先天性サイトメガロウイルス感染症による難聴のマス・スクリーニングおよび治療法に関する研究

文献情報

文献番号
201224046A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性サイトメガロウイルス感染症による難聴のマス・スクリーニングおよび治療法に関する研究
課題番号
H24-感覚-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岩崎 聡(国立大学法人信州大学 医学部附属病院人工聴覚器学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 宇佐美 真一(信州大学医学部耳鼻咽喉科学講座)
  • 小池 健一(信州大学医学部小児科学講座)
  • 塩沢 丹里(信州大学医学部産科婦人科学講座)
  • 小川 洋(福島県立医科大学会津医療センター準備室)
  • 工 穣(信州大学医学部耳鼻咽喉科学講座)
  • 茂木 英明(信州大学医学部耳鼻咽喉科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
12,436,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天サイトメガロウイルス感染は、全出生児の0.5~2.5%に認められる比較的頻度の高い先天ウイルス感染症のひとつであり、感染児のうち10%は神経学的な発育障害、網脈絡膜炎、先天性感音難聴を呈する。また、残りの約90%は無症候性で出生時には無症状であるが、その中の35%は遅発性の中等度~高度難聴を発症すると報告されている。特に、遅発性・進行性の種々の症状に関しては、ガンシクロビルや特異抗体を用いた発症予防、進行予防が可能であることが報告されており、先天サイトメガロウイルス感染の早期発見のためのマス・スクリーニングシステムの構築と、早期発見後の予防医療の確立により、症状の重篤化を予防することが期待される。本研究では先天性サイトメガロウイルス感染症を早期発見するためのマス・スクリーニングに適したシステムの開発およびマス・スクリーニングの実施による有効性の検証を目的としている。
研究方法
保存臍帯を用いた先天性CMV感染症検査
先天CMV感染症の検査は新生児尿中に含まれるCMV DNA検査が標準的であるが、生後2週間以上経過した症例では、先天感染と出生後初感染なのかを区別することが困難である。難聴の診断がなされる生後6ヶ月ごろに診断を行うためにはレトロスペクティブに先天性感染の有無を区別可能な検査手法の確立が必要であるため保存臍帯よりDNAの抽出を行い、TaqMan法を用いた定量PCRによりサイトメガロウイルスのコピー数測定を行う系の確立をおこなった。

先天性CMV感染症のマス・スクリーニング検査手法の確立およびマス・スクリーニング
保存臍帯を用いた検査は定量性が高く有用な検査ではあるが、DNA抽出のプロセスに時間がかかるため、マス・スクリーニングを行うためには、よりスループットの高い検査系を確立する必要がある。本研究では先天性代謝異常スクリーニングとして実施されるガスリーカードへの採血時に、DNAを高品質で長期間保存可能なFTAカードに同時にスポットする採取法の有効性に関する検討を行った。また、開発した系を用いたスクリーニング検査を開始した。

本邦におけるCMV株の直接シークエンス解析
先天性CMV感染症の原因として最も多いのが妊娠中の初感染であるが、実際には妊娠初期のIgGが陽性であっても先天CMV感染が起こるケースが報告されている。本研究では先天CMV感染陽性であった12例を対象にサイトメガロウイルスの抗原部位であるgB遺伝子の配列決定を行った。
結果と考察
保存臍帯を用いた先天性CMV感染症検査
US14領域に設計したTaqMan Probeを用いた定量PCRを用いて先天CMV感染の有無を検討する検出系を用い保存臍帯を用いた先天性CMV感染症検査の有用性に関する検討を行った。本研究により確立された検出系は非常に再現性が高く、陽性コントロール、陰性コントロールとも擬陽性・偽陰性として検出されたケースは無かった。また、定量性に関する検討を行った所、非常に定量性も高いことが明らかとなった。
 
FTAカードを用いた先天性CMV感染症マススクリーニング検査に関する検討
FTAカードを用いた検出系の、陽性検体および陰性コントロールを用いて感度・特異度の検討を行った。その結果、陽性コントロールでは同一サンプルの12回計測で10回の検出であり、感度は10/12=83%程度であった。一方特異度に関しては非常に高く、擬陽性はほとんど認められず36検体の測定で1検体のみであった(97%)。この結果より、本検査では擬陽性となるケースは非常に少ないのに対して偽陰性となる可能性が15%程度と比較的高率であったため、4重測定を行い偽陰性率を低下させる方法を採用した。また、実際にマス・スクリーニングを開始し154検体の解析を完了しており、うち1例で陽性との結果が得られた

本邦におけるCMV株の検討
保存臍帯を用いた先天性CMV感染症検査の結果、CMV陽性となった症例を対象に、gB遺伝子の直接シークエンス解析を行った結果、本邦におけるCMV株は大きく2種類に大別されることが明らかとなった。
結論
本研究により、定量性およびスループットに優れた定量PCR法による検出システムを構築するとともに、その感度および特異度に関して明らかにした。また、FTAカードを用いたマススクリーニングとして154名の新生児のスクリーニング検査を実施する事が出来た。さらにまた、本邦におけるCMV株の検討を行い、2株存在することが確認された。今後更に多数の症例を解析することで、本邦における罹患者頻度が明らかとなることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224046Z