就学前後の児童における発達障害の有病率とその発達的変化:地域ベースの横断的および縦断的研究

文献情報

文献番号
201224073A
報告書区分
総括
研究課題名
就学前後の児童における発達障害の有病率とその発達的変化:地域ベースの横断的および縦断的研究
課題番号
H23-精神-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
神尾 陽子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所児童・思春期精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 川俣智路(大正大学人間学部臨床心理学科)
  • 中井昭夫(福井大学大学院医学系研究科附属子どもの発達研究センター)
  • 三島和夫(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 精神生理研究部)
  • 小保内俊雅((財)東京都保健医療公社多摩北部医療センター)
  • 深津玲子(国立障害者リハビリテーションセンター病院)
  • 藤野博(東京学芸大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
11,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、北多摩北部地域の就学前幼児(4-5歳)(対象児童数約5000人)を対象として日本での広汎性発達障害(PDD)の有病・有症率、PDDに合併する注意欠如・多動性障害(ADHD)、不器用、睡眠障害の有症率を明らかにすることを目的とする。
研究方法
北多摩北部医療圏の2市(小平市と西東京市)の保育所・幼稚園に通う5歳児を対象として、国際的に広く使用されている質問紙を用いた第1回調査を行った。1390人分の親回答、422人分の保育士回答が得られた。継続調査に同意した親461名に、親子面接を案内し、面接調査を対象に、い、調査票(H23-24)と診断面接法(H24-25)の2段階法を用いて国際比較可能なデータ収集を行い、確率的に選択したハイリスク児37名(45.7%)とローリスク児35名(9.2%)に面接を行った。続けて、継続調査協力希望者461名のうち、住所不明の5名を除く456名に対して、第1回質問票調査の全体の結果報告とともに、第2回質問票調査を行った(216/426名分、回収率50.7%)。さらに、同一対象に、独自に作成した睡眠質問票について5歳児一般集団における特徴を調べた。発達障害の早期介入の手段として、運動プラクシスに注目して、ASD幼児を対象とした運動介入セッションを行い、効果検証に着手した。
結果と考察
地域の一般幼児集団における自閉症状および自閉症的行動特性は、途切れのない連続的な分布を示し、高得点は男児に優勢で、低得点は女児に優勢といった性差が観察された。この特徴は、学童1)や青年・成人の一般集団において示された結果と一貫しており、ASDの表現型のスペクトラム概念の根拠となり、現行の診断カテゴリー概念に警鐘を鳴らすものである,②自閉症的行動特性尺度(SRS)得点を5歳児集団で標準化し、T得点によってprobable ASD群,possible ASD群, unlikely ASD 群の3群に分け、関連要因の群間比較から、児の個体要因である多動・不注意や情緒、行動の問題、協調運動障害など、合併精神障害および発達障害の症状程度が前2者のハイリスク群において有意に高かった。このことは、自閉症状が一定以上存在すると、発達支援のみならず、就学前期よりすでに精神医療的観点からの支援が必要であることを示唆する。環境要因としては、きょうだいの人数および順位、母親の教育年数、朝食やTV視聴などの生活習慣、幼稚園か保育所かの園種が群間で有意に異なった。環境要因の影響については環境の違いが子どもの発達に影響しているのか、子どもの素因が環境に影響を及ぼしているのかについては別途、検討を要する、③男児において、保育所児は幼稚園児と比べて自閉的行動特性や多動・不注意など行動の問題を示す割合が有意に高かったため、その違いは児、家庭あるいは保育環境のいずれによって説明されうるのかを特定するために、重回帰分析を行った結果、自閉症状には、2歳前後の自閉症早期兆候2,3)、そしてきょうだいの順位、現在の母親の育児不安とうつ症状、児のTV視聴時間が有意に関連し、多動・不注意症状には、現在の自閉症的行動特性、母親の育児不安とうつ症状、2-3歳頃の気質特徴(活発さ)が有意に関連することなどがわかった。これらより、5歳児の発達に関連した問題は、2歳―3歳までの児の行動観察からASD、ADHDをそれぞれ特異的に予測可能であること、そして子どもの問題の性質にかかわらず、母親の心理的精神的負担は大きいこと、園種は無関連であることが示唆された。おそらく、発達上懸念があるケースは未診断のまま、保育所入所をすすめられるためではないか、と推測している。睡眠の問題に関しては、①睡眠習慣;平均して 21.1時に就床し、10.0時間の睡眠の後、7.1時に起床していた。平均的な昼寝時間は38.6分であったが、昼寝を取らない児が約半数(52.6%)みられた。就床時刻が遅くなるほど起床時刻も遅れるが、就床時刻ほどの遅れはみられず、遅寝児ほど睡眠時間の短縮と昼寝時間の増加がみられた。また、昼寝を取る割合は遅寝児ほど多く、20時ごろに就寝する児では10%程度であるのに対して、22時以降に就寝する児では85.7%と高い割合を示した。②睡眠問題;寝つきの問題(就床抵抗、入眠儀式)、目覚め・眠気の問題(起床時不機嫌、覚醒困難)が比較的高率にみられ、入眠儀式を除く3項目では遅寝・短時間睡眠との有意な関連がみられた。
結論
今日の日本の5歳児の実態調査から、5歳児における発達障害やメンタルヘルスの問題は、2歳前後から予測可能であることが示唆され、乳幼児健診のあり方を再考し、また健診で懸念のある児をその後、保育所・幼稚園生活を通して支援するための方策の必要性が示された。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224073Z