文献情報
文献番号
201224102A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞内膜構造に注目した運動神経病の画期的な治療法の開発
課題番号
H22-神経・筋-一般-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小野寺 理(新潟大学 脳研究所生命科学リソース研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 横関 明男(新潟大学 医学部 神経内科学 )
- 高橋 均(新潟大学 脳研究所 神経病理学)
- 山中 邦俊(熊本大学 発生医学研究所 遺伝学)
- 佐藤 俊哉(新潟大学 脳研究所 実験動物学)
- 牛木 辰男(新潟大学 医歯学系 解剖学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
15,530,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年,運動神経疾患と細胞内膜構造(ゴルジ装置,小胞体)との関連が注目されている.遺伝性痙性対麻痺の原因蛋白であるatlastinは,その変異により細胞内の膜構造,特に,ゴルジ装置,小胞体の3次元構造の異常を引き起こす.さらに運動神経優位の軸索型の末梢神経障害を示すCMT病IIA型では,原因遺伝子であるmitofusion2の異常により,小胞体-ミトコンドリア間の結合が損なわれ,神経変性に至る.ALSでは,以前よりゴルジ装置の断片化が指摘され,これはTDP-43の封入体を伴う細胞に認められる.これらの事実は,運動神経細胞死に,細胞内小器官の異常が関わっていることを示唆している.しかし,その機序,病態については明らかではない.
我々はALS では核のTDP-43が消失していることから,本症にTDP-43の機能喪失が関与していると考え解析を進めてきた.現在までにTDP-43のノックアウトマウスは胎生致死であり,コンディショナルノックアウトマウスは早期に死亡することを明らかにしている.さらに,驚くべき事に TDP-43の喪失により,ゴルジ装置,小胞体の膜構造が破壊されることを見いだした.本研究計画ではTDP-43機能とゴルジ装置-小胞体システムとの関連を検討し,さらに運動神経細胞死における細胞内小器官の寄与について検討を加え,その細胞死のメカニズムを明らかにし,共通する治療方法を探求する.
我々はALS では核のTDP-43が消失していることから,本症にTDP-43の機能喪失が関与していると考え解析を進めてきた.現在までにTDP-43のノックアウトマウスは胎生致死であり,コンディショナルノックアウトマウスは早期に死亡することを明らかにしている.さらに,驚くべき事に TDP-43の喪失により,ゴルジ装置,小胞体の膜構造が破壊されることを見いだした.本研究計画ではTDP-43機能とゴルジ装置-小胞体システムとの関連を検討し,さらに運動神経細胞死における細胞内小器官の寄与について検討を加え,その細胞死のメカニズムを明らかにし,共通する治療方法を探求する.
研究方法
本研究計画では.TDP-43 の機能喪失モデル,ALS 関連ミスセンス変異型 TDP-43 導入モデル,を用い,細胞内の小器官の膜構造について検討する.対象とする細胞は,培養神経および胚性幹細胞より作製したヒト運動神経細胞,モデルマウス,モデル線虫,剖検ヒト組織にて解析する.コンディショナル ターゲッティングが可能な TDP-43 floxed マウス TDP-43(ex3)-flox,および,疾患関連変異型TDP-43 ノックインマウス TDP43(Q343R) を用い,免疫沈降法,免疫組織化学法にて検討する.さらに,そのゴルジ装置-小胞体構造について検討を加える.患者剖検組織にて,小胞体-ゴルジ装置を免疫組織化学,および,電子顕微鏡にて解析する.線虫にて確立したモデル系にて,想定される薬剤効果を確認する.また,線虫は容易に遺伝子のノックダウンを導入することができるため,これを用いて症状の重症度を規定する遺伝子ネットワークを明確にする.モデルマウスおよび線虫モデルを用い,膜構造を安定化させる薬剤の開発を試みる.
結果と考察
TDP-43欠損による細胞内膜構造の変化を検討するため, 3系統のcKOマウスを作成した.神経特異的KOマウスはTDP-43の免疫染色では,大脳皮質神経細胞で広範にTDP-43が消失し,前角運動神経においても,半数以上がTDP-43を消失していた.神経特異的KOマウスの頸部前角運動神経細胞の数には変化がなかったが,運動神経は萎縮性であった.またゴルジ体容積の明らかな減少を認めた.さらにチトクロームCの免疫染色では,ミトコンドリア形態の異常も疑われた.
そこで,これらの超微構造を検討するために,走査型電子顕微鏡を用い,本マウスの脊髄前角の運動神経のミトコンドリアを観察した.その結果,ミトコンドリアの膨化,クリステの増加など,明らかな構造の異常を認めた.一方ゴルジ装置の網状構造に大きな変化をみとめることはなかった.脊髄でのATP産生量は76.7%に低下していたが,定量的PCRによるミトコンドリアDNA量には変化を認めなかった.この事からミトコンドリアの機能異常を推察した.
この現象がTDP-43依存性であることを培養細胞系にて検討を加えた. TDP-43の非翻訳領域をターゲットとしたsiRNAにてTDP-43の発現を抑制した.その結果,これらの細胞では,ミトコンドリアは細切れかつ不整に染色され,ミトコンドリアの形態異常を認めた.本細胞系でミトコンドリアの形態維持に関連する蛋白質の挙動を検討した所,ミトコンドリア分裂に関わるDLP1のリン酸化がTDP-43の発現抑制により促進していることが確認された.
そこで,これらの超微構造を検討するために,走査型電子顕微鏡を用い,本マウスの脊髄前角の運動神経のミトコンドリアを観察した.その結果,ミトコンドリアの膨化,クリステの増加など,明らかな構造の異常を認めた.一方ゴルジ装置の網状構造に大きな変化をみとめることはなかった.脊髄でのATP産生量は76.7%に低下していたが,定量的PCRによるミトコンドリアDNA量には変化を認めなかった.この事からミトコンドリアの機能異常を推察した.
この現象がTDP-43依存性であることを培養細胞系にて検討を加えた. TDP-43の非翻訳領域をターゲットとしたsiRNAにてTDP-43の発現を抑制した.その結果,これらの細胞では,ミトコンドリアは細切れかつ不整に染色され,ミトコンドリアの形態異常を認めた.本細胞系でミトコンドリアの形態維持に関連する蛋白質の挙動を検討した所,ミトコンドリア分裂に関わるDLP1のリン酸化がTDP-43の発現抑制により促進していることが確認された.
結論
神経特異的KOマウスの頸部前角運動神経細胞のゴルジ体の容積の減少.さらにミトコンドリア形態の異常も疑われた.走査型電子顕微鏡でも,ミトコンドリアの膨化,クリステの増加など,明らかな構造の異常を認めた.この現象がTDP-43依存性であることを培養細胞系にて検討を加え,ミトコンドリア分裂に関わるDLP1の関与が見いだされた. 今後,この遺伝子とTDP-43との関連を明らかにすることにより新たな治療方法が模索しうる.
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
-