補償光学適応走査型レーザー検眼鏡を用いた糖尿病網膜症の病態解析と早期発見、早期治療に関する研究

文献情報

文献番号
201224050A
報告書区分
総括
研究課題名
補償光学適応走査型レーザー検眼鏡を用いた糖尿病網膜症の病態解析と早期発見、早期治療に関する研究
課題番号
H24-感覚-若手-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宇治 彰人(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,815,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
補償光学の技術を適用した共焦点走査型レーザー検眼鏡(Adaptive Optics Scanning Laser Ophthalmoscopy: AO-SLO)を用いて非侵襲的に糖尿病網膜症における傍中心窩網膜毛細血管網の血流動態をとらえ、病初期の微小循環障害を解明していく。このように糖尿病網膜症の早期発見、早期治療を実現することによって、患者には将来的な見通しや生活習慣改善のアドバイスを提供できるようになり、失明の予防や視機能の温存が可能になると考えられる。さらに、汎網膜光凝固術や硝子体手術などの重傷化した糖尿病網膜症に対する現在の高額な治療を減らすことが可能となり、医療費の削減につながると期待される。
研究方法
1)非線形レジストレーションを用いた動画の補正方法の検討
AO-SLOは網膜毛細血管の血流動態を非侵襲的に観察することができるが、画像は撮影中に固視微動の影響を受けやすく、単純な位置合わせだけでは矯正不可能な位置ずれが生じる。今後の解析の基礎となる画像処理技術の結果に与える影響の検討は必須である。非線形レジストレーションを用いた補正方法を提案し、網膜毛細血管画像構築への有効性を検討した。
2)健常眼及び糖尿病網膜症における血球速度の解析
京都大学眼科外来に設置されたAO-SLOを用いて健常者および糖尿病網膜症患者の傍中心窩網膜毛細血管網を撮影、保存した。すでに開発済みの血流解析専用ソフトウェアを用いて、耳側および鼻側の1.4°x2.8°の範囲に対して、動画から血管造影を構築、時空間画像を用いた血球速度の算出、血球成分の配列の変化を測定した。毛細血管においても、血球速度は心拍動の影響を受けるため、すべての対象について、パルスオキシメーターを用いて心拍動を記録、すべての血球に対して脈波との同期処理を行った。
結果と考察
1)非線形レジストレーションを用いた動画の補正方法の検討
健常眼24眼、患眼25眼(糖尿病網膜症5眼、傍中心窩網膜毛細血管拡張症5眼、黄斑前膜5眼、中心性漿液性網脈絡膜症5眼、緑内障5眼)で撮影が成功した。すべての疾患において構築された血管像の背景に対するCNR(コントラストノイズ比)は、非線形レジストレーションを行った方が、行わなかった方より有意に高く、平均2.1倍高かった。演算に必要とした時間は平均626秒(Corei7, 2.80 GHz)と長かった。
2)健常眼及び糖尿病網膜症における血球速度の解析
撮影した人数は健常者が24人、糖尿病患者が100眼であった。糖尿病患者のうちも糖尿病網膜症を認めたのは59人で、その内訳はmild non-proliferative diabetic retinopathy (NPDR)が22人、moderate NPDRが25人、severe NPDRが3人、proliferative diabetic retinopathy (PDR)が9人であった。NPDRのうち、血球速度が計測可能な画質が得られたのは10人であった。10眼10人に対する合計220個の血球速度の検討の結果、糖尿病網膜症(1.45 ± 0.52 mm/s)では正常眼(1.33 ± 0.40 mm/s)と比較して、有意に早かった。一方で糖尿病網膜症6眼のみで、時空間画像において白血球後端の速度の急激な減速を認めた。原則前後の速度差の平均は0.95 ± 0.53 mm/sであった。

非線形レジストレーションはAO-SLO動画の歪みの補正に有効であり、明瞭な網膜毛細血管画像構築に有用であると考えられるが、処理時間が長く、処理速度の高速化が課題である。傍中心窩における血球の流速は糖尿病網膜症患者で有意に早いことがわかった。また一方で糖尿病網膜症患者では血球の流速が著しく低下する血管が存在することがわかった。これはleukostasisを可視化している可能性があり、今後対象を増やして検討する予定である。
結論
AO-SLOは非侵襲的に網膜微小循環を可視化することができる。糖尿病網膜症において、毛細血管レベルの血流変化を評価できる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224050Z