中枢神経症状を伴う筋疾患α-ジストログリカノパチーの分子病態と治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
201224107A
報告書区分
総括
研究課題名
中枢神経症状を伴う筋疾患α-ジストログリカノパチーの分子病態と治療法開発に関する研究
課題番号
H22-神経・筋-若手-021
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
萬谷 博(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所))
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,826,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 福山型先天性筋ジストロフィー症(FCMD)、Muscle-eye-brain病(MEB)、Walker-Warburg症候群(WWS)は中枢神経系の障害を伴う先天性筋ジストロフィー症である。これらの疾患はジストロフィン糖蛋白質複合体の構成分子であるα-ジストログリカンのO-マンノース型糖鎖不全を起因とし、α-ジストログリカノパチーと総称される。本研究では、α-ジストログリカノパチーの原因遺伝子産物及びO-マンノース型糖鎖の機能を解明することで、病態解明から診断・治療法への応用を目指している。
 我々はこれまでに、MEBとWWSの原因遺伝子産物Protein O-linked mannose β1,2-N-acetyl glucosaminyltransferase 1(POMGnT1)とprotein O-mannosyltransferase 1(POMT1)及びPOMT2がO-マンノース型糖鎖の生合成に関わる糖転移酵素であることを明らかにしている。
 O-マンノース型糖鎖の合成開始酵素であるO-マンノース転移酵素は2つのサブユニットPOMT1とPOMT2の複合体として小胞体(ER)膜に局在し、ドリコールリン酸マンノース(Dol-P-Man)を糖供与体としてタンパク質のSer/Thrにマンノースを転移する。ER膜にはDol-P-Manを供給するDol-P-Man合成酵素(DPM)も局在しており、DPMは3つのサブユニットDPM1、DPM2、DPM3からなる複合体である。
 最近、α-ジストログリカノパチー様の症状を呈するDPM3遺伝子の変異が報告され、O-マンノース型糖鎖の合成が選択的に抑制されていることが示された。Dol-P-ManはO-マンノース型以外にも、N型糖鎖、C-マンノース型糖鎖、GPI-アンカー型糖鎖の合成に利用されることから、一般的にDPMの異常は広範囲な糖鎖異常として現れると予測される。実際、DPM1を原因遺伝子とする先天性グリコシル化異常症Ie型(CDG-Ie)では、Dol-P-Manを利用する全ての糖鎖で異常が検出される。DPM3遺伝子変異による疾患はCDG-Ioに分類され、比較的軽度なα-ジストログリカノパチーに相当し、筋ジストロフィー症状を呈するが、脳の障害はほとんど認められないという臨床症状が報告されている。生化学的にはα-ジストログリカンのO-マンノース型糖鎖不全として検出され、他のタイプの糖鎖への影響は少ない。このことから、DPM3がO-マンノース型糖鎖の生合成に選択的に関与している可能性が考えられる。そこで本年度は、POMT1およびPOMT2とDPM3の複合体形成について検討した。
研究方法
HEK293T細胞にPOMT1およびPOMT2とDPM3を共発現し、免疫沈降法により複合体の形成の有無を調べた。POMT1とDPM3にはそれぞれMycタグとHSVタグの融合タンパク質を使用し、免疫沈降には抗mycタグ抗体および抗HSVタグ抗体を使用した。また、CDG-Ioで検出された変異(L85S)を導入した変異型DPM3をsite-direct mutagenesis法により作製し、変異の影響を調べた。共発現した細胞の膜画分タンパク質を用いて、DPM3および変異型DPM3との共発現によるPOMT活性への影響を確認した。
結果と考察
抗myc抗体および抗HSV抗体を用いた免疫沈降法によりPOMT1-POMT2とDPM3は複合体を形成することが明らかとなった。変異型DPM3もPOMT1-POMT2と共沈したことから、L85S変異は複合体形成に影響しないことが分かった。また、POMT1-POMT2にDPM3および変異型DPM3を共発現した場合とPOMT1-POMT2のみを発現させた場合でPOMT活性に有為な差は認められなかったことから、DPM3のPOMT1-POMT2への結合は直接POMT活性に影響しないことが示唆された。DPM3に変異がある細胞では、O-マンノース型糖鎖合成が選択的に抑制されることが報告されていることから、POMT1-POMT2はDPMと複合体を形成することによって、DPMにより合成されたDol-P-Manを効率良く利用するシステムが存在する可能性が考えられた。α-ジストログリカノパチーはO-マンノース型糖鎖の構造異常を起因とするが、糖転移酵素だけではなく糖供与などの制御異常に因り糖鎖異常が生じる複雑な疾患群であることを示唆している。今後、こうした複数の膜タンパク質からなる複合体の存在を証明し、機能や構造を解析する必要がある。
結論
POMT1-POMT2はDPM3を介してDPMと複合体を形成することが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201224107B
報告書区分
総合
研究課題名
中枢神経症状を伴う筋疾患α-ジストログリカノパチーの分子病態と治療法開発に関する研究
課題番号
H22-神経・筋-若手-021
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
萬谷 博(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所))
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
福山型先天性筋ジストロフィー症(FCMD)、muscle-eye-brain病(MEB)、Walker-Warburg症候群(WWS)は中枢神経系の障害を伴う先天性筋ジストロフィー症である。これらの疾患はジストロフィン糖蛋白質複合体の構成分子であるα-ジストログリカン(DG)のO-マンノース(Man)型糖鎖不全を起因とし、α-ジストログリカノパチーと総称される。本研究では、α-ジストログリカノパチーの病態を解明し、診断・治療法開発に応用することを目的として、原因遺伝子産物であるO-Man型糖鎖合成酵素およびO-Man型糖鎖の機能について解析した。
研究方法
WWSの原因遺伝子産物O-Man転移酵素(POMT)は2つのサブユニットPOMT1とPOMT2からなり、酵素活性の発現にはPOMT1-POMT2複合体の形成が必要である。活性および複合体形成に重要なアミノ酸の解析を行なった。POMT1-POMT2複合体は小胞体膜においてドリコールリン酸マンノース(Dol-P-Man)のManを蛋白質のSer/Thrに転移する。小胞体膜にはDol-P-Man合成酵素(DPM)も局在しており、DPMは3つのサブユニットDPM1、DPM2、DPM3の複合体である。DPM3遺伝子の変異がα-ジストログリカノパチーの原因となることが報告されたことから、POMT1, 2とDPM3相互作用について調べた。新奇構造であるO-Manの6位リン酸化の生合成過程を調べる目的でMEBの原因遺伝子産物POMGnT1の基質特異性について調べた。ゼブラフィッシュのzPOMT1、 zPOMT2を解析し、ノックダウンによる筋ジストロフィー症モデルとしての可能性について検討した。
結果と考察
酵母POMTホモログで重要性が報告されているアミノ酸のなかで、酵母POMTおよびヒトPOMT1、POMT2で保存されているにもかかわらず、POMT1とPOMT2で働きの異なるアミノ酸が確認されたことから、POMT1とPOMT2の働きが異なる可能性が示された。POMT1-POMT2とDPM3が複合体を形成することが確認され、DPMにより合成されたDol-P-ManをPOMTが効率良く利用するシステムが存在する可能性が考えられた。POMGnT1は6位をリン酸化されたManにはGlcNAcを転移することができなかったことから、Manのリン酸化はPOMGnT1によるGlcNAcβ1-2Man形成の後に起こることが示された。アンチセンスMOによるノックダウンの結果、zPOMT1、zPOMT2いずれのノックダウン体においてもα-ジストログリカンのO-Man型糖鎖減少と筋組織の発生障害が認められた。
結論
複合体形成のメカニズムはヒトと酵母では異なると考えられた。POMT1とPOMT2の働きが異なる可能性を示した。α-ジストログリカノパチーはO-Man型糖鎖の構造異常を基本とするが、それらの異常は糖転移酵素だけではなく糖供与など制御異常に因る複雑な疾患群であることが示唆された。O-Man型糖鎖の生合成におけるMan6位のリン酸化は、POMGnT1によるGlcNAcβ1-2Man形成の後に起こることが明らかとなった。ゼブラフィッシュのzPOMT1、zPOMT2を同定し、α-ジストログリカノパチー病態モデルとしてのゼブラフィッシュの有用性を示した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224107C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 福山型先天性筋ジストロフィー症の原因遺伝子fukutin、FKRP、ISPD、TMEM5、POMGNT1の機能(糖鎖合成酵素)を解明し、これらの糖鎖合成酵素によりつくられる糖鎖構造を明らかにした。本研究で明らかになった糖鎖構造はリビトールリン酸を含んでおり、哺乳類でこれまで報告されていない新規構造のO-マンノース型糖鎖であった。脳RPTPβにはHNK-1やLeX構造を持つO-マンノース型糖鎖が修飾され、脳の発生において重要な働きをしていることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
筋ジストロフィー症の発症に関わるO-マンノース型糖鎖の構造と生合成経路の全容が明らかとなった。原因遺伝子fukutin、FKRP、ISPD、TMEM5、POMGNT1の機能も解明されたことから、筋ジストロフィー症の病態解明から治療法開発への貢献が期待される。ISPD欠損筋ジストロフィー症に対するCDPリビトール投与療法の可能性を示した。筋ジストロフィー症原因遺伝子POMGNT1が網膜色素変性症の発症にも関わることを明らかにした。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
平成22年度(第13回)日本糖質学会奨励賞受賞、
平成23年度(第19回)JB論文賞(日本生化学会)受賞、
報道(朝日新聞等)「福山型筋ジス発症の仕組み解明」(2016.2.16)、
報道(都政新報等)「網膜色素変性症の原因遺伝子変異発見」(2016.2)、
プレスリリース「筋ジストロフィー症発症の新たな仕組みを発見」(2016.8.4)
報道(科学新聞)「筋ジス発症の原因糖鎖構造を解明」(2016.11.11)

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
25件
学会発表(国内学会)
47件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
ジストログリカン糖鎖修飾異常に伴う疾患の治療剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2016-160390
発明者名: 戸田達史、小林千浩、金川基、遠藤玉夫、萬谷博、和田芳直、田尻道子
権利者名: 国立大学法人神戸大学、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター、地方独立行政法人大阪府立病院機構
出願年月日: 20160818
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hui Jiao, Hiroshi Manya, Shuo Wang, et al.
Novel POMGnT1 mutations cause muscle-eye-brain disease in Chinese patients.
Mol. Genet. Genomics. , 288 (7-8) , 297-308  (2013)
10.1007/s00438-013-0749-5
原著論文2
Eriko Avsar-Ban, Hisayoshi Ishikawa, Hiroshi Manya, et al.
Protein O-mannosylation is necessary for normal embryonic development in zebrafish.
Glycobiology , 20 (9) , 1089-1102  (2010)
10.1093/glycob/cwq069
原著論文3
Keiko Akasaka-Manya, Hiroshi Manya, Mamoru Mizuno, et al.
Effects of length and amino acid sequence of O-mannosyl peptides on substrate specificity of protein O-linked mannose β1,2-N-acetylglucosaminyltransferase 1 (POMGnT1).
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 410 (3) , 632-636  (2011)
10.1016/j.bbrc.2011.06.042
原著論文4
Keiko Akasaka-Manya, Hiroshi Manya, Masami Hayashi, et al.
Different roles of the two components of human protein O-mannosyltransferase, POMT1 and POMT2.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 411 (4) , 711-725  (2011)
10.1016/j.bbrc.2011.07.012
原著論文5
Yutaka Tamaru, Eriko Avsar-Ban, Hiroshi Manya, et al.
Molecular characterization of protein O-linked mannose β-1,2-N-acetylglucosaminyltransferase 1 in Zebrafish.
J. Glycomics Lipidomics , 4 (1) , 111-111  (2014)
10.4172/2153-0637.1000111

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
2017-06-02

収支報告書

文献番号
201224107Z