前庭水管拡大症の臨床所見と遺伝子変異解析に基づく新診断基準作成

文献情報

文献番号
201224041A
報告書区分
総括
研究課題名
前庭水管拡大症の臨床所見と遺伝子変異解析に基づく新診断基準作成
課題番号
H23-感覚-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
喜多村 健(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科耳鼻咽喉科学)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 郁(慶應義塾大学 耳鼻咽喉科)
  • 中島 務(名古屋大学 耳鼻咽喉科)
  • 宇佐美 真一(信州大学 耳鼻咽喉科)
  • 岡本 牧人(北里大学 耳鼻咽喉科)
  • 暁 清文(愛媛大学 耳鼻咽喉科)
  • 福田 諭(北海道大学 耳鼻咽喉科)
  • 佐藤 宏昭(岩手医科大学 耳鼻咽喉科)
  • 山岨 達也(東京大学 耳鼻咽喉科)
  • 福島 邦博(岡山大学 耳鼻咽喉科)
  • 原 晃(筑波大学 耳鼻咽喉科)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,949,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、最も高頻度とされている内耳奇形の前庭水管拡大症の全国疫学調査により、我が国の受療者数の推定を行う。さらに、本疾患の多様な臨床所見と原因遺伝子に基づき、亜分類を含む新しい診断基準を作成する。この新分類により、それぞれの症例に応じた聴平衡覚障害進行の予後に関するカウンセリングが可能となり、原因遺伝子の解析から、分子病態に基づいた予防および治療方法探索を最終目標とする。
研究方法
 疫学調査研究は、分担研究者を含む全国調査で、疾患、臨床所見、遺伝形式、合併症の有無などを調査し、非症候群性遺伝性難聴(優性、劣性、孤発)、Pendred症候群、BOR/BO症候群、遠位尿細管性アシドーシス、これらに属さない症候群性難聴に分類し、本疾患の受療者数ならびに罹患者数を推計する。また、遺伝学的検査が施行されている症例については原因遺伝子を調査し、前記疾患分類の情報として活用する。臨床所見に関しては、(1)臨床症状(難聴の進行や変動の有無、めまいの性質や頻度、症状悪化時の誘因の有無など)、(2)検査所見(経時的なオージオグラムと眼振所見、温度眼振検査所見など)、(3)CTにおける前庭水管中間径、(4)治療内容を調査する。調査対象は、651の耳鼻咽喉科研修指定施設を対象として、研究の概略、診断基準、症例の有無についての回答用紙、調査個人票を、研究班として作成した。
 遺伝学的検査に関しては、検査に対して書面による同意が得られた症例を対象に行う。ターゲットとする遺伝子は、SLC26A4(DFNB4/Pendred症候群の原因遺伝子)、EYA1、SIX1(BOR/BO症候群の原因遺伝子)、ATP6V1B1、ATP6V0A4(遠位尿細管性アシドーシスの原因遺伝子)とする。全症例に対して、最も頻度の高い原因遺伝子SLC26A4の遺伝学的検査を行う。Pendred症候群、BOR/BO症候群、遠位尿細管性アシドーシスに関しては、各原因遺伝子を解析する。常染色体優性遺伝形式の非症候群性難聴に関しては、SIX1の遺伝学的検査を行う。これらに属さない症候群性遺伝性難聴については、症候群として同定された遺伝子(例:Waardenburg症候群でPAX3)を解析する。これらの調査研究から、前庭水管拡大症に占める各原因遺伝子別の疾患の頻度、各疾患の臨床所見の特徴を明らかとし、亜分類を含めた前庭水管拡大症の新しい診断基準を作成する。
結果と考察
 全国調査による対象疾患の罹患者の推定研究は、全国の651対象施設に一次調査用紙を送付し、502施設(77.1%)から回収し、当該症例ありが102施設、なしが400施設であった。総症例数は406例で、男性174例、女性232例である。この症例ありとした施設に二次調査として調査個人票(資料4)を送付し、2013年1月23日時点で、48施設(47.1%)から回答が得られ221例のデータが集積された。この221例の解析では、Pendred症候群が22例、BOR症候群2例、遠位尿細管アシドーシスが1例、CHARGE症候群が1例、Beckwith-Wiedmann症候群が1例、6番染色体異常が1例みられた。今後、二次調査で回答がなかった施設からの回収を再度依頼し、集積された調査個人票(別資料4)をもとに、臨床データを解析予定である。
 主任ならびに分担研究者の施設からは、合計88症例が収集され、家族歴からは弧発例が56例、劣性遺伝形式が10例、優性遺伝形式が2例に認められた。対象症例中、Pendred症候群が11例、BO症候群が2例、遠位尿細管性アシドーシスが2例であった。CHARGE症候群は見られなかった。合併する奇形としては、耳介奇形が2例、耳瘻孔が2例、前庭水管拡大以外の内耳奇形が14例に見られた。心ならびに腎疾患と糖尿病を合併する症例はなかった。遺伝子解析からは、SLC26A4が10例、ミトコンドリアDNA 1555変異が1例、 SIX1変異が2例、 ATP6B1V1変異を1例に同定した。
結論
① 全国の651対象施設に一次調査用紙を送付し、502施設(77.1%)から回収し、当該症例数は406例(男性174例、女性232例)であった。
②二次調査では、2013年1月23日時点で、48施設(47.1%)から回答が得られ221例のデータが集積され、内耳奇形の中では、高頻度の奇形であると再確認された。
③ 主任ならびに分担研究者が収集済みの88症例の検討から、前庭水管拡大症の原因遺伝子として最多はSLC26A4であるが、ATP6V1B1と、SIX1変異が関与していると判明し、本疾患の約28%はSLC26A4以外の遺伝子変異が原因と推測された。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224041Z