障害者歯科におけるEBM確立を目的としたクリニカルパス開発および利用に関する研究

文献情報

文献番号
201224006A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者歯科におけるEBM確立を目的としたクリニカルパス開発および利用に関する研究
課題番号
H22-身体・知的-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宮脇 卓也(岡山大学大学院・医歯薬学総合研究科 歯科麻酔・特別支援歯学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 江草 正彦(岡山大学病院 スペシャルニーズ歯科センター)
  • 小笠原 正(松本歯科大学 障害者歯科学講座)
  • 上山 吉哉(山口大学大学院 歯科口腔外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
1,822,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦における障害者歯科は,近年急速に整備されてきており,大学病院,大規模障害者施設,あるいは歯科医師会が運営する歯科センターなどにおいて専門外来が整備されてきている。それぞれの障害者歯科専門外来では,地域における高次歯科医療機関として機能していると思われるが,実際の診療内容には施設間で大きな開きがある。現在医療の様々な領域において,エビデンスの重要性が説かれているが,障害者歯科についてのエビデンスは著しく不足している。そこで,本研究では障害者歯科においてもエビデンスに基づいた診療をおこなうことを目標として,クリニカルパスを開発および運用して治療結果を統計的に解析し,エビデンスに基づいた治療方針を提示することを目的とした。
研究方法
本研究では摂食・嚥下リハビリテーション,麻酔管理,および行動調整という3つの領域で研究を行ってきた。24年度の研究として,摂食・嚥下リハビリテーションでは口腔外科系疾患と小児疾患について検討を行い,それぞれの疾患で予後に関連する因子について解析した。麻酔管理については,全身麻酔からの回復時間に影響を与える要因を,前向き研究で解析した。行動変容に関わる研究として,麻酔管理下での歯科治療が必要となることに関連する指標を,前向きコホート研究での決定木分析により抽出した。また,1回の治療ごとのアウトカム,数か月単位での進行目標を設定した期間アウトカム,および疾患管理目的の受診をアウトカムとした最終アウトカムから校正される多層パスを作成し,各層ごとにアウトカムの達成の可否,バリアンスに関する検討を行った。
結果と考察
口腔外科手術後の摂食・嚥下リハビリテーションについては,41名を対象に検討した。クリニカルパスに従い摂食・嚥下リハビリテーションを施行できたものは20/41例(48.8%)で、そのうち気管切開非施行例が16/26例(61.5%)、気管切開施行例が4/15例(26.7%)であった。小児患者では,捕食時口唇閉鎖が不十分であることが,摂食機能が遅れていると判断される重要な指標であることが示唆された。全身麻酔からの回復の延長に独立して関連する要因は,男性であること,抗てんかん薬を常用していること,および未成年であることの3点であった。逆に,治療終了から早期に覚醒することに関わる要因は,女性であることと,抗てんかん薬を内服していないことであった。歯科治療が必要な障害者86名の初診患者を対象として,行動調整法を判断する際に最優先される項目は,口腔内診査への適応性であった。次に優先される項目は,対人関係の発達年齢3歳2ヵ月であった。3歳2ヵ月未満の29名中27名(93.1%)に対して特殊な行動調整を用いていた。他の項目は、有意な項目として挙げられなかった。また,障害者歯科診療の結果について,平成23年7月から12月までに当科初診となった,13人(男7人,女6人)を対象として,多層パスによる解析を行ったところ,期間目標1を達成した時点で2人,期間目標2の時点で4人,期間目標3の時点で1人,計7人(53.8%)が最終アウトカムを達成したと判定された。残る6人(46.2%)は治療継続中で,治療から脱落した者はいなかった。
小児においては口唇閉鎖に重点を置いた間接および直接訓練を行うことが重要であると示唆され,また一方で担当者にとっては捕食時の口唇閉鎖が摂食・嚥下機能の重要な概略評価になっている可能性があると思われた。口腔がん術後患者の摂食嚥下リハビリテーションにおけるクリニカルパスの完遂率は48.8%と低かったが,特に気管切開と認知症についてのパスの改良が必要と思われた。外来全身麻酔として概ね満足できるものであったが,女性は術中覚醒のリスクが高く,逆に男性は回復が遅れる可能性が高いと思われる。また抗てんかん薬を内服している患者では麻酔薬との相互作用により回復が遅くなることが考えられた。障害者の中で,「口腔内診査に不適応であり」、なおかつ「対人関係の発達年齢3歳2ヵ月未満」の場合には,歯科治療のために麻酔管理が必要となる可能性が高いため,高次医療機関への紹介基準となる。この基準は客観的で簡便であるため有用性が高いと思われる。障害者診療を計画的に進めるためには,特に麻酔管理による診療が予定通りに進むことが重要であると思われた。
結論
障害者歯科診療を摂食・嚥下,麻酔管理,行動調整の領域に分け,それぞれにおいてパスを導入してアウトカムの設定を行い,それに独立して関与する因子の解析を行った。結果としてパスを用いて医療を標準化し,アウトカムに向けて診療を行うことによって,データの蓄積が可能となり,科学的な診療のエビデンスを提供することが可能であった。またパスをさらに改良することにより,医療の質向上をもたらすことが可能になると思われた。

公開日・更新日

公開日
2013-04-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224006B
報告書区分
総合
研究課題名
障害者歯科におけるEBM確立を目的としたクリニカルパス開発および利用に関する研究
課題番号
H22-身体・知的-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
宮脇 卓也(岡山大学大学院・医歯薬学総合研究科 歯科麻酔・特別支援歯学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 江草 正彦(岡山大学病院 スペシャルニーズ歯科センター)
  • 小笠原 正(松本歯科大学 障害者歯科学講座)
  • 上山 吉哉(山口大学大学院 歯科口腔外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在本邦における障害者歯科は,大きな発展を遂げ,全国の大学や大規模障害者施設などにおいて,多くの専門診療科が設けられ,以前と比較して明らかに状況は改善している。障害者歯科は地域ごとに拠点施設の下で,それぞれの施設が役割を分担して歯科管理を行うことが望まれるが,拠点となる施設の間において,治療方針に関する合意やガイドラインは存在せず,それぞれが独自の方針で管理および治療を行っている。そこで,今後障害者歯科を質的に向上させるためには,エビデンスに基づいたガイドラインが必要であると考えた。そして,クリニカルパスを作成して,ある程度規格化された治療を行い,その結果を解析することを計画した。
研究方法
本研究では摂食・嚥下リハビリテーション,麻酔管理下での歯科治療,および行動変容という3つの領域に分けて調査および解析を行った。摂食・嚥下リハビリテーションでは神経変性疾患,口腔外科系疾患,小児疾患,脳血管疾患に分け,麻酔管理下での歯科治療では外来および入院下での全身麻酔および静脈内鎮静法についての合併症や回復に関する要因を解析した。行動変容についての研究では,全身麻酔下歯科治療後のメンテナンスを継続できない場合の要因を解析と,高次医療機関へ紹介するときの基準について,統計学的に抽出した。また,クリニカルパスを試作し,診療記録を試作したパスに当てはめることによって,アウトカムの完遂と逸脱をしらべ,さらに行動調整の選択と診療の妥当性について検討した。
結果と考察
摂食・嚥下リハビリテーションでは,神経変性疾患患者および口腔外科手術後患者を対象とした研究から,スクリーニングを含めた早い時期での評価が,その後の合併症の予防と,適切なリハビリテーションの実施のために有効であることが示唆された。小児疾患患者では,摂食機能発達の遅れに特有の評価項目が示唆された。麻酔管理下での歯科治療について,前投薬の使用や,抗てんかん薬,性差などが回復の遅れに関連し,前投薬の使用は麻酔後の興奮に関連することが示された。行動変容については,初診時の口腔内診査に適応できることが,むしろ全身麻酔下歯科治療後のメンテナンスを継続できない要因であることが示され,高次医療機関への紹介基準としては「口腔内診査に不適応であり」、なおかつ「対人関係の発達年齢3歳2ヵ月未満」という項目が抽出された。
摂食・嚥下リハビリテーションでは,様々な疾患や,口腔外科術後の患者に対し,早期からの評価が重要であることが示されたことから,その点に配慮したパスを作成するとともに,可及的に多くの患者をスクリーニングできるようなシステムの構築が望まれる。全身麻酔下歯科治療に関しては,麻酔前投薬だけでなく,常用薬と性差も回復時間に影響することが示された。また初診時に口腔内診査に対する適応性が,メンテナンス継続の負の要因になることや,高次医療機関への紹介基準などを提示することができた。本研究でのこのような成果は,パスを開発し運用することによって客観的データを回収できたことによるものである。今後はさらにパス改良を進め,他施設で利用可能となるよう努める必要がある。その積み重ねにより,障害者歯科にエビデンスを構築することが可能になると考える。
結論
摂食・嚥下リハビリテーションでは,様々な疾患や,口腔外科術後の患者に対し,早期からの評価が重要であることが示されたことから,その点に配慮したパスを作成するとともに,可及的に多くの患者をスクリーニングできるようなシステムの構築が望まれる。全身麻酔下歯科治療に関しては,麻酔前投薬だけでなく,常用薬と性差も回復時間に影響することが示された。また初診時に口腔内診査に対する適応性が,メンテナンス継続の負の要因になることや,高次医療機関への紹介基準などを提示することができた。本研究でのこのような成果は,パスを開発し運用することによって客観的データを回収できたことによるものである。今後はさらにパス改良を進め,他施設で利用可能となるよう努める必要がある。その積み重ねにより,障害者歯科にエビデンスを構築することが可能になると考える。

公開日・更新日

公開日
2013-04-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
障害者歯科を3つの学術領域(摂食・嚥下リハビリテーション,行動変容,麻酔管理)に分けて研究を進めた。研究期間内に,後ろ向きコホート研究として患者記録を解析した研究で,それぞれの領域において原著論文を専門雑誌に掲載することができた。また国際学会で1つと,国内学会で13の演題について発表を行った。臨床研究は本来長期間要することを考えると,研究期間内に得られた成果は比較的大きい。
臨床的観点からの成果
本研究は,障害者歯科診療において遅れがちであるクリニカルパスと診療ガイドラインの導入を念頭においている。アウトカムを設定し,それに関わる因子を多変量解析により解析するという研究デザインは,障害者歯科の診療現場でも受け入れやすい。そのため,今後は他施設・長期間でより規模の大きな臨床研究として発展させる道筋ができたと考えている。本研究ではこの方法で多くの結果が得られており,今後障害者歯科で臨床研究を進める上で重要な参考文献になると思われる。
ガイドライン等の開発
本研究はエビデンスを積み重ねることによって,将来的に障害者歯科治療のガイドラインを開発することを念頭に置いている。現在のところ,研究開始から3年が経過したところであり,参加施設も限られてるため,ガイドラインの開発は将来的な課題となっているが,本研究を発展させることによってエビデンスを積み重ねることが可能であると考えている。
その他行政的観点からの成果
障害者歯科治療は地域ごとに拠点施設を作り,高次の歯科医療機関では麻酔管理や摂食・嚥下リハビリテーションための人と物を備える必要がある。本研究においては,高次医療機関で患者データを解析したが,拠点施設として求められる要件として歯科治療スタッフの充実の他に,摂食・嚥下リハビリテーションと麻酔管理についても専従者が配置され,設備が整えられていることが必要である。行政的には地域ごとにそのような施設を認定し,サポートすることが必要であると思われる。
その他のインパクト
報告書は複数の専門施設に配布し,また現在までに学会等で発表してきた。今後はさらに多くの施設からの研究協力を求め,より規模の大きな研究として実施したいと考えている。

発表件数

原著論文(和文)
3件
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会誌,日本障害者歯科学会雑誌
原著論文(英文等)
3件
Journal of Oral and Maxillofacial Surgery Anesthesia Progress The Open Dentistry Journal
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
障害者歯科学会など
学会発表(国際学会等)
1件
Dysphagia Research Society
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
松尾浩一郎,望月千穂,並河健一,他
摂食・嚥下障害を合併して入院した神経筋疾患患者における栄養摂取レベルの推移
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会誌 , 16 (1) , 3-12  (2012)
原著論文2
小笠原 正,河瀬聡一朗,脇本仁奈,他
全身麻酔下歯科治療後の歯科保健管理の中断要因の検索
障害者歯科 , 33 , 42-46  (2012)
原著論文3
村田尚道,有岡享子,綾野理加,他
障害児における摂食・嚥下機能の発達段階と全身状態との関連について
障害者歯科 , 34 (4) , 609-615  (2013)
原著論文4
森 貴幸,前田 茂,前川享子,他
クリニカルパスを利用した、知的障害者および発達障害者の診療計画の設定と実行に関する検討
障害者歯科 , 34 (4) , 597-608  (2013)
原著論文5
Maeda S, Tomoyasu Y, Higuchi H, et al.
Independent predictors of delay in emergence from general anesthesia
Anesthesia Progress , 62 (1) , 8-13  (2015)
10.2344/0003-3006-62.1.8.
原著論文6
Maeda S, Tomoyasu Y, Higuchi H, et al.
Independent factors affecting recovery time after sedation in patients with intellectual disabilities
The Open Dentistry Journal , 9 , 146-149  (2015)
10.2174/1874210601509010146.

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224006Z