高齢の障害者への支援の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
201224004A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢の障害者への支援の在り方に関する研究
課題番号
H22-身体・知的-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大川 弥生(独立行政法人国立長寿医療研究センター 生活機能賦活研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 上田 敏(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会)
  • 吉川 一義(金沢大学 人間社会研究域学校教育系)
  • 丹羽 真一(福島県立医科大学 会津医療センター準備室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,981,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢障害者支援のシステムとプログラムを、WHO・ICF(国際生活機能分類)に立った実態調査に基づき明確にする。
さらにその一環として、東日本大震災が発生したことを受けて、災害時の高齢障害者等への支援のあり方と、そこから平常時の支援のあり方をも明らかにする。
研究方法
1)宮城県南三陸町をフィールドとして東日本大震災発災1年7月後に行ったICFにもとづく生活機能調査結果を障害者(身体障害者、精神障害者、知的障害者、難病)について分析した。また発災7月後の結果と比較した。
2)発災2年後までの南三陸町の介護保険の新規要介護認定者について、障害者制度認定者か否かを区別して把握した。
3)「特別な配慮が必要な人」の基本的考え方とそれに関連する支援のあり方についての検討を二段階デルファイ法によって行った。
結果と考察
1)障害者(622名)では震災後に「活動」の低下が認められ、発災後1年7月時点でもその改善が認められない人が多く、低下率は非障害者よりも高かった。例えば高齢者(65歳~)で歩行が震災前より難しくなったことがある人は、障害者全体で69.9%と7割を占め、非要介護認定・非障害者(52.6%)の1.33倍と多かったが、要介護認定・非障害者(86.6%)に比べれば0.80割であった。
また発災後1年7月時点での低下率は障害者全体で45.5%であり、非要介護認定・非障害者(28.2%)の1.6倍と多く、要介護認定・非障害者(68.2%)に比べれば0.67割であった。
2)生活機能低下の主な原因は生活不活発病であった。
3)障害種別でみると、震災後歩行が難しくなったことがある人は精神障害で86.4%と最も多く、次いで身体障害者全体が69.8%であった。身体障害内では呼吸障害が80.0%、視覚障害76.9%と、下肢・体幹不自由の70.9%以上に低下していた。また1年7月後で歩きにくいままの人は身体障害者が50.5%と最も多く、その内では視覚障害が61.5%、呼吸障害・腎臓障害ともに53.3%であり、下肢・体幹不自由の50.5%よりも多かった。
4)高齢障害者では発災1年7月後の歩行の低下者の割合は、発災7月後よりも1.3倍と多かった。また7月後からの1年間に新たに低下した者が1年7月後の低下者の4.5割を占めていた。これは今後も新たな低下者を生む危険性を示すものである(1、2回調査両方への回答者400名)。
5)1年7月後での歩行低下状況を居住地別にみると、高齢者では応急仮設住宅生活者では54.3%に対し、町外生活者(みなし仮設、親類宅等生活)は50.0%、町内生活者で津波の直接的被害がなかった地域で44.4%、また直接被災地で39.6%と、応急仮設住宅との差は昨年度に比べて小さくなっていた。
6)65歳以上では3983名中355名(8.9%)が震災後2年間に新たに要介護認定者となっていた。その内の19.7%は震災前身体障害者であり、身体障害以外の障害者も含めると21.4%であった。
7)新規要介護認定者発生率は、高齢者で身体障害者では23.6%、その他障害者では11.5%、非障害者では7.7%であった。特に65~74歳では、身体障害者13.0%に対し、非障害者1.8%と7.2倍であった。
8)新規要介護認定者発生率について身体障害者を機能障害種別にみると、従来考えられがちであった運動障害(肢体不自由)よりもむしろ、視覚障害、内部障害者などに多発する傾向があった。
9)災害時における障害者対策として、従来の要援護者対策だけでなく、新たな障害(生活機能低下)を生まない予防の観点と、生活機能面と疾患面の両面への支援が連携をとって行われることが必要である。従来はこれが乏しかったため、今後の課題として「特別な配慮が必要な人」として捉える必要性と、その基本的な考え方及び関係する支援のあり方をまとめた。
結論
1)大震災発災後1年半以上経過しても、障害者において生活不活発病による生活機能低下が多発し、その予防・改善対策が十分でない。これは災害時のみならず、平常時の生活機能及び生活不活発病への対応の不十分さを示すものである。今後障害者支援の中に、災害時・平常時ともに生活機能低下予防・向上及び、生活不活発病対策を明確に位置づける必要性が示唆された。
2)東日本大震災被災地の高齢障害者で今後さらに生活機能低下者を生む危険性が示された。
3)震災後要介護認定者の増加が非障害者よりも多く、身体障害者が要介護状態となり易いことは、災害時だけでなく平常時においても同様と考えるべきである。これは介護予防対策において障害者をハイリスク者として捉えることの必要性を示唆する。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201224004B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢の障害者への支援の在り方に関する研究
課題番号
H22-身体・知的-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大川 弥生(独立行政法人国立長寿医療研究センター 生活機能賦活研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 上田 敏(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会)
  • 吉川 一義(金沢大学人間社会研究域学校教育系)
  • 有馬 正高(東京都立東部療育センター)
  • 丹羽 真一(福島県立医科大学会津医療センター準備室)
  • 楠 正(日本薬剤疫学会)
  • 磯部 健一(名古屋大学大学院医学研究科)
  • 本村 陽一(独立行政法人産業技術総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢障害者支援のシステムとプログラムを、ICF(WHO・国際生活機能分類)に立った実態調査に基づき明確にする。
その一環として、研究1年目に東日本大震災が発生したことを受けて、災害時の高齢障害者等への支援のあり方と、そこから明らかとなった平常時の支援のあり方についても明らかにすることとした。
研究方法
1.広範囲の機能障害種別(「谷間の障害」を含む)の障害児・者(4919名:1~97歳)についてのICFに基づく実態調査を行い、生活機能モデルにそって分析。
2.障害者支援のあり方に関する国際的動向の分析。
3.生活機能低下予防・改善を中心とした被災自治体での現地支援活動と個別被災者のICFに基づく生活機能の実態把握とを行いながら、被災地である宮城県南三陸町で以下を実施。
1)震災発生7月後の障害児・者の生活機能実態調査(809名)
2)同1年7月後の障害者の生活機能実態調査(622名)。昨年度の結果と比較(2回とも回答者400名)
3)同2月後の一般避難所に昼間いた非要介護認定高齢者の実態調査(141名)。
4)同7月後の被災地居宅生活高齢者の生活機能実態調査(2208名)。
5)同2年後までの介護保険の新規要介護認定者について、障害者制度認定者か否かを把握。
結果と考察
1.各種機能障害による生活機能等の差、ADL(日常生活行為)非自立者の「参加」の状況、より外出を多くするために改善すべき点、障害者自身が行う介護・育児、等々についての新たな知見、及び障害者と家族の高齢化による問題点・不安を把握できた。加えて、複数の機能障害を有する人が多いこと、機能障害としての疲労の重要性等から、旧来の機能障害中心の見方の限界と、「参加」向上を明確なターゲットとした支援プログラム・体制の再構築の必要性が明らかになった。
2.障害者で震災後に「活動」の低下が認められ、発災後7月及び1年7月時点でもその改善が認められない人が多かった。低下率は非障害者よりも高く、高齢障害者では若年者より高い。例えば高齢者では、1年7月後まででは障害者全体で45.5%であり、非要介護認定・非障害者(28.2%)の1.6倍と多く、要介護認定・非障害者(68.2%)の0.67割であった。
また発災1年7月後時点の歩行低下者の割合は、発災7月後よりも1.3倍と多く、1年間に新たな生活機能低下者が認められた。1年7月後での低下者の中で、7月後以降の1年間での新たな低下者が4.5割を占めていた。これは今後も新たな低下者を生む危険性を示す。
3.仮設住宅生活者に比して災害時の支援の対象としての比重が低くなりがちな居宅生活者でも、仮設住宅生活者よりも若干低いが高頻度の新たな生活機能低下(障害)が認められ、その差は発災7月後より1年7月後でより狭まった。
4.発生後早期から、生活機能低下(障害)発生が多く認められた。
5.上記2.~4.の生活機能低下の主な原因は生活不活発病であり、その最も多い原因は「外ですること」がなくなったことであった。
6.65歳以上では3983名中355名(8.9%)が震災後2年間に新たに要介護認定者となっていた。その内19.7%は震災前身体障害者であり、21.4%は身体障害以外を含めた障害者であった。
7.新規要介護認定者発生率は、高齢者で非障害者では7.7%に対し身体障害者では23.6%、その他障害者では11.5%、であった。特に65~74歳では、身体障害者の13.0%に対し非障害者では1.8%と7.2倍であった。これは災害時だけでなく平常時においても同様と考えるべきであり、現在の介護予防対策において障害者を「ハイリスク者」として捉えることの必要性を示す。
8.身体障害者を機能障害種別にみると、新規要介護認定者の発生率は、従来考えられがちであった運動障害(肢体不自由)よりもむしろ、視覚障害、内部障害者などに多発する傾向がある。
結論
1.高齢障害者への支援の内容として「障害者への支援内容の再構築のためのポイント」と「生活上の適切な配慮・支援が必要な状態」とを明らかとした。
2.障害者支援のあり方として、1)既に障害のある人への支援だけでなく、新たな障害を生まない“予防”の観点が重要である。2)その際の障害とは現行の法制度や谷間の障害だけでなく、ICFの定義による「生活機能低下」の観点が必要である。3)その際「統合モデル」に基づく支援が効果的である。
3.障害者に関する災害時対応は、従来の「要援護者対策」にとどまらず、1)「特別な配慮が必要な人々」としてとらえること、2)補完的支援のみでなく「防げたはずの生活機能低下(preventable disability)」の「予防」が重要である。
4.今後障害者支援全体の中に、生活機能低下予防・向上、生活不活発病対策を明確に位置づける必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201224004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
・ICF(国際生活機能分類、WHO)に基づく実態把握により、高齢障害者をふくむ障害者・障害の新たな特徴が明らかになった。その結果、旧来の機能障害中心の見方の限界と、「参加」向上を明確なターゲットとした支援体制の再構築の必要性が明確化した。
・災害時の障害者の生活機能の実態を、はじめて同一自治体で非障害者・要介護認定者と比較することができた。それにより、災害時に障害者が非障害者に比し、また高齢障害者は若年障害者に比し生活機能低下を生じやすいこと、その最大の原因は生活不活発病であることが確認できた。
臨床的観点からの成果
1.高齢の障害者への支援の内容として「障害者への支援内容の再構築のためのポイント」と「生活上の適切な配慮・支援が必要な状態」とを明らかにした。
2.障害者支援のあり方として、次のポイントが明確になった。1)既に障害のある人への支援だけでなく、新たな障害を生まない「予防」の観点が重要であること。2)その場合の「障害」とは現行の法制度に規定されたものや「谷間の障害」だけでなく、ICFの定義による「生活機能低下」の観点が必要であること。3)その際、「統合モデル」に基づく支援が効果的であること。
ガイドライン等の開発
災害時支援のあり方として、従来の「要援護者対策」にとどまらず、1)「特別な配慮が必要な人々」としてとらえること、2)その際、補完的支援のみでなく、「防げたはずの生活機能低下(preventable disability)」の「予防」が重要であること、が明らかとなった。その概念と具体的内容は、中央防災会議「地方都市等における地震防災のあり方に関する専門調査会」報告書(2012年3月において「4.特別な配慮が必要な人のための対策」として提示された。
その他行政的観点からの成果
・今後障害者支援の中に、災害時・平常時ともに生活機能低下予防・向上と生活不活発病対策を明確に位置づける必要がある。
・震災後要介護認定者の増加が障害者で非障害者よりも多く、災害時・平常時ともに介護予防対策において障害者をハイリスク者として捉える必要性が示唆された。
・ICF関連で、WHO-FIC年次会議等で我が国の意見提出の基礎資料となった。
・災害に関する成果は東日本大震災及び九州北部豪雨での生活不活発病予防についての厚労省の事務連絡や啓発資料(ポスター、チラシ、リンク先)として活用された。
その他のインパクト
障害者の生活機能の実態についての調査結果は平成22年内閣府障害者週間連続セミナーにおいて、また災害時の生活機能低下の実態と支援のあり方については平成23年、24年の同セミナーで、ともに公開シンポジウムのかたちで発表した。更にICFの観点から第2回、第3回厚生労働省ICFシンポジウムで発表した。
 災害時の生活不活発病による生活機能低下の実態やその対策については、特に東日本大震災や九州北部豪雨に関連してテレビ、ラジオ、新聞等多くのメディアでとりあげられた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
25件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
5件
その他成果(普及・啓発活動)
40件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
大川弥生、工藤美奈子、上田敏
災害時支援における「生活機能」の観点の必要性
国民生活研究 , 51 (2) , 1-27  (2011)
原著論文2
上田敏、大川弥生
障害者・高齢者支援の在り方に関する国際的動向;過去半世紀にわたる認識の発展と現在の到達点
国民生活研究 , 51 (3) , 1-23  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201224004Z