障害認定の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
201224008A
報告書区分
総括
研究課題名
障害認定の在り方に関する研究
課題番号
H22-身体・知的-一般-013
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
江藤 文夫(国立障害者リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 岩谷 力(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 伊藤 利之(横浜市立リハビリテーションセンター)
  • 寺島 彰(浦和大学 こども学部)
  • 和泉 徹(北里大学 医学部)
  • 飛松 好子(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 海野 耕太郎(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 東 修司(国立障害者リハビリテーションセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,504,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 1949年に成立した身体障害者福祉法における等級評価は恩給診断の流れをくみ、医学的に解剖学レベルでの機能の損失を評価する、すなわち医学モデルに基づく方法が一貫して採用されてきた。
 障害をめぐる国際的動向としては、WHOによる障害に関する生活機能の分類が2001年に刊行されるなど、社会モデル、あるいは権利モデルの採用が促進されてきた。国内では、支援費制度を経て障害者自立支援法が施行され、障害程度区分が採用されたことで、身体障害者福祉法での障害等級から独立して機能障害の重症度が認定されるようになっている。
 身体障害者福祉法が施行されて60年以上が経過し、この間の障害をめぐる国際動向や国内制度の改正により、現在の障害等級を当事者の利用資格認定に用いることの妥当性が問われるようになったことから、医学的診断に基盤を置く障害認定の意義、必要性について検証し、障害認定の在り方について提言することが本研究の目的である。
研究方法
今年度は、これまでの調査の解析、文献の検索に加えて、障害等級判定の公平性等について疑義を生じている事例の中で、人工関節等や心臓ペースメーカ等が体内に埋め込まれている患者の認定基準の見直しについて、改訂試案を作成し、検討討議した。また、障害統計に関する国際動向についても引き続き情報の収集に努め、内容を紹介した。特に、2011年にWHOと世界銀行により刊行された「障害に関する世界報告書」では、障害に関するエビデンスに基づく最初の国際報告書であり、障害統計についても詳述され、障害者権利条約の実効に向けた提言がなされていることから、その内容を検討した。
結果と考察
 障害等級の認定については、先行研究においても医療技術の進歩に伴う生活活動水準の改善が反映されず、不公平感を生む要因として指摘された。本年度は社会的関心事として、人工関節置換術施行患者等及び心臓ペースメーカ植え込み患者等に関する障害等級の不公平感が国会においても取り上げられたことから、改めてこれらの事例に関する改定の必要性と改定案の作成について討議し、改訂を要すると結論され、改定案を作成した。
 障害程度の判定においては、「肢体の機能障害の程度の判断は義肢、装具等の補装具を装着しない状態で行うものであること」とされる。体内に埋め込まれた人工臓器或いはデバイスに関して、眼内レンズについては装着した状態での障害認定が既に行われている。人工臓器類については、体外に装着する補装具類と異なり、その都度脱着する手間は不要である。また、医療技術の進歩により、機器の信頼性は明らかに向上しているので、人工関節等については術後のリスクが軽減した時期の機能障害の程度により認定することが適当とされた。しかし、心臓ペースメーカ等については、植え込み型除細動器では依存度や不安感により慎重に判断する必要があり、人工弁等についても同様で、機器の不調は生命の危機に直結することから、1級の認定にはリスク保障の側面も考慮すべきとされた。
 障害認定の国際動向に関して、WHOと世界銀行により刊行された「障害に関する世界報告書」で、障害者人口は世界人口の約15%と報告され、その数値の根拠に関する障害統計の手法が紹介された。その中で、本研究で紹介した障害統計に関する国連ワシントングループの成果も強調されている。また、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)による「障害・生活・貧困に関するアクションリサーチ」にわが国も協力して調査を実施したことから、その結果の報告に基づき、わが国の注目点としては、障害年金の重要性(受給者が多い)、家族による支援に対する介護依存度は高くない、仕事をしている(したい)人は多い、などが抽出された。
結論
 身体障害者福祉法制定当時の主目的は職業復帰支援にあり、障害認定基準は職業能力や日常生活活動(ADL)能力に係る指標として十分に機能していたが、その後60年以上を経て、医学・医療技術の進歩に伴い、障害等級とADL及び社会・職業生活能力との不一致が目立つことが本研究でも確認された。
 障害認定の在り方については、障害者総合支援法に基づくサービスと障害者手帳の利用状況等に関する調査の分析をさらに進めていくとともに、国・地方を通じた行政データの収集・分析を進めていくことによって、さらにエビデンスを集積して、障害認定制度とそれを利用する各種制度を含む福祉制度における基準や論理を明らかにしていく必要がある。その上で、医学を基盤とする障害認定とそれを利用する他制度との関係を明らかにし、プラットホーム的な位置づけも含め、その役割や制度的な位置づけを抜本的に考えていく必要がある。さらに、これらの検討に当たっては、障害統計に関するツールの開発や、米国やヨーロッパ等の国際的な動向にも十分に留意していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224008B
報告書区分
総合
研究課題名
障害認定の在り方に関する研究
課題番号
H22-身体・知的-一般-013
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
江藤 文夫(国立障害者リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 岩谷 力(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 伊藤 利之(横浜市立リハビリテーションセンター)
  • 寺島 彰(浦和大学 こども学部)
  • 和泉 徹(北里大学 医学部)
  • 飛松 好子(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 依田 泰(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 海野 耕太郎(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 東 修司(国立障害者リハビリテーションセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 身体障害者福祉法が施行されて60年以上が経過し、この間の障害をめぐる国際動向としては障害の分類に関して社会モデル、あるいは権利モデルの採用が促進され、国内では、支援費制度を経て障害者自立支援法が施行され、障害程度区分が採用されたことで、身体障害者福祉法での障害等級から独立して機能障害の重症度が認定されるようになった。
我が国の等級評価は恩給診断の流れをくみ、医学的に解剖学レベルでの機能の損失を評価する、すなわち医学モデルに基づく認定法が一貫して採用されてきた。そこで、現在の障害等級を当事者の利用資格認定に用いることの妥当性が問われるようになったことから、医学的診断に基盤を置く障害認定の意義、必要性について検証し、障害認定の在り方について提言することが本研究の目的である。
研究方法
障害者手帳利用者に係る実態の把握のためのアンケート調査を設計し、国立障害者リハ・センター、横浜市総合リハ・センター、北里大学病院等を利用する障害者を対象として質問紙法による調査を実施した。アンケート調査の実施に当たっては予め、国立障害者リハ・センター、北里大学においてそれぞれ倫理審査委員会に申請し、承認を得た。
また、手帳利用者のサービスの利用状況等の把握のため、既存の行政データ(平成18年身体障害児・者実態調査)を活用し、障害種別と等級別の日常生活活動、就労の状況、福祉サービスの利用状況等に関して分析した。さらに、地方自治体と連携・協力し、障害者自立支援給付等の市町村が実施するサービスの利用状況等に関する行政データを集積し、分析した。
国際的な障害統計や制度に関して、国連ワシントン・グループの障害統計手法開発に関する活動、英国の生活機会調査(Life Opportunity Survey: LOS)における障害者に関するデータ、米国における社会保障障害年金及び所得補償補足給付の視覚障害認定基準改正案等について情報を収集し、考察を行った。
結果と考察
1.平成18年の身体障害児・者実態調査のデータを活用して分析した結果、肢体不自由においては障害等級と日常生活活動、外出、就労等の状況において関係性が認められた。
2.障害者手帳の利用状況に関するアンケート調査(有効回答合計、395名)では、障害等級と関連性の大きい項目は基本的日常生活活動(ADL)の一部の他は、「障害に起因する年金を受給」「福祉タクシーの利用」「新マル優制度」「自動車税等の減免」「携帯電話料金の割引」などであった。服薬管理などのIADL、「外出状況」「医療機関受診状況」等は相関がみられない。また、内部障害(今回の対象者の90%が心臓機能障害)では、障害等級1級であってもADLは「一人でできる」が大半を占めた。
3.A市及びB市における障害者サービスの状況等についての調査では、障害程度区分と障害等級との関係では、区分5以下で障害等級との明確な相関がみられない、等の結果が得られた。
4.国連に設置された障害統計に関するワシントン・グループにおいて作成された国勢調査用の質問セットの情報は、平成23年度に厚生労働省により実施された「生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者実態調査)」の質問項目に反映された。
5.英国のLOSでは、成人の26%が障害者に該当した。本調査の特徴の一つである生活上の機会の差に基づく障害等級の認定の可能性も将来の選択肢として考察された。
6.以上の調査結果等を踏まえ、身体障害者福祉法における障害認定制度に関して、課題や論点を整理し、制度の意義や必要性を検討した。特に身体障害者福祉法における障害等級認定に関して、人工関節置換者等及び人工ペースメーカ装着者等に係る障害認定基準について具体的見直し案を検討した。
結論
 身体障害者福祉法制定当時の主目的は職業復帰支援にあり、障害認定基準は職業能力や日常生活活動(ADL)能力に係る指標として十分に機能していたが、その後60年以上を経て、医学・医療技術の進歩に伴い、障害等級とADL及び社会・職業生活能力との不一致が目立つ。
 障害認定の在り方については、障害者総合支援法に基づくサービスと障害者手帳の利用状況等に関する調査の分析をさらに進めていくとともに、国・地方を通じた行政データの収集・分析を進めていくことによって、さらにエビデンスを集積して、障害認定制度とそれを利用する各種制度を含む福祉制度における基準や論理を明らかにしていく必要がある。その上で、医学を基盤とする障害認定とそれを利用する他制度との関係を明らかにし、プラットホーム的な位置づけも含め、その役割や制度的な位置づけを抜本的に考えていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
海外動向の調査を含め、リハビリテーション医学及び社会福祉学領域における障害概念及び障害モデルの構築に寄与できる。
臨床的観点からの成果
医学モデル、特に機能形態障害に基づくわが国の障害診断と等級認定における課題が整理された。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
5年ごとの障害児・者実態調査が見直され、平成23年度に実施された「生活のしづらさなどに関する調査」の質問項目に、本研究で検討した国連ワシントングループで開発された障害統計のための質問が反映された。障害等級認定に関して、心臓機能障害(ペースメーカ等)及び肢体不自由(人工関節等)について見直しのための骨子案を提案し、厚生労働省が設置したワーキンググループで検討された。その結果、疾病・障害認定審査会身体障害認定分科会で見直しが承認され、平成26年4月から認定基準の見直しが実施された。
その他のインパクト
公開シンポジウム「わが国における障害認定の課題と今後の方向性について」(平成25年3月17日、於イイノホール)を開催して、研究概要を報告し、併せて当事者を含め一般の人々へ障害のとらえ方に関する啓発と理解を推進した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
公開シンポジウム「わが国における障害認定の課題と今後の方向性について」(平成25年3月17日、於イイノホール)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224008Z