精神障害者に対する包括的禁煙対策の確立

文献情報

文献番号
201224061A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害者に対する包括的禁煙対策の確立
課題番号
H22-精神-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岸本 年史(公立大学法人奈良県立医科大学 医学部医学科)
研究分担者(所属機関)
  • 赤池 孝章(熊本大学大学院生命科学研究部 微生物学分野)
  • 谷垣 健二(滋賀県成人病センター)
  • 新貝 憲利(成増厚生病院)
  • 高橋 裕子(奈良女子大学保健管理センター)
  • 深見 伸一(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部医学科)
  • 古郡 規雄(弘前大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
4,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
総合的に精神科禁煙対策を提言することを目的とし、以下のような検討を行う。1)喫煙による抗精神病薬への影響を明らかにしつつ、精神疾患を有する喫煙者への治療プロトコールの作成及び、治療の現状を踏まえた精神病棟を有する病院での禁煙化のロードマップを作成する。2)統合失調症患者への喫煙の影響をプロスペクティブに評価し、精神症状、社会的能力などの予後への影響について調査する。3)ヒトにおける統合失調症とニコチンの相互作用に関連する遺伝子の解析と酸化ストレスとの関連を調査する。
研究方法
喫煙による統合失調症への影響については、統合失調症退院患者を再入院時をエンドポイントとし、喫煙群と非喫煙群にわけ、その再入院率を検討した。実際に禁煙治療を行い、その間の症状、認知機能を評価し、長期間の禁煙が統合失調症に与える影響について評価し、また、禁煙による抗精神病薬の血中濃度に与える影響についてメタアナリシスを行って解析した。精神科禁煙化ロードマップ作成に関しては、文献的調査や、禁煙化実施病院及び未実施病院への聞き取り調査を元にロードマップを考案し、実地での使用に基づいて修正を加えた。活性酸素についての研究では、各種硫化水素関連物質の生体内産生動態を調べるとともに、これらの化合物と8-ニトロ-cGMPとの反応機構について解析した。また、統合失調症モデルマウスを用いて、統合失調症とニコチンの相互作用に関わる遺伝子解析を行った。多機能幹細胞を用いた実験的研究ではニューロン誘導培養系の確立をめざした。
結果と考察
統合失調症の喫煙者では非喫煙者に比べ退院後の再入院率が高い傾向が見られた。また、統合失調症患者の禁煙治療では11名中4名が12週間の禁煙治療終了時に禁煙することができていた。しかし、さらにその4週間後ではそのうち1名だけが禁煙を継続することができていた。メタアナリシスでは13個の論文が抽出され、オランザピンに関して喫煙者は非喫煙者に比べて平均C/D比が0.87 (ng/ml)/(mg/day) [95%信頼区間:-0.64, -1.11]低かった。クロザピンに関しては、喫煙者は非喫煙者に比べて平均C/D比が1.11 (ng/ml)/(mg/day) [95%信頼区間:-0.70, -1.53]低く、喫煙がオランザピン及びクロザピンの血中濃度を下げることが明らかとなった。禁煙化ロードマップとして、「禁煙対策評価シート」「時系列シート」「禁煙化に有用なコンテンツ類」の3つを作成した。活性酸素についての研究では、質量分析法を用いた詳細な解析の結果、マウスの各種臓器ホモジネートやヒトの血漿中に、各種チオール化合物に硫黄原子が付加した化合物(ポリスルフィド; R-S-S(n)H)が主要な硫化水素関連物質として存在していることが分かった。さらに、これらのポリスルフィドは、8-ニトロ-cGMPと反応し新規環状ヌクレオチド8-SH-cGMPを生成することにより、8-ニトロ-cGMPの分解・代謝に関わっていることが示された。これらのことから、生体内で生成する各種ポリスルフィドや8-SH-cGMPは、酸化ストレス応答のバイオマーカーとしての有用性が示唆された。統合失調症モデルマウスを用いた研究では、レンチウイルスを用いて生体内神経細胞遺伝子導入法を樹立し、22q11欠損症候群モデルマウスを用い、統合失調症様行動異常を指標とした遺伝子機能解析が成体で可能であることを証明した。 この手法はSNPによる機能変化のスクリーニングにも応用可能であると考えられる。統合失調症患者及び健常者のiPS細胞の樹立を行い、ニューロン誘導培養系の確立に成功し、さらに統合失調症発症に関与が示唆される遺伝子産物の発現レベルを健常者のものと比較した。
結論
精神障害者と喫煙との関連を様々な観点から検討し、精神科におけるより有効な禁煙対策を提言するとともに、ニコチンと統合失調症との関連や、その病態を分子生物学的な観点から検討することができた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224061B
報告書区分
総合
研究課題名
精神障害者に対する包括的禁煙対策の確立
課題番号
H22-精神-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岸本 年史(公立大学法人奈良県立医科大学 医学部医学科)
研究分担者(所属機関)
  • 赤池 孝章(熊本大学大学院生命科学研究部 微生物学分野)
  • 谷垣 健二(滋賀県成人病センター )
  • 新貝 憲利( 成増厚生病院)
  • 高橋 裕子(奈良女子大学保健管理センター)
  • 深見 伸一(公立大学法人 奈良県立医科大学 医学部医学科)
  • 古郡 規雄(弘前大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
総合的に精神科禁煙対策を提言することを目的とし、以下のような検討を行う。1)喫煙による抗精神病薬への影響を明らかにしつつ、精神疾患を有する喫煙者への治療プロトコールの作成及び、治療の現状を踏まえた精神病棟を有する病院での禁煙化のロードマップを作成する。2)統合失調症患者への喫煙の影響をプロスペクティブに評価し、精神症状、社会的能力などの予後への影響について調査する。3)ヒトにおける統合失調症とニコチンの相互作用に関連する遺伝子の解析と酸化ストレスとの関連を調査する。
研究方法
統合失調症退院患者を再入院時をエンドポイントとし、喫煙群と非喫煙群にわけ、その再入院率を検討した。禁煙治療を行い、その間の感覚情報処理機能を評価し、長期間の禁煙が統合失調症に与える影響について評価し、また、禁煙による抗精神病薬の血中濃度に与える影響についてメタアナリシスを行って解析した。さらに、オランザピンの禁煙時における血中濃度動態についてコンピューター上でシュミレーションを行った。精神科禁煙化ロードマップ作成では、文献的調査や、禁煙化実施及び未実施病院への聞き取り調査を元にロードマップを考案した。精神障害者の禁煙プロトコールについては、禁煙外来受診者の禁煙経過について調査し、禁煙プロトコールを作成した。酸化ストレスに関連した喫煙および統合失調症の病態解明と新たな診断・治療法の確立をめざして、新規酸化ストレスバイオマーカーの探索と酸化ストレス応答の分子メカニズムの解析を行った。また、統合失調症モデルマウスを用いて、NMDA受容体拮抗薬MK801投与時の行動異常を指標に、ニコチンの急性投与、慢性投与によるこれらの行動異常の修飾に関与する遺伝子座を、遺伝学的に解析を行った。多機能幹細胞を用いた実験的研究ではニューロン誘導培養系の確立をめざした。
結果と考察
統合失調症の喫煙者では非喫煙者に比べ退院後の再入院率が高い傾向が見られた。また、統合失調症患者の禁煙治療では11名中4名が禁煙治療終了時に禁煙できており、さらにその4週間後では1名だけが禁煙を継続することができていた。メタアナリシスでは13個の論文が抽出され、喫煙がオランザピン及びクロザピンの血中濃度を下げることが明らかとなった。禁煙時のオランザピン血中濃度動態のシュミレーションカーブから禁煙開始1週間以内に投与量を67%に減量することが血中濃度に影響が少ないことがわかった。禁煙化ロードマップとして、「禁煙対策評価シート」「時系列シート」「禁煙化に有用なコンテンツ類」を作成した。禁煙プロトコールとして以下の4つが示唆された。①初回受診者に精神科疾患の有無を質問する(特にうつ傾向)。②禁煙治療には長い期間が必要で、保険診療3ヶ月では不十分なことが多い。③禁煙成果が低いことと途中疾患の悪化時に専門医との連絡を密にすることを伝えておく。④毎診察日に精神状態を確認し、悪化を未然に防ぐ。活性酸素についての研究では、2例の喫煙者において比較的高いレベルの血漿蛋白質中の3-NTを検出した。また、酸化ストレス応答に関わる因子である硫化水素関連物質の血中濃度は、統合失調症喫煙者で高い傾向が見られた。また、培養神経細胞ではニコチン処理により8-ニトロ-cGMPが生成され、そのシグナル活性が生体内で生成する硫化水素関連物質により制御されていることを見いだした。以上より、3-NTや硫化水素関連物質は、喫煙や統合失調症における酸化ストレスのバイオマーカーとして有用性が示された。統合失調症モデルマウスを用いた遺伝学的研究では①22q11欠損症候群のモデルマウスを用い遺伝学的解析を行った結果、MK801による統合失調症様行動異常を用いた場合と異なる遺伝的背景がニコチンの相互作用に影響を及ぼすことが示唆された。②QTL解析によって見出されたニコチンの相互作用に影響を及ぼす遺伝子座D18Mit186.1とDXMit19.1の近傍にC57Bl6と129Sv で異なるSNPがそれぞれ5901個と816 個存在することをin silicoの解析にて見出した。③これらのSNP の中から、統合失調症様行動異常に与えるSNP の影響を効率よくスクリーニングするため、レンチウイルスを用いて生体内神経細胞遺伝子導入法を利用し、統合失調症様行動異常を指標とした遺伝子機能解析が成体で可能であることを示した。また、統合失調症患者及び健常者のiPS細胞の樹立を行い、ニューロン誘導培養系の確立に成功し、さらに統合失調症発症に関与が示唆される遺伝子産物の発現レベルを健常者のものと比較した。
結論
精神障害者と喫煙との関連を様々な観点から検討し、精神科におけるより有効な禁煙対策を提言するとともに、ニコチンと統合失調症との関連や、その病態を分子生物学的な観点から検討することができた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224061C

成果

専門的・学術的観点からの成果
遺伝学的研究からは、統合失調症様症状とニコチンの相互作用を考慮する際に遺伝学的背景を考慮しなければならない可能性がうかがえた。また、SNPが遺伝子機能に及ぼす影響を,効率よく生体内で検証するシステムを樹立することができた。酸化ストレスに関する研究からは、喫煙による酸化ストレスが統合失調症の病態に及ぼす生理的あるいは病的な作用を理解する上で重要な知見であることを示した。
臨床的観点からの成果
喫煙により、統合失調症の予後に悪影響を与えている可能性を見いだした。しかし、統合失調症患者の禁煙成功率は難しくじっくり時間をかけて行う必要があると考えられる。また、実際に禁煙を行った場合のオランザピンの薬物濃度への影響を検討することができた。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
統合失調症と喫煙について、様々な面から検討した。精神科病院の禁煙化までのロードマップを検討し、さらに、禁煙による統合失調症の影響について、予後や認知機能、抗精神病薬の血中濃度など、具体的な検討を行った。統合失調症患者に禁煙を勧める根拠、さらにはその一定の道筋について検討できたと考える。
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
76件
その他論文(和文)
18件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
25件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishida M, Sawa T, Kitajima N, Akaike T. et al.
Hydrogen sulfide anion regulates redox signaling via electrophile sulfhydration.
Nature Chem Biol , 8 , 714-724  (2012)
原著論文2
片山知美、高橋裕子
A大学病院精神科病棟における禁煙化への取り組み -キーパーソンインタビューによる検討の結果-
禁煙科学 , 6 , 4-11  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2017-07-20

収支報告書

文献番号
201224061Z