脊髄損傷の個別診断による歩行訓練法選択の最適化に関する研究

文献情報

文献番号
201224026A
報告書区分
総括
研究課題名
脊髄損傷の個別診断による歩行訓練法選択の最適化に関する研究
課題番号
H24-身体・知的-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 徹(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 赤居 正美(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
  • 河島 則天(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
  • 中澤 公孝(東京大学大学院総合文化研究科)
  • 筑田 博隆(東京大学医学部附属病院・整形外科脊椎外科)
  • 住谷 昌彦(東京大学医学部附属病院・医療機器管理部/麻酔科痛みセンター)
  • 金子慎二郎(村山医療センター・整形外科)
  • 山内 淳司(成育医療研究センター研究所・薬剤治療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
11,310,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脊髄損傷者に対するリハビリ分野では、残存する神経回路の再学習を通じて麻痺部位の機能回復を誘導するニューロリハビリが注目され、中でも歩行神経回路を活性化する部分免荷式歩行訓練は臨床への導入が進んでいる。しかし、この訓練の対象となる亜急性期の不全脊髄損傷者の病態は個人差が非常に大きく、訓練の適応基準については世界的に見ても定まっていない。こうした訓練前の適応判定・個別評価と訓練効果判定法の確立の遅れは、ニューロリハビリ分野のエビデンスの集積や訓練技術の普及の妨げになることが懸念され、客観性の高い評価体系の確立が必要とされている。
本研究は、下肢の動きが残存するが実用歩行困難な不全脊髄損傷者を対象に、歩行再獲得をめざしたニューロリハビリへの適応判定と訓練プロトコール選別、さらに訓練効果判定の評価システムを構築することを目的としたものである。

研究方法
1)バイオマーカー臨床データベースの構築
バイオマーカーpNF-H(リン酸化ニューロフィラメント重鎖)は脊髄損傷の長期予後の推定に有用なことが知られている。本研究では不全脊髄損傷の血液データを収集し受傷後6ヶ月の予後調査結果と対応付けたデータベースを構築することで、測定値と予後の関係を明確にする。さらにこの検査法の特異度を明らかにするため、関連する疾患におけるこのバイオマーカー値の変化も合わせて収集する。
2)筋トーヌス・痙縮の客観的評価と介入
 下肢の痙縮は足関節に一定のスピードで背屈負荷を加えた際に不随意に生じる底屈力として顕在化する。本研究では足関節に負荷をかけて底屈力を測定・評価する簡便な機器と解析システムを開発する。さらに、痙縮に対し薬剤や硬膜外電気刺激などの介入を行うことで、痙縮と歩容がどの様に変化するかを定量的に検出する。
3)MRIによる皮質脊髄路の残存評価
 随意的な歩行には大脳皮質と脊髄の連結性が一定以上残されていることが必要である。MRIは多くの施設で撮像可能であるが、画像から皮質脊髄路の残存率を読み取る基準は定まっていない。そこで、脳と脊髄の機能的連結性を確認する電気生理検査と脊髄MRI画像を照合することで、MRI所見から皮質脊髄路残存度を推定するプロトコールを開発する。
4)脊髄損傷症例に対する縦断的調査
 上記1-3)の評価系を統合して、1)バイオマーカーによる予後予測で従来訓練では自立歩行獲得が見込めない、2)痙縮の程度が訓練適応範囲内で収まっている、3)MRI画像から皮質脊髄路の一定の残存が予想される、という基準から亜急性期の脊髄損傷症例を選別し、免荷式歩行訓練を実施する。研究期間3年目での開始を目指し、多施設のリサーチネットワークを構築することで、症例の収集体制を整える。期間内に5例の実施例を目標とし、一連のプロトコールの問題点を検討する。
結果と考察
 研究計画初年度を総括すると、不全脊髄損傷者に対する訓練前評価法について血液バイオマーカーの知見と痙縮の評価法について大きな成果が得られたと考えられる。バイオマーカーについては脊髄損傷と関連疾患をあわせて350検体の解析が実施され、外傷性脳損傷でのpNF-H値が急性期の意識レベルとは相関しないこと、あるいは高齢者に多い腰部脊柱管狭窄症の髄液中では慢性的に高いpNF-Hが検出されることが明らかとなった。その一方、脊髄損傷の新規症例の登録は3名にとどまり、今後、急性期病院との連携を強化する必要がある。痙縮の評価については足関節に他動的角度変化を加え、それによって生じる底屈力を測定する方法を採択した。初年度は測定器のセットアップと脊髄損傷者に対する計測を行った。 歩行訓練の実施研究からは、慢性期症例に対する訓練研究の実施が被験者確保の観点から困難であることが大きな課題となった。これは不全脊髄損傷者の場合、受傷から1年経過した時点で多くの場合社会復帰を遂げており、週3回の訓練プロトコールへの参加が困難であるという背景がある。この課題を解決する上でも亜急性期の訓練系を検討する必要が示唆された。
結論
 不全脊髄損傷者に対する訓練前評価として血液バイオマーカーと痙縮評価の点で新たな知見が得られた。評価方法が妥当であるかを検証するためには各症例の縦断的追跡評価が必要である。
 今後、得られた評価系についての知見をベースに亜急性期の症例への訓練介入を実施していく。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201224026Z