERの発現を失うIERの海馬初代培養を長期培養すると、神経突起の束化形成が認められた。この束化は、IERか初代培養細胞にEpi-IER遺伝子を導入することでレスキューできたため、Epi-IERが神経突起の束化抑制に働いていることが明らかになった。
  FDG-PETにおいて、IERでは海馬ではFDGの取り込みが減少しており、扁桃体からの出力路(線条体・BNST (Bed Nucleus of Stria Terminalis)で強いFDGの取り込みが上昇していた。また、IERでは脳波的には 発作の initial spikeが扁桃体から出現することが多いことがわかった。その次に頻度が高いのが海馬であった。これらは、IERの発作焦点が扁桃体や海馬であることを示唆している。
 構築されたcDNAバイオリソースを用いて、定量RT-PCR法によって、各症例のリンパ芽球におけるEPI-IER遺伝子の発現量を定量した。平成24年度末時点において、98家系255サンプルについて real time PCRを行い cDNA量を定量した。次年度以降も引き続き残りの症例における発現量の定量を続ける。また、この中よりEPI-IER cDNA発現量の低い家系を選択して家系内でのEPI-IERの発現量を比較した。すると、同じ家系でも健常人では発現が正常なのに、患児では発現が極端に低下する例が認められたため、これが候補の症例となりうると考えられた。
結論
ZFNによるノックアウトラットを作製することにより、Epi-IERをIERの原因遺伝子として完全に確定することに成功した。Epi-IERが、神経突起の伸長と分岐だけでなく、神経突起の束化抑制にも関与していることを明らかにした。また、FDG-PET実験により、IER脳活動が、扁桃体からの出力系で亢進していることを見いだした。また、発作時の脳波測定から、IERの発作焦点は主として扁桃体であること(一部は海馬)が明らかになった。
 これまでの精神遅滞リサーチリソースに、さらにRNA・cDNAバイオリソースを加えることができた。また、そのcDNAリソースを用いることで、EPI-IERの発現量の解析を開始することができた。そして、精神遅滞を伴うてんかん症例の中で、EPI-IERの発現量が極端に低下する症例を見いだし、さらに同家系の健常人との発現比較を行った。次年度も引き続き解析を行い、EPI-IER遺伝子の異常によるヒト精神遅滞あるいはてんかん症例の同定に努めて行きたい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224108Z