重度進行性障害者のQOL向上と自立支援に向けた意思伝達装置の開発と臨床評価に関する研究

文献情報

文献番号
201224021A
報告書区分
総括
研究課題名
重度進行性障害者のQOL向上と自立支援に向けた意思伝達装置の開発と臨床評価に関する研究
課題番号
H23-身体・知的-若手-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中山 優季(公益財団法人東京都医学総合研究所 運動・感覚システム研究分野難病ケア看護研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 筧 慎治(公益財団法人東京都医学総合研究所 運動・感覚システム研究分野)
  • 内原 俊記(公益財団法人東京都医学総合研究所 運動・感覚システム研究分野 )
  • 川田 明広(東京都立神経病院 脳神経内科)
  • 菊地 豊(脳血管研究所 神経難病リハビリテーション科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
2,176,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、進行性の疾患を持つ障がい者の意思伝達維持を可能とするため、括約筋を用いた意思伝達方法の開発とその適応評価を行うことである。
研究方法
研究A:括約筋意思伝達の実用化に関する研究
括約筋プローブの最適化
①ひずみセンサー式:試作1号機を原案に、太さ・長さに関する装用感調査により、可変式の試作2号機を完成させた。②荷重センサー式:荷重センサーを用いて、より細いプローブを作成し低侵襲化を目指した。③筋電式:より低侵襲にかつ微細な収縮を検出するため、筋電を用いた方法について検討した。
研究B:括約筋意思伝達の適応評価に関する研究
1)臨床評価:12名のALS療養者を対象に、試作2号機の装用感と意思伝達装置の操作可否の検討を行った。9名のALS療養者を対象に、触診と試作2号機出力電圧と1ch圧トランスジューサーでの測定により括約筋の随意収縮可否を検討した。うち3名については、複数回実施し経時的な変化について検討した。A病院在宅診療対象のALSHMV者34名について、担当看護職へ随意収縮可否、腹部合併症の有無に関する聞き取りを行い、排便コントロール状況、腹部膨満等合併症の出現徴候を整理した。
2)病理学的検索:正常対照(5例)、ALS進行初期(6例)、ALS進行重度(5例)の剖検(前角細胞及び、仙髄Onufrowicz核部)例について、組織学的変化をTDP、リン酸化TDP,p62,の蛍光免疫三重染色した標本にDAPIによる核染色を加えた四重蛍光染色標本全体をFluorescent scanning microscopeで取り込んだ。同一標本を KB染色して、同様にデジタル画像化し、多重蛍光像と光顕像を直接比較した。ONおよび前角細胞群領域について、それぞれの神経細胞形態変化、細胞数、封入体を観察し、比較・検討した。
結果と考察
 研究A:初年度の装用感調査を参考に、アクリル樹脂製の試作2号機2種(直径10mmと13mm)を作成した。装用感は、健康被験者(男性2名、女性2名)において良好で、1号機プローブで違和感や脱落感のあった女性被験者でも、ほぼ解消されていた。ALS療養者7例における装用感調査においても、苦痛を訴える者はなく、細い方が好まれた。さらに、荷重(加圧/抵抗変換センサー)で力を検出する方法についての試作を行い、シリコン樹脂製直径8mmのプローブを試作した。装用感はさらに改善したが、操作に至らなかった。2枚の銅板の間に導電ゴムを挟む仕様のため検出感度不足ならびに、銅板への力の方向制限がかかることが考えられた。より低侵襲な表面筋電図を用いた方法は、ALS人工呼吸療養者1名について、臀部に電極貼付による測定を行い、随意性を検証した。声かけによる随意収縮が確認されたが院内機器を用いた測定のため、他の対象での測定については、実施できなかった。研究期間中に、括約筋による意思伝達が可能であったのは、ひずみセンサーを用いた試作1,2号機であった。
研究B:12名のALS療養者に対して、試作2号機による意思伝達装置の可否を検証した結果、文字入力が可能であったのは3名、電源ON-OFFが可能であったのは3名、どちらも不可能であったのは、6名であった。専用圧測定は、9例中5例で随意圧の測定可能、3例で微弱な変化の測定可能、1例で測定不能であった。測定不能者の多くは、ほかに意思伝達手段を持たないほどの進行例であったが、同程度の進行の程度でも差があった。電圧・圧測定者のうち、2例では、初回操作時不可が、複数回実施の後可能となった。慣れや反復によって、収縮を再獲得したことが示唆された。ALSHMV者34名のうち、緩下剤や浣腸が必要な者は32名(94.1%)、いきみが不可な者16名(47.1%)、便意のない者13名(43.3%)、腹部膨満が有は8名(23.6%)、把握された多くの患者が寝たきりによる影響も考慮される腹部症状を有していた。同時に、直腸診はほとんど実施されておらず、症状の有無を把握されていない現状も明らかとなった。病理学的検討においては、免疫染色の工夫による新たな形態・病理細胞観察法を確立し、この技術を用いて、前角細胞と比較した結果Onuf核では、細胞数は中等度減少にとどまり、神経細胞萎縮は明らかでないことを確認し、封入体が形成されない神経細胞ではその萎縮が目立つことが明らかになった。
結論
 試作第2号機を作成し、検証を行った結果、約半数の対象で操作不能であった。これには、収縮力自体の低下、廃用性が考えられ、客観的評価方法と早期の段階からの導入によるバイオフィードバック機構の確立の必要性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224021B
報告書区分
総合
研究課題名
重度進行性障害者のQOL向上と自立支援に向けた意思伝達装置の開発と臨床評価に関する研究
課題番号
H23-身体・知的-若手-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中山 優季(公益財団法人東京都医学総合研究所 運動・感覚システム研究分野難病ケア看護研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 筧 慎治(公益財団法人東京都医学総合研究所 運動・感覚システム研究分野)
  • 内原 俊記(公益財団法人東京都医学総合研究所 運動・感覚システム研究分野)
  • 川田 明広(東京都立神経病院 脳神経内科)
  • 菊地 豊(公益財団法人脳血管研究所美原記念病院 神経難病リハビリテーション科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、括約筋を用いた意思伝達手段を開発し、その適応評価を臨床的および病理学的に行うことである。
研究方法
研究A:括約筋意思伝達の実用化に関する研究
健常被験者6名、ALS療養者7名を対象に、試作1号機(ひずみセンサー)を原案とした太さ・長さに関する装用感調査、持久性、挿入の違和感等からの検討を行い、より快適かつ持続的に用いることのできる試作2号機を完成させるとともに、より低侵襲な方法に関して検討を行った。ひずみセンサー式プローブのオン・オフ操作を可能とするコード化を行い、既存の意思伝達装置の操作を可能とした。
研究B:括約筋意思伝達の適応評価に関する研究
1)臨床評価
 16名のALS療養者を対象に、試作2号機の装用感と意思伝達装置の操作可否を検討した。
 18名のALS療養者を対象に、触診(13例)と試作2号機操作時の出力電圧(16例)、と1ch圧トランスジューサーでの測定(11例)により括約筋の随意収縮可否を検討した。うち、3名については、複数回実施し、経時的な変化について検討した。
 A病院在宅診療対象のALSHMV者34名について、担当看護職へ随意収縮可否、腹部合併症に関する聞き取りを行い、排便コントロール状況、腹部合併症の出現徴候を整理した。
2)病理学的検索
 ALS11例(進行初期(6例)、進行重度(5例))と正常対照(5例)、の前角細胞及び、仙髄オヌフ核部を含むホルマリン固定パラフィン標本について、TDP、リン酸化TDP,p62,の蛍光免疫三重染色した標本にDAPIによる核染色を加えた四重蛍光染色標本全体をFluorescent scanning microscopeで取り込んだ。同一標本を KB染色して、同様にデジタル画像化し、多重蛍光像と光顕像を直接比較した。ONおよび前角細胞群領域について、それぞれの神経細胞形態変化、細胞数、封入体を観察し、比較・検討した。
結果と考察
 意思伝達の実用化では、ひずみ検出式括約筋プローブの改良(適正化)、荷重センサー、筋電利用について検討した。ひずみ検出式の試作第2号機を完成させ、既存の意思伝達装置の操作を可能とした。
 適応評価では、16例中4例で、文字入力、2例で電源操作が可能であり、10例で操作不能であった。随意収縮に関する評価では、触診13例中5例で可能、6例で微小、2例で不可であった。試作プローブでの出力電圧は16例中6例で可能、1例で微小、9例で不可であった。1ch圧トランスジューサーでは、11例中5例で可能(12~144mmHg)、3例で微小(5~7mmHg)、3例で不可であった。対象の状態像を「会話可能」,「意思伝達装置操作可能」,「Yes-Noのみ」の段階に分けてみると、Yes-Noのみ可能又は不可能にまで進行した者で検出不可が多く、病状の進行とある程度の関係が示された。しかし、同様の進行状態であっても個人差があった。3例に対して、期間をあけて、複数回の試行を実施し、1例では可能を維持、2例で初回不可であったが、複数回実施の後可能となった。慣れや反復によって収縮を再獲得したことも考えられ、早期から使用することでの、バイオフィードバックとしての機能が示唆された。
在宅人工呼吸療養者34名を対象とした調査においては、ガス貯留や便秘という消化器症状を抱える療養者の存在は明らかとなったが、便意やいきみ、直腸診での収縮の有無など、療養者の状態を示す症状はほとんど把握されていないことが明らかとなり、これらの症状を客観的に把握する必要性が示唆された。
病理学的検討においては、免疫染色の工夫による新たな形態・病理細胞観察法を確立し、この技術を用いて、前角細胞と比較した結果、Onuf核においては、進行期でも、脱落・減少は50%以下にとどまり、機能障害が臨床的に顕在化するといわれる60~70%以上の神経細胞脱落は観察されなかったこと、残存神経細胞の萎縮は明らかでなかった。一方、前角細胞群では早期から神経細胞脱落が目立ち、特に、背側細胞群で進行期に高度の神経細胞脱落が観察されるなどの違いが明らかとなった。これらの違いは臨床的に観察される肢体筋の筋力低下、筋萎縮が経年的に進行することに比し、膀胱直腸機能がALS進行例においても保たれることと関連することが示唆された。
結論
 プローブの最適化を図り、第2号機を完成させ、16名に試用し6例で、反応を検知した。随意収縮圧の測定を11例で実施し、8例で微小を含め検出可能であった。測定不能例において、収縮力の自体の低下と廃用性の問題があり、客観的評価方法の確立と早期の段階からの導入によるバイオフィードバック機構と協同筋関与の機序解明の必要性が示唆された。病理評価では、Onuf核が変性を免れやすい傾向にあることを確認し、病態と関連することが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
括約筋の随意収縮を検出するプローブ開発により、意思伝達装置の操作を可能としたことは、新たな意思伝達手段の提供となった。操作困難者において、廃用性障がいの存在を指摘したことで、神経難病療養者における括約筋機能の客観的評価の必要性を見出した。さらに、病理学的に新たな形態・病理細胞観察法を確立し、onuf核が変性を免れやすいことを実証し病態解明への一助とした。このような病理学的基盤に基づき、臨床応用に取り組む新たな研究手法を創生した。
臨床的観点からの成果
本研究成果は、既存のAAC(拡大・代替コミュニケーション)に新たな方策の一つを提供した。括約筋という目に見えない部分の活用による意思伝達は、従来のAACが使用できない者にとっては、唯一の実用的手段の提供となり、使用できる者にとっても、出力チャンネルを増加する意義がある。さらに、括約筋機能の客観的評価法の確立に向けた展開では、収縮の可視化によるバイオフィードバックリハビリテーションとしての活用と腹部合併症軽減への効果検証が期待できる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
意思伝達装置等の公的支援には、補装具の給付や日常生活用具の給付があるが、括約筋スイッチは、安価で確実な方法として、これらに、取り込まれることが期待できる。また、設置や管理に複雑な方法を必要としないため、限られた専門支援者の養成を必要としない点において汎用性が期待できる。
その他のインパクト
東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合(TOBIRA)第一回研究フォーラム(2012年3月8日)に出展し、医学関連シーズ研究の早期実用化に向けた働きかけを行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

特許の名称
筋肉運動センサ、意思伝達装置、意思伝達方法
詳細情報
分類:
特許番号: 2010-205888
発明者名: 筧慎治 中山優季 内原俊記 本間武蔵
権利者名: 公益財団法人東京都医学総合研究所
出願年月日: 20100914
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takeda T, Uchihara T, Nakayama Y etal.
Dendritic retraction, but not atrophy, is consistent in amyotrophic lateral sclerosis-comparison between Onuf’s neurons and other sacral motor neurons-
Acta Neuropathologica Communications , 2 (11)  (2014)
10.1186/2051-5960-2-11

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201224021Z