日本人常染色体劣性網膜色素変性症の遺伝子診断法に関する研究

文献情報

文献番号
201224047A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人常染色体劣性網膜色素変性症の遺伝子診断法に関する研究
課題番号
H24-感覚-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 誠志(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岩波 将輝(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
  • 世古 裕子(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
12,436,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国立障害者リハビリテーションセンターを訪れる視覚障害者の約1/3が網膜色素変性症(RP)に罹患している。日本全国では約3~4万人のRP患者がいると推定されている。RPは、夜盲に始まり、徐々に視野狭窄、視力低下が起こる進行性の遺伝子疾患であり、現在有効な治療法はない。中途失明により就労が困難となるケースが多く、RP患者の社会生活を支援するためにも、予後の予測法や抜本的治療法が望まれている。本研究の目的は、我々が最近明らかにした日本人の常染色体劣性網膜色素変性症(arRP)の主要原因遺伝子であるEYSについて、遺伝子診断法を確立し、予後予測や治療法の手がかりを得ることである。
研究方法
(1) 当センター病院眼科を受診したRP患者200名から網膜の臨床像と血液を収集した。これらの血液から抽出した白血球ゲノムDNAと京都大学病院眼科から提供を受けた関西圏のarRP患者209名のゲノムDNAを用い、日本人にのみ見いだされた3種類の創始者変異(EYS-JM1、EYS-JM2、EYS-JM3)について、各変異を含むエクソンをPCR法により増幅後、直接塩基配列を決定した。(2) EYS 遺伝子変異が同定された患者について、遺伝子型と臨床所見との関連解析を行った。(3) 直接リプログラミング法により、ヒト皮膚細胞を視細胞に分化誘導する方法を検討した。
結果と考察
(1) 当施設arRP患者193名のうち3割において EYS遺伝子変異陽性の結果を得た(感度30%、特異度98.5%)。これら陽性患者のうち、約6割については両側アレルからの変異検出となり、診断が可能であった。東日本と西日本における遺伝疫学の比較において、アレル頻度に着目した場合、EYS-JM1については、東日本に多く、西日本において少ない傾向が観察された。EYS-JM2とEYS-JM3については、大きなアレル頻度の差は見られなかったが、両側アレルからの変異検出頻度の割合について比較をすると、東日本と西日本とで、EYS-JM1、EYS-JM2およびEYS-JM3の構成内容には大きな違いが見られた。(2) EYS 遺伝子変異が同定された23 名(平均年齢52.0歳、経過観察期間平均7.3 年)について臨床所見に基づいた解析を行った結果、夜盲の自覚が20歳代に最も多く、診断時年齢は平均39.0歳と中年期に進行を認める典型的な遅発型RPであることが示唆された。遺伝型-表現型における解析では、短縮型変異をホモまたは複合ヘテロ接合で2つ有する個体群と、短縮型変異を1つ有し他方にアミノ酸置換を伴うミスセンス変異を複合ヘテロ接合でもつ個体群の比較において、前者で重症化する傾向が確認された。(3) 網膜色素変性症患者の体細胞を視細胞に分化誘導し、変性視細胞モデルを作出することを目的として、市販のヒト皮膚繊維芽細胞の直接リプログラミングによる視細胞への分化誘導法を検討した結果、視細胞特異的なEYS遺伝子の発現を誘導することに成功した。
結論
arRPの遺伝子診断において、日本人に特異な3つのEYS創始者変異を調べる一次スクリーニング法の有効性が示された。片側アレルにのみ変異を有する患者については、対になる変異の探索を続ける必要がある。東日本と西日本において、EYS遺伝子変異型の構成が一部異なる可能性が示唆された。また、遺伝型と重症度との間に相関関係のあることを再確認した。さらに、直接リプログラミングを用いて、ヒト皮膚繊維芽細胞を視細胞へ分化誘導できる可能性が示された。今後、RP患者由来の分化誘導視細胞を用いる遺伝子診断法の開発につなげて行く。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224047Z