移植治療後の慢性期完全脊髄損傷患者のリハビリテーションと脳機能再構成および脊髄再生との関連性についての評価法の開発

文献情報

文献番号
201224027A
報告書区分
総括
研究課題名
移植治療後の慢性期完全脊髄損傷患者のリハビリテーションと脳機能再構成および脊髄再生との関連性についての評価法の開発
課題番号
H24-身体・知的-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岩月 幸一(大阪大学 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 梅垣 昌士(大阪大学 医学系研究科)
  • 吉峰 俊樹(大阪大学 医学系研究科)
  • 田島 文博(和歌山県立医科大学 医学系研究科)
  • 中村 健(和歌山県立医科大学 医学系研究科)
  • 森脇 崇(大阪大学 医学系研究科)
  • 大西 諭一郎(大阪大学 医学系研究科)
  • 渡邉 嘉之(大阪大学 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,256,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脊髄損傷に対する有効な神経再生療法は未だなく、完全脊髄損傷患者においては残存機能の強化リハビリテーションが唯一の治療法である。当グループは損傷後半年以上経過した慢性期完全脊髄損傷患者に対して自家嗅粘膜移植を行い、一定の機能回復を見ているが、慢性期では下肢筋肉の委縮による神経栄養因子の枯渇から脊髄前角細胞の変性・下位運動神経の不全が起こり、脊髄(上位)神経軸索再生のみでは十分な機能回復は得られないことが示唆される。また効果的なリハビリテーションプログラム開発には、脊髄の組織的再生や脳の神経活動の機能的回復を継時的に評価する必要がある。
本申請では慢性期完全脊損患者に術前・術後に積極的リハビリテーションを導入したうえで嗅粘膜移植を行い、より効率的な下肢機能回復を目指すことを目的とする。
研究方法
本研究では機能保存的リハビリテーション・脊髄神経再生・脳神経機能の変化の観点から、下記6つの工程を設ける。
①術前に廃用下肢筋のリハビリテーションにより、筋肉由来神経栄養因子の産生と下位運動神経の維持を図る。②自家嗅粘膜移植による脊髄神経軸索の再生。③術後のバイオフィードバックを用いた随意的筋放電の誘発。 ④長下肢装具装着による積極的歩行訓練。さらに、これら機能回復のプロセスの客観的指標として、下肢運動指標に加え、新たに ⑤DTI(Diffusion Tentor Imaging)で損傷脊髄移植部位の組織的再生を可視化する。⑥脳fMRI(functional magnetic resonance imaging)で脳神経活動の再構築を解明する。
結果と考察
 嗅粘膜移植においては脊髄損傷後、骨損傷に対する治療やリハビリテーションを行ったにもかかわらず、6か月後に完全対麻痺を呈する胸髄損傷患者を対象とした。採取可能な嗅粘膜の量が限られているため、損傷部位の長さは3cm 以下である。術後早期から連日リハビリテーションを行うと、4例中2例において6カ月後より運動機能の改善がみられ、うち1例では装具を用いた立位保持や歩行器を用いた歩行が可能となった。4名いずれの患者においても「両手を離しての動作が楽になった」、「エレベーターのボタンを押すのが楽になった」、「長時間の坐位での作業が可能となった」など、日常生活上何らかの運動機能改善が自覚された。ASIA Scoringのうち、運動スコアは、1名(case 3)では24週以後50から52に改善し、他1名(case 4)では24週に50から52に、48週で54に改善した。この2症例で随意性の下肢筋収縮による筋電図の発現を認め、さらにCase 4では、経頭蓋磁気刺激によるmotor evoked potentialの下肢からの導出に成功し、慢性期の完全脊髄損傷において、電気生理学的に神経軸索の再建を世界で始めて証明し得た。感覚および膀胱直腸障害においては変化を認めなかった。
移植後のリハビリテーションは、完全両下肢運動麻痺慢性期患者の歩行という、これまでにないリハビリテーションを実施しなくてはならなかった。中枢神経の神経ネットワークの再構築のため、長期間にわたるハードなものとなった。HALを導入し、検出される生体信号が徐々に下位に延びてくるのにあわせてプログラムを変更することで、科学的リハビリが可能となった。またトレッドミルと免荷装置を併用することで、安全且つ省力的なリハビリが可能となった。さらに初期の段階から患者に歩行を体感させることが可能となり、これは長く単調になりがちなリハビリテーションに対する患者のモチベーションの維持に、大きく貢献したものと思われた。

結論
慢性期完全脊髄損傷患者に対し、嗅粘膜移植と積極的リハビリテーションを行い、一定の機能回復と、下肢筋電図の導出に成功した。このことは、損傷後数年以上を経た慢性期脊髄損傷患者の機能再建とQOLの向上に新たな道を拓くものである。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224027Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,432,000円
(2)補助金確定額
9,432,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,668,715円
人件費・謝金 0円
旅費 49,400円
その他 2,537,885円
間接経費 2,176,000円
合計 9,432,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
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