文献情報
文献番号
201224067A
報告書区分
総括
研究課題名
リアルタイムfMRIによる脳機能画像を用いた、ストレス関連疾患の治療法に関する研究
課題番号
H22-精神-若手-019
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
守口 善也(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所精神生理研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
2,695,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年,米国を中心に,リアルタイムfMRI(rtfMRI)と呼ばれる脳活動の自己コントロール法が開発されつつある。これは「ニューロフィードバック」とも呼ばれ,ある脳部位における,機能的磁気共鳴画像(fMRI)によって測定された脳活動を,被験者にわかりやすいように同時的にフィードバックし,被験者自身がその脳活動の情報をもとにそれを変化させるように繰り返しトレーニングすると,特定の脳の活動を自律的にコントロールすることが可能になるというものである。この手法は,精神神経疾患に対する,薬物療法に依存しない,非侵襲的な,ニューロサイエンスを応用した革新的なアプローチとなる可能性を持つものとして脚光を浴びつつある。
本研究は,現代社会で急増しつつあるストレス関連疾患の新規治療法としてrtfMRIによる脳活動の自己コントロール法を用いた非薬物治療プログラムを開発するという国内外通じて初めての試みである。本手法が開発されれば薬物抵抗性の難治症例に対する有力な代替療法になるものと期待される。
本研究は,現代社会で急増しつつあるストレス関連疾患の新規治療法としてrtfMRIによる脳活動の自己コントロール法を用いた非薬物治療プログラムを開発するという国内外通じて初めての試みである。本手法が開発されれば薬物抵抗性の難治症例に対する有力な代替療法になるものと期待される。
研究方法
前年度までの研究で、米国の技術者と協力し、本センターのMRI機器にrtfMRIのシステムをセットアップし、その上で、予備実験で得られた脳領域をターゲットにした、脳活動の自己コントロールのパラダイムを確立した。まずは、先にリクルートした健常群を対象に、EPIシークエンスによるfMRI撮像中に情動刺激を与え、個々人において、該当する脳活動領域を改めて確認する。次に、同じ課題を与え、その脳領域のBOLD信号を撮像と同時にその場で抽出、解析し、その脳活動の値を、fMRI撮像中の被験者に視覚的にわかりやすく提示するためのソフトを開発した。被験者はその自己の脳活動の値の変化の情報を元に、次に情動刺激を受けた時には、その脳活動を自分で変化させるように自己の思考態度を変えるよう試行錯誤する。この繰り返しのトレーニングにより、特定の脳の活動を自律的にコントロールできるようになることが、前年度の研究までで確認された。
24年度は、上記のrtfMRIの開発導入を継続しつつも、デザインの妥当性を確認できたトレーニングプログラムに関しては、疾患群をリクルートし応用をはかる。情動刺激としては、疾患の特異性にあわせるが、今回は恐怖症を取り上げる。恐怖症においてその引き金となる対象物や状況、その契機となる出来事や場面に関連する刺激を作成・使用する。この外界のストレスに対して、自己の脳がどのように反応したか、という情報を元にした自己コントロールのスキルを習得することにより、ストレス耐性を高めるようなプログラムの開発を行う。
さらに、rtfMRIによるニューロフィードバックによる治療効果の評価を行う。上記疾患群への介入前・直後、及びフォローアップ(3ヶ月後)によって、介入効果を評価する。
24年度は、上記のrtfMRIの開発導入を継続しつつも、デザインの妥当性を確認できたトレーニングプログラムに関しては、疾患群をリクルートし応用をはかる。情動刺激としては、疾患の特異性にあわせるが、今回は恐怖症を取り上げる。恐怖症においてその引き金となる対象物や状況、その契機となる出来事や場面に関連する刺激を作成・使用する。この外界のストレスに対して、自己の脳がどのように反応したか、という情報を元にした自己コントロールのスキルを習得することにより、ストレス耐性を高めるようなプログラムの開発を行う。
さらに、rtfMRIによるニューロフィードバックによる治療効果の評価を行う。上記疾患群への介入前・直後、及びフォローアップ(3ヶ月後)によって、介入効果を評価する。
結果と考察
H24年度においては、前年度までに完成したリアルタイムfMRI・フィードバック解析システムを用いて、実際のストレス関連疾患群(恐怖症)を対象に、フィードバックトレーニングによる介入を行った。その結果、フィードバックトレーニングによって、恐怖対象に対する恐怖・不安が減少し、単純な曝露群に比べて、恐怖の対象に対する回避傾向が改善し対処へ自信がついたこと、さらに背外側前頭前野を中心とした脳活動の上昇、全般的注意能力の改善がみられ、今後の臨床応用の可能性が確認された。
結論
前年度までで、本センター脳病態統合イメージングセンター3TMRIに、開発されたリアルタイムfMRIシステムをインストールし、本年度は、そのシステムを用いて、恐怖症を対象にしたフィードバックトレーニングパラダイムを構築し、その効果判定を行った。そのパラダイム構築においては、マインドフルネスや、注意の柔軟性に着目した。その結果、回避からの離脱や対処への自信が生まれるなど、このシステムの臨床的な有用性が示唆された。本研究は、精神科臨床において、ストレス関連疾患に特に重要な非薬物的アプローチである認知行動療法と、ニューロサイエンスを組み合わせることによって、より効果的なアプローチの可能性を示唆した点で、「認知神経行動療法」とも呼べるような新しい領域を開拓するのに貢献をしたと考えられる。今後は、より詳細な神経行動学的・精神生理指標などを用いた上での、大規模なランダム化比較試験などが必要であり、さらに、より多様な疾患群(その他の恐怖症、不安障害群、強迫性障害、PTSD、ADHDなど)にもその適応をひろげて検討することが必要と思われる。
公開日・更新日
公開日
2015-05-21
更新日
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