成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究

文献情報

文献番号
201224015A
報告書区分
総括
研究課題名
成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究
課題番号
H23-身体・知的-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宮内 康二(東京大学 政策ビジョン研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 甲斐一郎(東京大学 大学院人文社会系研究科)
  • 森田朗(学習院大学 法学部政治学科)
  • 齋藤真由美(東京大学 政策ビジョン研究センター)
  • 飯間敏弘(東京大学 政策ビジョン研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,624,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
後見制度に関するこれまでの研究は、主に法学的視点からの法制度研究が中心であった。他方、後見実務の実態に関する実証的研究は、いまだほとんど行われていないというのが実情である。また一般の国民や行政などからみて、後見の実態は今なお不透明なままである。以上のことから、本研究は、後見実務の実態を明らかにし、適切な後見のあり方を実務的かつ理論的に検討・分析することを通じて、今後目指すべき後見の方向性を提示することを目的とする。
前年度(平成23年度)は、本研究の基礎を構築する作業として、後見実務全般の実態に関する実証的な分析を行った。これを受けて本年度(平成24年度)は、前年度の研究をさらに発展させるために、後見実務の諸相、とりわけ後見報酬とそれと密接に関連している後見実務の主要な構成要素との間の相互関係について計量的な分析を行うことを主な目的とする。
研究方法
後見関係者へのヒアリングなどを通じて調査研究のためのフレームワークを構築し、その上で、後見関係者へのアンケート調査や各種後見関連資料の収集などを通じて、後見実務に関する各種データを広範に収集・整理した。そして、これらの情報をデータベース化した上で、後見実務に関するさまざまな側面について、比較研究として海外の後見事例の参照などを行いつつ、また後見人の業態間の比較分析を通じて各業態の特徴を析出するとともに、後見に係る諸要素の相互関係等に関する多変量解析等の計量的な分析を行った。具体的には、「後見業務の実施に係る状況」、「後見業務に対する後見人の認識」、「後見人によって実施される業務内容」、「後見人の活動に対する評価」、「現行の報酬決定システムの構造」などに関する分析を行った。
結果と考察
本研究結果の概要を示すと次のようになる。
第一に、後見人による本人の財産の取扱の仕方や、親族対応の状況、ならびに本人の判断能力低下にともなう経済的損失の具体的状況について明らかにした。
第二に、後見業務遂行における後見人の役割意識の態様や、後見人が抱いている後見業務の難易度・煩雑度に関する認識と期待報酬額のあり方、ならびにそれらの要素間の相関関係(難易度と煩雑度の間には強い相関があるが、これらと期待報酬額との間には弱い相関しかない)について計量的に明らかにした。
第三に、後見人が日々行っている後見活動の各業務について、その実施率、実施回数、取扱金額をそれぞれ明らかにすることによって、個々の後見業務の具体的な実施内容を詳細に示した。
第四に、後見人の仕事ぶりに対して、後見関係者がそれぞれどのように評価しているか、そしてその両者の相関関係(身上監護活動と評価との間には相関関係があるが、財産管理と評価との間には相関がない)を明らかにした。
第五に、日本の後見との比較研究として、オーストラリアとカナダの公的後見機関の制度や運用(裁判所以外の公的機関に対する後見業務の委託のあり方など)について検討した。
第六に、現行の報酬決定システムを構成する主要な4 つの要素、(本人の財産、後見業務、業務評価、後見報酬)の相互関係を計量的に分析することを通じて、現在の報酬決定システムの具体的あり方を明らかにした。
結論
本研究における計量分析の主要な結果をまとめると、次のようである。
第一に、本人の保有財産が多ければ後見業務も難しくなる、というわけではない。
第二に、後見人が行う業務のうち、身上監護は後見関係者の評価を高める傾向にある(他方、財産管理は評価に影響を与えない)。
第三に、後見人の業務に対する後見関係者の評価が高くても、報酬が多くなるわけではない。
第四に、後見人が行う業務一般の内容は報酬額に影響を与えないが、そのうちの「特別な業務」だけは、その実施による本人の経済的利益が多いほど、報酬も多くなる。
第五に、本人の管理対象財産(特に金融資産)が多いほど、報酬も多くなる。
第六に、後見報酬額は、「本人の金融資産額の多さ」、「後見人が親族であるか否か」、「後見人は特別な業務を実施したか否か」、という要素によって大きく影響される。
以上の分析結果から、現行の報酬決定システムは、理念型としての合理的な仕組みではなく、むしろかなり非合理的な仕組みで動いていることが明らかになった。すなわち、客観的な根拠に乏しく、いまだ実証されていない想定に基づき、サービス受容者の評価をほぼ全く考慮せず、結果として公平性に欠けた仕組みになっていることが分かった。
今後は、今の後見制度そのものの見直しも検討しながら、システムの改革を行っていく必要があると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224015B
報告書区分
総合
研究課題名
成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究
課題番号
H23-身体・知的-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宮内 康二(東京大学 政策ビジョン研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 甲斐一郎(東京大学大学院人文社会系研究科)
  • 森田朗(学習院大学法学部政治学科)
  • 齋藤真由美(東京大学政策ビジョン研究センター)
  • 飯間敏弘(東京大学政策ビジョン研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
後見制度に関するこれまでの研究は、主に法学的視点からの法制度研究が中心であった。他方、後見実務の実態に関する実証的研究は、いまだほとんど行われていないというのが実情である。また一般の国民や行政などからみて、後見の実態は今なお不透明なままである。以上のことから、本研究は、後見実務の実態を明らかにし、適切な後見のあり方を実務的かつ理論的に検討・分析することを通じて、今後目指すべき後見の方向性を提示することを目的とする。
本研究は、主に4つの主要な分析(「後見業務の評価に関する分析」、「後見業務の内容に関する分析」、「後見人の適性や業務体制等に関する分析」、「後見報酬に関する分析」)から構成されており、これらの分析を通じて、後見実務の実態を実証的に明らかにし、これを理論的に体系化することを試みる。
研究方法
後見関係者へのヒアリングなどを通じて調査研究のためのフレームワークを構築し、その上で、後見関係者へのアンケート調査や各種後見関連資料の収集などを通じて、後見実務に関する各種データを広範に収集・整理した。そして、これらの情報をデータベース化した上で、後見実務に関するさまざまな側面について、比較研究として海外の後見事例の参照などを行いつつ、後見人の業態間の比較分析を通じて各業態の特徴を析出するとともに、後見に係る諸要素の相互関係等に関する多変量解析等の計量的な分析を行った。
具体的には主に、(1)後見業務の実施に係る状況、(2)後見業務に対する後見人の認識、(3)後見人によって実施される業務内容に関する分析、(4)後見人の活動に対する評価、(5)現行の報酬決定システムの構造、のそれぞれについて実証的分析を行った。
結果と考察
本研究結果の概要を示すと次のようになる。
第一に、後見の実務に関するさまざまな諸相について、計量的にその実態を明らかにした。具体的には、(1)後見等開始申立の態様、(2)後見関係者の社会的属性、(3)後見等の形態、(4)本人の状況、(5)本人との面会状況、(6)後見事務報告書の作成・提出状況、(7)本人の資産の状況、(8)本人の収支の状況、(9)後見報酬の状況、(10)後見業務の実施に係る状況、についてその現状を明らかにした。
第二に、後見業務遂行における後見人の役割意識の態様や、後見人が抱いている後見業務の難易度・煩雑度に関する認識と期待報酬額、ならびにそれらの要素間の相関関係について計量的に明らかにした。
第三に、後見人が日々行っている後見活動の各業務について、その実施率、実施回数、取扱金額をそれぞれ明らかにすることによって、個々の後見業務の具体的な実施内容を詳細に示した。
第四に、後見人の仕事ぶりに対して、後見関係者がそれぞれどのように評価しているか、そしてその両者の相関関係を明らかにした。
第五に、日本の後見との比較研究として、オーストラリアとカナダの公的後見機関の制度や運用について検討した。
第六に、現行の報酬決定システムを構成する主要な4 つの要素、(本人の財産、後見業務、業務評価、後見報酬)の相互関係を計量的に分析することを通じて、現在の報酬決定システムの具体的あり方を明らかにした。
結論
本研究における計量分析の主要な結果をまとめると、次のようである。
すなわち、(1)本人の保有財産が多ければ後見業務も難しくなるというわけではない、(2)後見人が行う業務のうち、身上監護は後見関係者の評価を高める傾向にある、(3)後見人の業務に対する後見関係者の評価が高くても、報酬が多くなるわけではない、(4)後見人が行う業務一般の内容は報酬額に影響を与えないが、そのうちの「特別な業務」だけは報酬額に影響を与える、(5)本人の管理財産(特に金融資産)が多いほど、報酬も多くなる、(6)後見報酬額は、主に「本人の金融資産額の多さ」、「後見人が親族であるか否か」、「後見人は特別な業務を実施したか否か」、の3つの要素によって大きく影響される。
以上の分析結果から、現行の報酬決定システムは、理念型としての合理的な仕組みではなく、むしろかなり非合理的な仕組みで動いていることが明らかになった。すなわち、客観的な根拠に乏しく、いまだ実証されていない想定に基づき、サービス受容者の評価をほぼ全く考慮せず、結果として公平性に欠けた仕組みになっていることが分かった。
この報酬決定システムの主な問題点としては、「後見報酬の決定構造の不透明性」、「後見実施主体における予測不可能性」、「後見報酬が本来有するはずのインセンティブ機能の不全」、「後見業務に対する評価の客観性・正確性の欠如」、「後見業務に対する対価としての相当性の欠如」の5 点を挙げることができよう。
今後は、一般の市民が後見制度をより使いやすくなるように、現行のシステムの改革を行っていく必要があると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
専門的・学術的観点からの成果としては、主に次のような点を挙げることができる。
本研究の分析結果を援用することによって、これまで具体的実態が不明であった後見実務等に関して、より詳細かつ多様な実証分析を今後進めていくことが可能になる。特に、被後見人の症状や経済的状況、後見業務に対する客観的評価、後見報酬の決定メカニズム、さらには後見に係る諸要素の相互関係に関する計量的分析など、これまでほとんど行われてこなかった研究分野や分析手法などを用いた研究がさらに進展していくことが期待される。
臨床的観点からの成果
本研究の臨床的観点からの研究結果として、(1)被後見人等がもっている具体的な症状(若年性・老年性認知症、精神・知的障がいなど)、(2)被後見人等が取得している要介護度、障がい程度区分、各種障がい認定などの状況、(3)被後見人の周囲の人(親族や医療・介護従事者等)による本人の介護や家事支援等の実施状況、などについて明らかにした。これに基づき、、被後見人等の症状に応じた接し方や、本人の介護や家事支援等の実施のあり方などに関する資料や指針等を提示した。
ガイドライン等の開発
本研究の主要な成果の一部として、(1)後見人が抱いている後見業務の難易度・煩雑度に関する認識と期待報酬額、(2)後見活動の各業務の実施率、実施回数、取扱金額、(3)後見人の仕事ぶりに対する後見関係者による評価、(4)現行の報酬決定システムの構造、などについて明らかにした。これに基づき、後見人の業務を客観的に評価するための評価項目や基準、また後見報酬の金額を決定するための算定基準や項目、などの開発や設計に資する基礎的なデータや資料等を提示した。
その他行政的観点からの成果
本研究成果を、研究実施報告書やホームページ等を通じて、後見実施機関等の後見の現場にフィードバックしていくことにより、後見業務の一層の適正化や改善を図っていくことが可能となる。より具体的には、例えば、(1)後見活動の業務分析等の結果に基づいて、後見人等の業務内容を見直し、その活動の改善を促していく、(2)本人の資産・収支の現況や構造に関する分析結果を参考に、後見人による財産管理等の業務のあり方をより適切なものにしていくことなどが可能になる。
その他のインパクト
本研究の成果について報告会や講演会等を開催することによって、一般の人々に広く研究成果を周知すると同時に、後見実施機関等の後見に携わっている人々に、本研究結果の内容を理解してもらうことなどを通じて、本成果の社会的還元に努めている。それにより、一般の人々の後見制度に対する理解をより深めるととともに、後見人等の実務のあり方をより適切な方向に促すことができ、ひいては後見制度の一層の普及と活性化、ならびに認知症高齢者等の一層の生活の向上とその権利の擁護などを期待することができる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
宮内康二「後見の「見える化」に向けて」『介護保険情報』第150号 2012年9月、22-24頁
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
20件
全国の各地域において、本研究の成果や後見のあり方等について研修会や講演会等を開催し、広く一般の人々に対する普及・啓発活動を展開している。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224015Z