医療観察法の向上と関係機関の連携に関する研究

文献情報

文献番号
201224092A
報告書区分
総括
研究課題名
医療観察法の向上と関係機関の連携に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中島 豊爾(地方独立行政法人岡山県精神科医療センター 医療部・管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 村上 優(独立行政法人国立病院機構琉球病院)
  • 平林 直次(独立行政法国立精神・神経医療研究センター)
  • 藤井 康男(地方独立行政法人山梨県立北病院)
  • 宮本 真巳(東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科)
  • 五十嵐 禎人(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
  • 兼行 浩史(独立行政法人山口県立病院機構山口県立こころの医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
10,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療観察法における医療の実態の継続的把握を行い、入院医療の質の均霑化及び通院医療の質的向上を目指す。さらに、倫理的視点及び転帰・予後の観点やチーム医療の立場からも検討を加え、研究で明らかになった課題の解決策を検討し、政策提言を行うことを目的とする。
研究方法
アンケート調査及び指定入院医療機関相互のピアレビュー等により、入院医療の実態を把握した。また対象者の転帰・予後に関する予備的調査では保護観察所の協力を得た。通院医療に関しては、入院医療からの移行後もクロザピン投与が継続できるかどうかに注目して医療継続性の観点から検討を行った。
結果と考察
以下のような結果を得たので考察とともに記載する。
①まず、今まで6年にわたって行ってきた本研究の指定入院医療機関相互のピアレビュー研究が、本年度から厚生労働省の事業となったことは評価に値する。一方、研究的視点からのピアレビュー研究を本年度も継続した。特に、長期化事例、暴力リスクの高い事例、自殺企図事例、クロザピン投与事例などに注目して症例を集積した。今後2年間にこれらの解析を行う。また、指定入院医療機関のFidelityチェックシートをピアレビューの機能評価ツールとして開発することも必要とされている。
②入院対象者の増加に伴い、全例把握は極めて困難となったので、推計学的手法を用いて入院日数の中央値、平均値を求めた。長期化傾向の鈍化は認めたものの、相変わらず入院期間の長期化が認められており、早急な対策が必要とされている。今後、指定入院医療機関の機能分化も含めて医療観察法制度の見直しが必要である。
③治療反応性の観点からは、難治性統合失調症の最終的治療手段としてのm-ECTの施行とクロザピンの投与が必要である。しかし、施行可能施設数は増加しているものの、未だに全ての指定入院医療機関でそれらが可能となっているわけではない。これは、法運用上も倫理的にも問題となるところである。今回特に、通院医療機関でのクロザピンの使用の可能性も念頭において研究を行ったが、医療観察法におけるクロザピンの使用にはかなりの制約があることが分かった。
④平成21年作成の転帰フローチャートを改訂し、全国85%の保護観察所の協力を得て、昨年度(平成23年度)に当初審判を受けた対象者の81%(326例)を解析した。平成24年末の時点での転帰は、86%(入院処遇が開始された218例中の187例)が入院を継続中、7%(16例)が通院処遇へ移行、5%(11例)が処遇終了、1.4%(3例)が抗告審での入院決定取り消し、1例が死亡(自殺)であった。今回の調査で、転帰の全例把握調査が極めて困難であることが再度認識された。やはり、従来から提言していた「処遇終了報告書」の提出が転帰・予後の調査において極めて重要であると考えられた。この転帰・予後を知らなければ、この法律の正当性を主張することができない。
⑤精神科医療におけるチーム医療の重要性が、この法における医療の提供の中で明らかとなってきた。医師に加えて看護師、OT、PSW、CP、薬剤師等からなるチームの重要性について、本年度も引き続き調査を行った。医療観察法病棟におけるチーム医療の遂行は順調に行われているが、今後、一般精神科医療への浸透が課題となっている。
⑥人権擁護のあり方の研究においては、法律家を交えた研究チームが構成された。m-ECT及びクロザピンの投与についても検討を加えたが、ここでは割愛する。医療観察法病棟の倫理会議については、ガイドラインの若干の改訂が現実的には必要であると考えられた。一方、対象者の治療への同意については、各施設の医療者ごとにまだかなりのばらつきがあり、さらなる検討が必要と思われた。入院医療施設の約6割で対人暴力事例が発生していたが、職員の「治療における強制性をできるだけ小さくしようとする努力」と「適切なリスク・マネージメント」の間に、まだ解離がみられた。また、指定入院医療機関における喫煙ならびに携帯電話の使用制限については、さらに検討し、提言を行う。
結論
平成25年7月15日で医療観察法施行から8年になろうとしているが、行政的視点からも、法の見直し、入院・通院ガイドラインの改訂、国自体の責任の明確化等を念頭においた研究が必要とされている。法の見直しにおいては、特に通院医療の強制性についての検討、「処遇終了報告書」の提出などが問題となる。また、ガイドラインの改訂を視野におけば、入院期間の長期化に対する対策、全数調査の国の責任の明確化、治療反応性の有無の判断におけるm-ECT及びクロザピンの投与の位置づけ、指定入院医療機関の倫理会議や喫煙、携帯電話の使用制限等についての指針などが必要となろう。また、自殺や死亡、暴力事件等については引き続き検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224092Z