心血管疾患患者の介護予防方策を明らかにするための大規模コホート研究

文献情報

文献番号
201224010A
報告書区分
総括
研究課題名
心血管疾患患者の介護予防方策を明らかにするための大規模コホート研究
課題番号
H22-身体・知的-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
柴 信行(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 下川 宏明(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 福本 義弘(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 高橋 潤(東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,098,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では急速な高齢化や生活習慣の悪化により国民の医療や介護に対する要求が著明に増加している。平成22年までに要介護認定者は全国で500万人を超えたと報告されている。本研究の平成22年度の調査では、我が国の心血管患者における介護予防必要度は一般住民と比較し約4.7倍高いことを示した。さらに、介護予防必要症例は不要な症例に比較し、心血管疾患が重症な傾向を認め、特に運動器の異常を多く抱えていた。平成23年度の調査では平成22年度の調査で介護予防が必要と考えられた症例の予後調査を行い、心血管疾患における介護予防必要症例は予後不良であることを示した。最終年度の本年は介護予防必要度の経年的変化、並びに新規に介護予防が必要となる予測因子について検討した。
研究方法
第二次東北慢性心不全登録研究に登録された症例のうち、平成22年度から24年度の3年間介護予防に関するアンケート調査を行った。アンケートは厚生労働省が作成した基本チェックリストに基づいて作成した。カルテの調査やデータモニタリング、イベント調査は研究補助員が参加24施設を月2回訪問し行った。収集したデータは富士通東北システムズと新たに共同開発したWeb登録システムの介護予防アドオンシステムから登録を行った。データは個人情報を除外した上で暗号化され登録される。システムへのアクセスは、パスワードで厳重に制限されている。
本研究は「疫学研究に関する倫理指針」に基づいて倫理的に行われている。
結果と考察
アンケートの回答率は平成22年度73.0%、平成23年度64.9%、平成24年度59.7%であった。そのうち3年間全ての年度回答した症例は3,757名であった。
アンケート結果から1,857名(49.4%)は3年間介護予防不要(Group 1)、610名(15.8%)は平成22年度または23年度介護予防必要と考えられたが平成24年度介護予防不要となった症例(Group 2)、592名(15.8%)は平成23年度または24年度に新規に介護予防が必要となった症例(Group 3)、698名(18.6%)は3年間介護予防が必要となった症例(Group 4)であった。3年間介護予防が必要であった症例は高齢で女性が多く、心不全が重症な傾向を認めた。一方、新規に介護予防が必要となった症例(Group 3)となる予測因子についてロジスティック回帰分析を行ったところ、高齢、女性、脳卒中の既往、NYHAクラスが高いこと(心不全が重症)、低アルブミン血症が関連していた。
新規に介護予防が必要となった症例のアンケート結果の詳細をみると、運動機能低下が介護予防を必要とする最も大きな理由であり、ついで嚥下機能の障害であった。
なかでも、Q6階段を手すり等使用しないと登れない、Q10転倒に対する恐怖心が大きい、Q15口が渇く、Q23以前できたことが億劫に感じられるに該当する症例の増加が顕著であった。

結論
心血管疾患における介護予防必要例は経年的に増加し、なかでも高齢、女性、心血管疾患が重症な症例は介護予防が将来必要になるリスクが高いと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224010B
報告書区分
総合
研究課題名
心血管疾患患者の介護予防方策を明らかにするための大規模コホート研究
課題番号
H22-身体・知的-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
柴 信行(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 下川 宏明(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 福本 義弘(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 高橋 潤(東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では急速な高齢化と生活習慣の悪化により、国民の医療・介護に対する要求が増加している。心血管疾患やがんなどの生活習慣病は今後も増加し、医療費の増加に伴い日本経済へのインパクトは無視できない。2055年には高齢化率は40.5%に達するが、高齢者には身体障害に基づく生活機能障害が高頻度に認められ、平均寿命だけでなく日常生活活動に障害のない「健康寿命」を延ばすことが必要である。2011年までの要介護認定者は全国で500万人を超え、このうち約26%は、介護必要度の低い要支援の状態である。介護重症度の改善と要支援から要介護への増悪予防が健康寿命の延長にとって第一の戦略である。介護対象の原因として最も多いのは脳血管疾患による身体障害であり全体の約28%を占めるが、心血管疾患患者における要介護対象者の特徴・重症度の進展・予後についての知見は皆無であった。本研究は、CHART-2研究に登録された10,219名の心血管疾患患者の身体障害・介護要求度とその予後を調査し、生活機能増悪による要介護重症度進展に関わる要因を検討し、心血管疾患患者における介護予防の方策について提言を行うことを目的とした。
研究方法
第二次東北慢性心不全登録研究を対象に、介護予防必要度について厚生労働省作成の介護予防のための基本チェックリストに基づいて、平成22年度から平成24年度までアンケート調査を実施した。心血管疾患における介護予防必要度の検討、介護予防必要度と予後の関連、新規に介護予防が必要となった症例の背景、予測因子について検討した。カルテ調査やデータモニタリング、イベント調査は研究補助員が参加施設を訪問し行った。
収集データは富士通東北システムズと共同開発したWeb登録システムから登録を行った。データは個人情報を除外した上で暗号化され登録される。システムへのアクセスは、パスワードで厳重に制限された。
本研究は「疫学研究に関する倫理指針」に基づいて倫理的に行われた。(倫理面への配慮)
結果と考察
1) アンケートの実施状況
介護予防アンケートは2010年からの3年間、生存確認されている症例に対して行った。実施率はそれぞれ73.0%、64.9%、59.7%であった。
2) 介護予防必要症例の頻度・特徴・予後
 平成22年度の調査(6718例)で、介護予防が必要と考えられた症例は全体の35%で、一般住民の約4倍高い結果であった。心血管疾患が重症になるにつれ、その頻度は増加した。介護予防必要例は不要例に比較し有意に高齢で、脳血管疾患の合併率が高く、心血管疾患が重症の傾向を認めた。介護予防が必要と考えられた背景は運動機能の異常が最も多く、ついで口腔機能の異常であった。運動機能の異常は心血管疾患が重症になるごとに頻度が増加した。
 平成23年10月までに予後調査をした5831例を対象として、介護予防必要度と予後に関する検討を行った。観察期間0.4±0.2年の間に137例(2.3%)が死亡した。Stage別にみると介護予防必要群は全死亡が有意に高く、全死亡の頻度はStage Bでは3.4%(不要群0.5%)、Stage C/Dでは6.4%(不要群1.5%)であった。心血管死についても同様の結果で、Stageに関わらず介護予防必要群は有意にイベント数が多かった。介護予防必要度の予後への影響を検討するため、患者背景や心血管疾患の予後予測因子で補正したCoxモデルを作成した。その結果、介護予防必要群は他の因子と独立して全死亡に対するリスクが高いことが示された(Stage B: ハザード比6.15、P<0.001、Stage C/D:ハザード比2.78、P=0.001)。
3) 心血管疾患患者の介護予防必要度の変化
 3年間の調査すべてに回答した3757例を対象として、介護予防必要度の変化について検討した。アンケート結果から1,857名(49.4%)は3年間介護予防不要(Group 1)、610名(15.8%)は平成22年度または23年度介護予防必要と考えられたが平成24年度介護予防不要となった症例(Group 2)、592名(15.8%)は平成23年度または24年度に新規に介護予防が必要となった症例(Group 3)、698名(18.6%)は3年間介護予防が必要となった症例(Group 4)であった。3年間介護予防が必要であった症例は高齢で女性が多く、心不全が重症な傾向を認めた。
 新規に介護予防が必要となる(Group 3)予測因子を検討すると、高齢、女性、脳卒中の既往、NYHAクラスが高いこと、低アルブミン血症が関連していた。
結論
心血管疾患における介護予防必要例は経年的に増加し、予後不良であった。なかでも高齢、女性、心血管疾患が重症な症例は介護予防が必要となるハイリスクと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は心血管疾患における介護要求度が一般住民に比較し高いこと、さらに介護予防が必要な症例は予後不良であることを示した。これまでの介護に関するサービスは主に、脳血管疾患を中心として考えられたものであるが、心血管疾患患者のニーズに合わせた介護予防方策が必要であると考えられる。
臨床的観点からの成果
介護予防が必要となる予測因子は高齢、女性、運動機能異常、心血管疾患が重症であることに加え、認知や抑うつであった。心血管疾患の予後改善のためには、これまで治療の中心であった薬物療法に加え、心臓リハビリテーションや精神的サポートを含めたサービスをいかに展開するかが課題である。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
心血管疾患においては介護予防必要例が多いにも関わらず、実際に介護認定を受けている症例は非常に少ない。さらに、65歳未満では心不全は介護認定の特定疾病には含まれていない。本研究から介護予防必要症例が経年的に増加し、さらに要介護度も高くなっていることから、心血管疾患における介護予防、また、要介護度の増悪を防ぐための早期の介入が急務であると考えられる。当院ではハートチームを立ち上げ、介護予防が必要な症例のスクリーニング、多職種カンファレンスを開始した。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
20件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
102件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Masanobu Miura, Nobuyuki Shiba, Kotaro Nochioka, et al.
Urinary albumin excretion in heart failure with preserved ejection fraction: an interim analysis of the CHART 2 study
European Journal of Heart Failure , 14 (4) , 367-376  (2012)
原著論文2
Masanobu Miura, Yasuhiko Sakata,,,Nobuyuki Shiba, et al.
Prognostic impact of blood urea nitrogen changes during hospitalization in patients with acute heart failure syndrome.
Circulation Journal , 77 (5) , 1221-1228  (2013)
原著論文3
Nochioka K, Sakata Y, Shiba N, et al.
Prognostic impact of nutritional status in asymptomatic patients with cardiac diseases: a report from the CHART-2 Study.
Circulation Journal , 77 (9) , 2318-2326  (2013)
原著論文4
Miura M, Sakata Y, Shiba N, et al.
Usefulness of combined risk stratification with heart rate and systolic blood pressure in the management of chronic heart failure. A report from the CHART-2 study.
Circulation Journal , 77 (12) , 2954-2962  (2013)
原著論文5
Sakata Y, Miyata S, Nochioka K, et al.
Gender differences in clinical characteristics, treatment and long-term outcome in patients with stage C/D heart failure in Japan. Report from the CHART-2 study.
Circulation Journal , 78 (2) , 428-435  (2014)
原著論文6
Takada T, Sakata Y, Miyata S, et al.
Impact of elevated heart rate on clinical outcomes in patients with heart failure with reduced and preserved ejection fraction: a report from the CHART-2 Study.
European Journal of Heart Failure , 16 (3) , 309-316  (2014)
原著論文7
Miura M, Sakata Y, Nochioka K, et al.
Prevalence, predictors and prognosis of patients with heart failure requiring nursing care.
Circulation Journal , 78 (9) , 2276-2283  (2014)
原著論文8
Miura M, Sakata Y, Miyata S, et al.
Prognostic Impact of Subclinical Microalbuminuria in Patients With Chronic Heart Failure.
Circulation Journal , 78 (12) , 2890-2898  (2014)
原著論文9
Nochioka K, Sakata Y, Miyata S, et al.
Predictors and prognostic impact of post-traumatic stress disorder after the great East Japan earthquake in patients with cardiovascular disease.
Circulation Journal , 79 (3) , 664-667  (2015)
原著論文10
Ushigome R, Sakata Y, Nochioka K, et al.
Improved Long-Term Prognosis of Dilated Cardiomyopathy With Implementation of Evidenced-Based Medication - Report From the CHART Studies.
Circulation Journal , 79 (6) , 1332-1341  (2015)
原著論文11
Sato K, Sakata Y, Miura M, et al.
Comprehensive Risk Stratification of Japanese Patients With Aortic Stenosis - A Proposal of a New Risk Score From the CHART-2 Study.
Circulation Journal , 79 , --  (2015)
in press
原著論文12
Miura M, Sakata Y, Miyata S, et al.
Prognostic Impact of Diabetes Mellitus in Chronic Heart Failure According to Presence of Ischemic Heart Disease - With Special Reference to Nephropathy.
Circulation Journal , 79  (2015)
in press

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2017-05-25

収支報告書

文献番号
201224010Z