生殖補助医療技術に対する医師及び国民の意識に関する研究

文献情報

文献番号
199800099A
報告書区分
総括
研究課題名
生殖補助医療技術に対する医師及び国民の意識に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
矢内原 巧(昭和大学医学部産婦人科)
研究分担者(所属機関)
  • 山縣然太朗(山梨医科大学保健学II講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の生殖補助医療技術の進歩は著しくまた広く不妊治療の中に応用されている。本技術はさらに配偶子の様々な組合せや生出する母親が必ずしもその女性の配偶子による児でない場合も有り得ることから、現行の法律ではその親子関係や出児の権利が保護されているとは云えない。従って本技術は安全性のみならず、社会倫理や法制度とも関連しており単に医学上の問題ではない。
そこで本研究では生殖補助医療技術について専門家および国民の本技術に対する知識や意識を調査することによって広く世論を得ることを目的とした。
研究方法
対象:一般国民(4000名)、日本産婦人科学会体外受精登録医療機関の産婦人科医(402名)およびその医療機関を受診している患者(804名)、一般産婦人科医(400名)、小児科医(400名)の合計6006名。
抽出方法: ①一般国民;層化二段階無作為抽出法を用いた。層化はまず全国を10ブロック(北海道、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄)に分類し、各ブロック内において、さらに、市郡規模で13大都市(札幌市、仙台市、千葉市、東京都区、横浜市、川崎市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、広島市、北九州市、福岡市)、15万以上の都市、5万以上の都市、5万未満の都市、郡部に層化した。抽出は層化された各層の母集団(20歳から69歳)の大きさにより200地点を比例配分し、各層の地点数を決め、市区町村コード一覧より対象市町村を決めた.個人抽出は住民登録台帳より、調査対象適格者を等間隔に系統抽出した。
②日本産婦人科学会体外受精登録医療機関の産婦人科医;「体外受精・胚移植、およびGIFTの臨床実施に関する登録402施設住所等一覧(平成10年3月31日現在)」に記載されている全医療機関の実施責任者全員を対象とした。
③患者;上記医療機関において調査通知が届いた翌日以降、不妊治療のために来院した再来患者の最初の2名とした。
④一般産婦人科医;日本産婦人科学会、日本母性保護産婦人科医会の会員名簿(1996年12月)より、400名を等間隔抽出した。
⑤一般小児科医;日本小児科学会より平成10年12月時点の会員名簿の一覧の提供を受け、等間隔抽出により400名を抽出した。
調査方法:一般国民は抽出地点を管轄する保健所の協力を得て、留め置き法(訪問配付、後日回収、本人の意志により郵送回収可能)によった。一部、保健所の協力が得られず、郵送法とした。患者は主治医より手渡しをし、郵送により回収した。その他は郵送法によった。すべて無記名回答とした。
調査期間:平成11年2月、一部3月に実施した。
回収率:転居などにより、本人に配付できなかったものを除いた5651を母数として、全体で3492の回収があり、回収率は61.8%であった。対象者別には一般国民70.4%、登録産婦人科医60.4%、他の産婦人科医41.6%、小児科医46.5%、患者は40.9%であった。
結果と考察
技術の利用:一般国民、患者ともに7割以上の者が「配偶者が望んでも利用しない」と回答した。利用しない理由として「親子関係の不自然になる」が多く、一般国民では「妊娠は自然になされるべき」が次いで多く、患者は「その他の理由」が多かった。この中で最も多かったのは「自分達の子どもがほしい」であった。
各技術の是非:一般論として、一般国民はすべての項目で「認めない」が「認めてよい」を上まわった。しかし、第三者の受精卵を用いた胚移植と代理母を除く技術について「認めてよい」または「条件付きで認めてよい」としていた回答は50%以上あった。このことは現時点では認めるための必要な条件が整っていないと認識される。患者はすべての技術で「認めてよい」、「条件付きで認めてよい」が5割を超えていた。医師は登録産婦人科医、他の産婦人科医、小児科医の順に「認めてよい」または「条件付きで認めてよい」と回答したものが多く、AIDや第三者の精子や卵子の利用に対してその傾向が強く、第三者の受精卵や代理母についてはいずれも「認められない」が5割を超えた。認められない理由として、「母体の健康」「商業利用」「遺産相続など」が比較的多かったことが、一般国民や患者との相違であった。
親子関係、出自を知る権利:親子関係は一般国民はAID,第三者の精子または卵子を用いた体外受精および借り腹で「依頼者の実子とすべき」と6割が回答していた。また、第三者の受精卵の胚移植、代理母、借り腹では「わからない」が約4割にのぼっていた。一方で、患者は「依頼者の実子とすべき」が一般国民に比べいずれの技術に対しても10ポイントほど多くなっていた。
出自を知る権利は一般国民においていつの時点かで「知る権利がある」と回答したものが「知らないでいるべき」をわずかに上まっていた。
結論
研究より選られた成果の今後の活用・提供:本研究は回答率が60%を超え、特に一般国民の回答率は70%を超えるなど、対象者の母集団を代表する結果であると評価でき、本テーマに関する国民意識のスタンダードとなりうる有用な資料である。一方で、性別、年代別の分析やジェンダー(性別役割)に対する考え方、技術に対する知識など、回答者の背景を考慮した分析をする必要があり、これらを解析した上で、生殖補助医療技術に関する専門委員会での議論の参考とする。また、本結果は厚生省のホームページ掲載や冊子にして広く国民に公表する。

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