他覚的耳鳴検査の開発と耳鳴リハビリテーション法の確立

文献情報

文献番号
201224049A
報告書区分
総括
研究課題名
他覚的耳鳴検査の開発と耳鳴リハビリテーション法の確立
課題番号
H24-感覚-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小川 郁(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 神崎 晶(慶應義塾大学 医学部)
  • 大石 直樹(慶應義塾大学 医学部)
  • 満倉 靖恵(慶應義塾大学 理工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
9,437,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
耳鳴の他覚的診断法を開発し、治療、リハビリテーション法の開発を行う。耳鳴と中枢機能の関連性について解析する。本研究成果と国際的な耳鳴治療に関するエビデンスをまとめ耳鳴診断治療のアルゴリズムの提案・社会への啓蒙を目的とする。
研究方法
1)他覚的耳鳴検査法の確立
今まで脳波は電極を配置する部位が国際10-20法により定められている(右図)が、分担研究者である満倉らはこれまでに,感情が出やすいとされている前頭葉FP1箇所に着目し,FP1のみを取得できる簡易型脳波計測器を独自に開発し(左図),興味度推定システムや嗜好取得,触感の好み,音楽の好き嫌いなど五感から得られる情報をもとにそれらに対する嗜好の評価を行う方法を提案した(特願2008-154446)右図における、T3箇所およびFP1箇所を用いた音質評価(特許出願中)などの予備的な研究成果を得ている。上記成果に加え,T3箇所の脳波計測中に,聞いている音の周波数を変化させると,音の変化に対応して脳波が変化していることも分かっている(特許出願中)。耳鳴音の周波数によって発せられる特異的な脳波を利用して特定することができる。
2)耳鳴患者における耳鳴遺伝子の解析
100名の耳鳴患者の採血を施行し、耳鳴に関わる遺伝子を探索する。
耳鳴患者の血清BDNFの解析
治療効果と血清BDNF値の相関をみる。われわれは、冒頭で示した通り、血清BDNFとtinnitus handicap inventory (THI;苦痛度)が相関しており、苦痛度が脳のうつ状態に伴うBDNFに反映されることがわかっており、耳鳴評価法として注目している。
3) 耳鳴に対する経頭蓋直流電気刺激(tDCS)
耳鳴患者頭部を刺激し治療効果を判定する。
4)反復経頭蓋刺激;repeated transmagnetic stimulation (rTMS)を用いた解析
現行の治療が無効であったMagstim社のMagstim Super Rapidと、直径70mmの8型の刺激コイルを用いる。運動閾値の90%の強度、1Hzの周波数をTMS刺激として使用する。10日間を1クールとしてその効果を判定する。
5)薬物療法、音響療法における耳鳴患者の解析
薬物療法、音響療法、rTMSを施行した耳鳴患者の治療前後における脳波と血清BDNFを解析する。
結果と考察
1)国際的標準耳鳴実態調査票の確立 耳鳴の臨床像、2)耳鳴苦痛度と関連したうつ・不安
の評価—SDS・STAI—3)耳鳴と睡眠の関連性、4)聴覚過敏の新しい質問紙の確立
5)耳鳴のバイオマーカーとしての血漿BDNFの有効性、6)耳鳴と自律神経検査、7)耳鳴と
脳波測定の開発、8)耳鳴・聴覚過敏と中枢性画像診断、9)耳鳴患者の遺伝子解析、10)経頭
蓋磁気刺激の効果、以上10点について検討した。いずれの研究も倫理委員会の承認をえた。

1)-4)までは質問票を使って解析し、うつ、不安が強いこと、睡眠障害が予後不良であるこ
とがわかった。5)は血清BDNF値が低いほど予後が良いことがわかっている。6)耳鳴と同じ
音を与えると、自律神経の反応として指尖部の温度が低下することがわかりり、自律神経機能低
下を示唆した。脳波では耳鳴患者においてFP1領域では10Hzの脳波パターンが異なることを見出
した。自律神経を介した他覚的評価を確立し、臨床応用にむけて近づいたと考える。
耳鳴患者の遺伝子解析を行い、今までうつに関連する遺伝子を中心に解析したが、相関のあるも
のは検出されていない。経頭蓋磁気刺激(TMS)の反復刺激は2週間で10回施行すると6ヶ月有効
であることが判明した。
結論
TSCHQと聴覚過敏の各質問票は今後論文で発表しwebにて公表し、全国の耳鼻咽喉科医に使用できるようにする予定である。国際比較を可能にできるように全国調査を広めたい。血清BDNF値は耳鳴予後の相関に重要であることが解明し、病態の理解や診療に応用可能であり、耳鳴のマーカーとして使用できる可能性が高いことを示した。新しい簡易型の脳波解析によって、客観的解析が可能になる可能性がある。商品化に向けて努力したい。経頭蓋磁気刺激(rTMS)により耳鳴が抑制されることが期待される。FMRIを用いることで、耳鳴患者において帯状回と聴覚野の機能的結合が強くなり、両側聴覚野の結合が弱いことが解明された。補聴器を装用することで、それらの機能的結合が改善すること
も判明した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224049Z