ぼうこう又は直腸機能障害の認定基準の見直しに関する研究

文献情報

文献番号
199800092A
報告書区分
総括
研究課題名
ぼうこう又は直腸機能障害の認定基準の見直しに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
望月 英隆(防衛医科大学校)
研究分担者(所属機関)
  • 松島正浩(東邦大学医学部)
  • 穴澤貞夫(東京慈恵会医科大学)
  • 鳶巣賢一(国立がんセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,127,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ぼうこう又は直腸機能障害は、昭和61年以降身体障害者福祉法上の障害と位置づけられ、その障害認定基準を満たしたものについては身体障害者手帳の交付対象となっている。かかる障害福祉に関する法的環境の整備と、その後の医療技術の進歩に伴い、ぼうこう又は直腸機能障害を来した患者の生活の質(以下QOLと略)は確実に向上が図られつつある。しかるに一方、手術的治療の拡大や新しい術式の開発、社会的環境の変化、疾患構成の変化等によって障害の内容にも変化が生じており、現行の認定基準が必ずしも障害に合致した認定を行い得ていないとの指摘も生じている。そこで本研究は、医療・医学の進歩を踏まえ、広く当該領域の知見を収集・解析・検討してより適切な認定基準案を作成し、もって、今後、当該機能障害事例が適切に認定されるための障害程度等級解説の改訂に際して必要となる基礎資料を作成することを目的とする。
研究方法
本研究では、現行の認定基準よりも合理的な認定基準案を作成することが目的であるため、1ぼうこう、直腸機能障害の現状分析を行い、2それを踏まえて現行の認定基準が有している問題点等を抽出し、3より合理的な認定基準案を作成する、との研究計画を立案し、以下の順で研究を行った。・直腸機能障害を来す疾患や術式・治療についての現状分析。・直腸機能障害を有する患者におけるQOLの分析。・ぼうこう機能障害を来す疾患や術式・治療についての現状分析。・ぼうこう機能障害を有する患者におけるQOLの分析。・ぼうこう機能障害と直腸機能障害のQOLへの影響に関する比較分析。・現状とQOLの分析結果からみた現行認定基準の評価と問題点の把握。・新認定基準案の作成。
結果と考察
ぼうこう又は直腸機能障害の呼称は、ぼうこうや直腸が切除された場合や、尿や大便が当該臓器を経ずに瘻孔から排泄されている場合にも用いられてきたが、障害の状態を表現するに当たって正確さを欠き、誤解を生じる恐れがあるため、排尿又は排便機能障害と呼称する方がより適当と判断された。・排便機能障害を来す疾患や術式・治療についての現状分析:手術機器の開発や術式の進歩にかかわらず、直腸がんをはじめとして、人工肛門等の永久的な腸管ストーマ造設を余儀なくされる症例が一定頻度で存在していることが確認された。一方、潰瘍性大腸炎や大腸腺腫症に対しては大腸全摘+回腸J嚢肛門吻合術式が導入され、また、先天性鎖肛症例に対しては肛門形成術が積極的に施行されるようになっていること、これらの症例では永久的な人工肛門が造設されてはいないものの、術後に便失禁をはじめとする高度の排便機能障害が一定頻度で発生していることが明らかにされた。更に、各種の神経障害によっても完全便失禁や便秘を伴う高度の排便機能障害を来たし、生活に著しい支障をきたす病態の存在が指摘された。・排便機能障害を有する患者におけるQOLの分析:腸管ストーマ症例のQOLは確実に低下していることが改めて確認されたが、ストーマ管理技術が向上した現状では、腸管ストーマ症例のQOLを更に損なう要因として重要なものは単にストーマ造設腸管の解剖学的部位ではなく、ストーマの不適切な造設部位や変形によるストーマ管理困難症であることが明確にされた。回腸肛門吻合術施行例ではストーマの造設は無いものの、頻繁な便失禁によりQOLが著しく損なわれるものがあることが明確にされた。また先天性鎖肛に対する肛門形成術後にも同様の問題が生じることがあるが、患児の成長とともに改善が認められることが多く、一定程度の年数の経過をおいて再評価を行う必要性があることが示された。放射線障害等により生じた、大
量の腸管内容の洩れを伴う腸瘻は、腸管ストーマと同等の障害程度であるものと評価された。また神経障害に起因する高度の排便機能障害でも同等のQOLの低下が認められることが指摘された。・排尿機能障害を来す疾患や術式・治療についての現状分析:従来は尿路変更が必要とされた疾患に対しても、最近では腸管を使用した自然排尿型の新膀胱形成術式が導入されつつある。しかしこの術式では尿路は変更されてはいないものの、自己導尿が必要な場合や高度の尿失禁を来す場合があることが明らかにされ、尿路変更と変わらない生活上の支障をきたし得ることが示された。一方、高度の神経因性膀胱による排尿機能障害は、現状では二分脊椎によるものと人工肛門造設術に伴うもののみが障害認定対象とされているが、その他の各種神経障害に起因するものでも高度な排尿機能障害を呈し、QOLの低下に悩む症例が少なくないことが明らかにされた。・排尿機能障害を有する患者におけるQOLの分析:尿路変更や自己導尿、完全尿失禁などはQOLを明らかに低下させるが、特に尿路ストーマの管理困難症では、尿の排泄が持続的であることから、QOL低下への影響は極めて大きいことが確認された。・排尿機能障害と排便機能障害のQOLへの影響に関する比較分析:尿路ストーマと腸管ストーマはQOLへの影響が同等とみなし得ることが示され、管理困難症を伴った場合の生活への支障の程度もほぼ同程度とみなされた。排便機能障害と排尿機能障害とが併存する場合には、障害の程度はより高度となることが指摘された。従来から、二分脊椎による比較的軽度の排便機能障害と排尿機能障害を有するものは障害認定対象とされていたが、各障害基準が不明確なためQOLへの影響が客観的に判定できないことが指摘された。・現状とQOLの分析結果からみた現行認定基準の評価と問題点の把握:実際に排尿又は排便機能障害に悩みながらも現行の認定基準では障害認定を受けられず、福祉の恩恵に浴することができない症例が少なくないことが明確にされた。これらの症例に障害認定の適応を拡大することは、身体障害福祉法の公正性と公平性を高める上で極めて重要であり、障害認定制度に対する国民の信頼を増すものと考えられた。従って、以上の研究結果を踏まえた、新たな認定基準案の作成が急務と考えられた。
結論
1排便機能障害は、・腸管部位の如何を問わない永久的腸管ストーマ造設、・大量の腸内容の洩れを伴う治癒困難な腸瘻、・肛門と口側腸管との吻合術後の高度の排便機能障害、・各種の神経障害による、完全便失禁、あるいは一週間に二回以上の定期的な用手摘便を要する高度の便秘を伴う高度の排便機能障害、の四種類に大別し、・と・に管理困難を伴う場合にはより高度の障害と位置づける。2排尿機能障害は、・永久的な尿路変更のストーマ造設、・神経因性膀胱あるいは手術的に形成された新膀胱で完全尿失禁を伴うか、カテーテル留置あるいは常時自己導尿を要する高度の排尿機能障害を呈するもの、の二種類に大別し、・の管理困難はより高度の障害と位置づける。また、1と2を伴うものはより高度の障害と位置づけることが妥当と考える。以上の原則に則り、障害の程度とQOLとの関連を考慮すれば、四段階に分類されるものと考えられた。しかし現行の内部障害の認定基準に合わせて、障害程度を三段階とした新しい障害認定基準案を作成した。A.身体障害者障害程度等級表の一級に相当する障害:a腸管及び尿路ストーマ造設及び一つ以上のストーマの管理困難、b腸管ストーマ造設及び高度の排尿障害及び腸管ストーマの管理困難。B.三級に相当する障害:a腸管及び尿路ストーマ造設、b腸管ストーマ造設及び高度の排尿障害、c腸管ストーマ造設及び管理困難、d尿路ストーマ造設及び管理困難、e治癒困難な腸瘻及び管理困難、f高度の排便障害及び高度の排尿障害、g先天性鎖肛に対する肛門形成術後の高度の便失禁及び高度の肛門皮膚びらん。C.四級に相当する障害:a腸管ストーマ造設、b尿路ストーマ造設、c高度の排便障害、d高度の排尿障害、e治癒困難な腸瘻、f小腸肛門吻合術後の高度の便失禁及び高度の肛門皮膚びらん。 

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