アウトリーチ(訪問支援)に関する研究

文献情報

文献番号
201224074A
報告書区分
総括
研究課題名
アウトリーチ(訪問支援)に関する研究
課題番号
H23-精神-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
萱間 真美(聖路加看護大学 精神看護学)
研究分担者(所属機関)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター)
  • 野中 猛(日本福祉大学 社会福祉学部)
  • 吉川 隆博(山陽学園大学 看護学部)
  • 西尾 雅明(東北福祉大学 総合福祉学部)
  • 伊藤 順一郎(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所社会復帰研究部)
  • 三品 桂子(花園大学 社会福祉学部)
  • 野口 正行(岡山県精神保健福祉センター 地域支援相談科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、厚生労働省「精神障害者アウトリーチ推進事業」の、対象者、ケア内容、ケア量、ケアの効果、利用者・相談者の満足度について詳細なデータを収集し、効果的かつ安定的なケアを今後も継続的に提供するために必要な制度設計の基礎資料を提供することを目的としている。また、事業の効果・要因や成功例を全国の事業提供機関と共有し、多職種アウトリーチに必要な研修を提供することにより、全国でサービス展開しつつあるアウトリーチサービスにおけるモデルを得ることとなり、ケアの質が向上することも目的としている。
研究方法
本年度は、研究班で独自に開発した調査システムを使用し、21道府県32チームで調査を実施した。それに先立って、国による事業説明会において研究事業およびデータ入力に関する説明を実施した。また、要請に応じて個別にチームを訪問し入カサポートを行った。アウトリーチチームスタッフに対しては、対象者への支援開始時(調査票A)、支援開始6か月後または支援終了時(調査票B)、支援対象候補となってからの毎日の支援記録(日報)、評価検討委員会やカンファレンス等のケア会議録、に関する情報の入力を依頼し、データを収集した。なお、支援対象者およびスタッフはIDで管理され、研究班は自治体の代諾のもとに匿名化された情報の提供を受けた。
結果と考察
本研究の対象者は平成25年1月末日時点において377名であり、対象者類型別では受療中断者159名、未受診者38名、ひきこもり26名、長期入院後退院した者や入院を繰り返す者44名、不明110名であった。診断名では、統合失調症圏が199名(52.8%)、気分障害が20名(5.3%)、症状性を含む器質性精神障害が7名(1.9%)であった。
377名のうち、調査票A・B、ケア会議記録、日報等がすべて入力された116名について6か月後の状況を分析したところ、GAF得点は支援開始時37.3点が6か月時点で43.9点となり、SBS得点は、支援開始時25.9点が6か月時点で21.7点となっており、両者とも統計的に有意な改善がみられた。
支援開始から12か月間でのケアの状況は、支援開始前からケアマネジメント等の間接ケアが行われ、支援開始1か月目が最もケア量が多くなっていた。6か月以内に支援が終了した7例について詳細な分析をおこなったところ、30代~50代の受療中断、統合失調症圏の対象者が多く、多くの対象で初回訪問前に「ケア計画の作成・ケアマネジメント」が行われ、支援開始後のケア量やケア内容は対象によって異なっていた。
対象者に12か月間に提供されたケアのコスト試算では、算出された職種別ケア量(分)に「平成23年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)の結果から算出した各職種別単価(円/分)を乗じることで、支援開始後12カ月以内に提供されたコスト(人件費)の推移を算出した。
西尾分担班では、アウトリーチ支援にかかわる人材としての態度や実践スキルに好ましい変化を与えるプログラムを開発することを目的とし、『アウトリーチ推進事業研修会』を実施し、参加者にどのような影響があったかを評価したところ、アウトリーチ事業に必要な知識や概念について、重要性は理解するものの実践に関する自信がもてない状況が明らかになった。また、研修によってそれぞれの概念の重要性の理解が深まり、実践につながり、また、リカバリーに関する考え方が肯定的に変化する可能性が示唆された。さらに、研修参加者の高い満足と、研修プログラムの開発との継続的開催への高いニーズが明らかになった。
結論
アウトリーチ支援を受けた対象者の社会機能は、統計的に有意に改善しており、その支援内容と量は、具体的な日常生活の支援などの前に、ケアマネジメントやケア会議等の調整、支援開始1か月目では集中的な支援をし、また、ケースにとっての重要なイベント発生時には、頻繁に、関わる職種も増え、集中的なケアが提供されていた。多様な人材による関与も行われていたが、職種構成はチームの設定に依存しており、今後は効果的なケアを提供しうるチーム構成について標準化することも必要であると考えられる。また、チームの担当ケース数がケア量の全体を規定するため、ケースロードに関しても設定が必要となるといえる。
本研究では、要したケア時間をもとに人件費の試算をしたが、制度化を視野に入れたコスト計算を行うためには、人件費の積算だけでは本来不十分であり、制度化に向け、アウトリーチチームの実際の運営を反映した試算方法を検討することも必要である。アウトリーチケアに関わる人材の育成ではアウトカムの設定に対応した直接・間接ケアの技術を実施するには、スタッフのトレーニングが必須である。多職種により共有が可能で、具体的な教育プログラムの開発と実施が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224074Z