新しい人工内耳(EAS)に関する基礎的、臨床的研究

文献情報

文献番号
201224038A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい人工内耳(EAS)に関する基礎的、臨床的研究
課題番号
H23-感覚-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
山岨 達也(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 宇佐美 真一(峻周大学 医学部)
  • 熊川 孝三(虎の門病院 )
  • 高橋 晴雄(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 東野 哲也(宮崎大学 医学部)
  • 内藤 泰(神戸市立医療センター)
  • 工 穣(信州大学 医学部)
  • 岩崎 聡(信州大学 医学部)
  • 土井 勝美(近畿大学 大学院医学系研究科)
  • 坂田 英明(目白大学 保健医療学部)
  • 伊藤 健(帝京大学 医学部)
  • 安達 のどか(埼玉県立小児医療センター)
  • 柿木 章伸(東京大学 医学部附属病院)
  • 鈴木 光也(東邦大学医療センター 佐倉病院)
  • 近藤 健二(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
27,075,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
両側高度感音難聴のうち低音域に残聴をもつ高音急墜型感音難聴症例に対して、新しい人工内耳(EAS)が海外で臨床応用され、本邦でも保険適応が見込まれる。しかし子音の周波数成分が英語などに比べ低音域側に存在する日本語を話す日本人に海外の手術適応基準をそのまま応用することは問題である。本研究では日本におけるEASの適応基準を設定する事、EAでの聴力温存率と成績に影響する因子を明らかにすること、聴力温存を意図した電極技術・薬剤開発を行うことを目的とした。
研究方法
研究方法は5つに分かれる。まず低音域に残聴をもつ高度難聴症例の補聴器装用下での聴取能を語音聴取検査、雑音下の聴取能検査などにより評価した。次にlow pass filter(LPF)をかけて高音急墜型難聴を再現し、日本語と英語の聴取成績を検討した。英語はCID日常文 TEST KEY List 1 、日本語はCI-2004(試案)の成人用日常会話文検査 リスト1を用い、聴力正常で日常会話の英語に不自由しない日本人25名と英語を母国語とし日本語会話の単能な米国人5名を対象として英語と日本語の聞き取り実験を行った。EAS人工内耳術後の聴力温存率については患者の術後聴力を標準純音聴力検査で定期的に評価した。高音急墜型感音難聴の原因検索については原因遺伝子検索を網羅的に行った。聴力温存を意図した電極については、感染の起こりにくい人工内耳の表面コーティングの開発に着手した。コーティング剤としてメタクリロイロキシエチル・ホスホリルコリン(MPC)を用い、ヒト用人工内耳電極にMPCポリマーをコーティングした電極を作成して特性を検討した。動物用人工内耳電極は本コーティング剤を塗布した電極と対照群の非塗布電極を用い、モルモット各5匹に挿入し、術前、術直後から術後4週までABRを測定評価し、電極挿入時の操作性について5段階評価を行った。
結果と考察
低音域に残聴をもつ高度難聴症例の聴取能を評価したところ、大多数の患者で比較的良好であった。また低中音域の聴力がより悪い患者との比較では母音はほぼ判別可能であること、子音も半数近くは十分判別できる傾向が示された。最高語音明瞭度を50%および55%以上、以下の2群で分けて検討したところ、1000Hの聴力閾値が語音聴取能に影響することが判明した。1000Hzでの閾値を①45dB 未満、②45dB以上70dB未満、③70dB以上の三つに分けてみると、①群では語音明瞭度は良好で、異聴もほとんどなく、誤答の場合もほとんどは同じ構音形式の枠内にとどまった。 ②群では全体に正答率は下がるが異聴パターンは変わらず、健常者にLPF <700Hzを聴かせた場合に近い結果となった。③群は全体に成績不良となり、異聴も異なる構音形式の枠内に入る率が増え、健聴耳にLPF <500Hzを聴かせた場合に近い結果であった。LPFでの聴取ではfilterが低音域にかかるほど正答率は低下したが、日本語の聴取成績は英語のそれに比べて常に良好であった。EAS術後の聴力温存については術後1ヶ月以上経過した16症例全例で残存聴力の温存が可能であった。平均的な聴力閾値の上昇は気導125Hzで10dB、250Hzで15.4dB、500Hzで25.4dB、1000Hzで22.9dBであった。EASの聴力像を満たす139例に対して主要遺伝子を直接シーケンス法で解析した結果、26%に遺伝子異常が見つかった。MPCポリマーを用いたヒト用人工内耳電極では走査電子顕微鏡による観察でコーティングあるなしの差はなく、48時間電気刺激後も電圧偏倚は少なく、インピーダンスも安定 していた。動物実験ではコーティングによって電極挿入の操作性は向上し、聴力への悪影響はなかった。
結論
結論として、高音急墜型感音難聴における日本語の語音の判別では急墜する周波数により差が出ること、高音急墜型感音難聴における日本語の語音の判別では1000Hzの閾値が良ければ母音の判別は良好で、子音の異聴も限られること、高音急墜型感音難聴を模倣した状況での聴取では日本語の方が英語より聴取成績が良いことが判明した。この結果から、本邦にEAS型人工内耳を導入する際には、海外の適応基準をそのまま応用するのではなく、語音聴取能の評価および,1000Hz の閾値を考慮することの重要性が示された。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224038Z