向精神薬の処方や対策に関する実態調査と外部評価システム(臨床評価)に関する研究

文献情報

文献番号
201224084A
報告書区分
総括
研究課題名
向精神薬の処方や対策に関する実態調査と外部評価システム(臨床評価)に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
清水 栄司(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 伊豫 雅臣(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 金原 信久(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
9,856,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
治療抵抗性統合失調症患者には本邦では多剤併用大量療法による治療が漫然となされている状況がある。高力価・高用量の抗精神病薬による薬物療法がドパミンD2受容体のより強いアップレギュレートを引き起こし、ドパミン過感受性状態を惹起する。この状態は臨床的には遅発性ジスキネジア、頻回の再発・再燃、抗精神病薬の耐性によるコントロール不能な陽性症状などとして観察され、ドパミン過感性精神病(Dopamine Supersensitivity Psychosis: DSP)として知られている。我々はこのDSPが治療抵抗性統合失調症の病態に大きく関与していると考え、抗精神病薬によるドパミンD2受容体の至適な占拠の維持が症状安定に極めて重要であるとの仮説を立てている。血中濃度消失半減期の影響の少ない持効性注射製剤による治療は過剰な内服抗精神病薬の減薬が可能となり、病状も安定するかもしれない。この仮説を検討するため、リスペリドン持効性注射剤(RLAI)の治療効果を検証する目的で試験を実施した。
研究方法
千葉県内9施設を中心とする多施設共同試験にて治療抵抗性統合失調症患者115名を対象にRLAIの追加投与を行った。試験デザインは前向き・オープン・12か月追跡試験で、同薬の効果をDSPの有る群と無い群で比較検討した。RLAIの使用は通常の治療法に沿っており、25mgから開始し、2週毎に注射を行った。RLAIの増量、内服向精神薬の減薬を含む調整は担当医の裁量に任せられている。3か別毎にBPRS、GAF、CGI-S、ESRS等で評価を行った。尚、本試験は各試験施設の倫理審査部会で承認を得ており、各被験者に文書にて説明をし、同意の上実施されている。
結果と考察
ベースラインでBPRS総点が約61点、内服抗精神病薬用量がクロルプロマジン換算で約1030mgと両群ともに重度の精神病症状を呈していたが、症状尺度に大きな差を認めなかった。またこれまでの服薬アドヒアランスも比較的良好な群であり、両群で差を認めなかった。20名がドロップアウトしたが、「効果不十分」「同意撤回」などが多く、有害事象によるドロップアウトは少数であった。最終解析の対象となった95名のうち、両群ともにBPRS(DSP有り群62.6⇒42.0;DSP無し群58.5⇒49.2)、GAF(DSP有り群31.4⇒42.0;DSP無し群32.7⇒42.5)、と経時的な改善効果が観察された。CGI-Sについても同様の傾向であった。ESRSで評価した錐体外路症状についてはDSP有り群でのみ有意な改善作用を認めた。混合モデルによる解析で、DSPの有る群(62名)は無い群(33名)よりもBPRSの改善度が有意に大きい結果であった(33.0%対17.0%)。また両群でベースラインの内服薬用量は有意な減量が達成されていたが、総用量においてベースラインと有意差は無かった(1035mg対871mg)。サブ解析において、BPRSが20%以上改善を示した症例を「反応群」と定義し、両群の「反応群」の割合を検討したが、DSPの有る群では、無い群よりも有意に「反応群」が多かった(61.3%対24.2%)。これらの結果はドパミン過感受性状態にある統合失調症患者にRLAIに代表される長半減期非定型抗精神病薬の導入によって大きな治療効果が得られる可能性を強く示唆している。また抗精神病薬総用量が減量されていないことは単なる減薬による症状改善ではないことを示している。このような病態に沿ったRLAIの使用は、治療抵抗性統合失調症の治療選択肢となることが示唆された。一方でDSPの無い患者においてはRLAIによる改善が必ずしも観察されなかったが、これはDSPの関与の無い、統合失調症として別の病型や病態を推測させるものであった。
結論
本研究の結果は我々の仮説を強く支持するものである。治療抵抗性統合失調症の病態にドパミン過感受性状態は強く関与していることが示唆された。このような状態を適切に臨床的評価を行い、個々の患者におけるドパミンD2受容体の至適な占拠維持を念頭におく非定型持効性注射剤の治療は、DSP患者には大きな有効性をもたらす。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224084Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,800,000円
(2)補助金確定額
12,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,902,616円
人件費・謝金 498,610円
旅費 1,332,580円
その他 1,122,194円
間接経費 2,944,000円
合計 12,800,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
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