NIRSを用いた精神疾患の早期診断についての実用化研究

文献情報

文献番号
201224070A
報告書区分
総括
研究課題名
NIRSを用いた精神疾患の早期診断についての実用化研究
課題番号
H23-精神-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
福田 正人(国立大学法人群馬大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 住吉 太幹(富山大学大学院医学薬学研究部神経精神医学)
  • 西村 幸香(東京大学医学部附属病院)
  • 檀 一平太(自治医科大学医学部先端医療技術開発センター脳科学)
  • 根本 清貴(筑波大学大学院人間総合科学研究科精神病態医学)
  • 川久保 友紀(東京大学医学部附属病院)
  • 橋本 謙二(千葉大学社会精神保健教育研究センター神経科学)
  • 鈴木 道雄(富山大学医学薬学研究部神経精神医学)
  • 野田 隆政(独立行政法人国立精神・神経医療センター病院第一精神診療部)
  • 山下 典生(岩手医科大学医歯学総合研究所超高磁場MRI診断・病態研究部門)
  • 大渓 俊幸(千葉大学総合安全衛生管理機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
16,324,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
NIRS検査は2009年4月に「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」として、精神医療分野として初めての先進医療の承認を受けた。うつ状態の鑑別診断のための補助検査として有用性が認められたもので、大うつ病性障害・双極性障害・統合失調症の臨床的な診断について、確認したり、見逃しに気付いたり、患者への説明の際に、補助として利用することができる。2013年3月末現在で21施設で実施されている。
この先進医療を診療場面における臨床検査として一層の実用化を進めるためにNIRS研究を発展させるとともに、そうしたNIRSデータの背景を脳構造(MRI研究)・神経生理(ERP研究)・血中物質濃度から明らかにすることを本研究の目的とした。

研究方法
統合失調症・気分障害・発達障害を対象に、NIRS検査結果と臨床症状・薬物反応性・治療経過との関連、およびその背景をなす脳構造・脳機能を神経心理・MRI・事象関連電位ERP・生体物質血中濃度により検討した。研究は、各施設で倫理委員会や臨床試験委員会の承認を得たもので、被検者からは十分な説明のうえで文書による同意を得た。   
結果と考察
(1)NIRSの基礎について
 頭皮上の数点の位置測定により、MRI画像なしにNIRS計測位置を5分程度で標準脳に対応づける方法を実用化した(Neurosci Res 2011)。また、先進医療NIRSデータへの皮膚血流の影響をfMRIとの同時測定により検討し、50%程度は脳由来であることを示した(日本ヒト脳機能マッピング学会 2012)。
(2)統合失調症について
①臨床病期の進行に伴うNIRSデータの振幅減衰には脳部位により3パターンを認め、病態進行の指標と考えられた(Schizophr Res 2011)。②発症年齢が若いほど右前頭葉背外側のNIRS振幅が小さく、発症機構と関連すると考えられた(Clin Neurophysiol 2011)。③初発の統合失調症の12か月追跡において、NIRSデータから半年~1年後の予後が予測できた(日本臨床神経生理学会 2012)。④SIPSの基準によるハイリスク被検者の12か月追跡において、右背外側前頭前野のNIRS振幅減衰が統合失調症の発症と関連していた(同)。
(3)気分障害について
①大うつ病性障害を横断的に検討し、ハミルトンうつ病評価尺度得点は右前頭~側頭部のNIRSデータと負の相関を示した(J Psychiat Res 2012)。②先進医療のNIRS検査の時点でSCIDにより大うつ病性障害と診断された症例を1.5年追跡すると、双極性障害への診断変更例ではNIRS積分値が大きく重心値が遅れていた(日本生物学的精神医学会 2012)。
(4)発達障害について
 小児のADHD患者において、methylphenidate投与により課題成績の向上に伴い右前頭前野のNIRS振幅の増大を認め、薬物治療への反応性予測や薬効評価に利用できる可能性が示唆された(Clin Neurophysiol 2012, NeuroImage: Clinical 2012)。
(5)鑑別診断における有用性について
NIRSデータが双極性障害類似であった294例のうち双極性障害は37%、大うつ病性障害などが44%であり、NIRSで双極スペクトラムを捉えられる可能性が示唆された(日本生物学的精神医学会 2012)。
結論
統合失調症・気分障害・ADHDの診断、重症度・病態・薬効の評価、発症・予後・診断変更の予測に、NIRS検査が有用であることが示唆された。先行する研究班でまとめた書籍『NIRS波形の臨床判読-先進医療「うつ症状の光トポグラフィー検査」ガイドブック』によりNIRSの検査・解析・判定について標準化と均霑化の基盤を整備するとともに、国立精神・神経医療研究センター病院が開催した「NCNP光トポグラフィー講習会」と「NCNP光トポグラフィー判読セミナー」で講師などを担当し、NIRS検査の普及とその質を保証するシステム構築の第一歩とできた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224070Z