CKD進展予防のための特定健診と特定保健指導のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201223001A
報告書区分
総括
研究課題名
CKD進展予防のための特定健診と特定保健指導のあり方に関する研究
課題番号
H22-腎疾患-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
木村 健二郎(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺毅(福島県立医科大学 医学部)
  • 藤垣嘉秀(浜松医科大学 医学部)
  • 柴垣有吾(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 笠原正登(京都大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(腎疾患対策研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,390,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
CKDは生活習慣の是正によってその発症と進展の予防が期待できる。特定健診は、CKDを抽出する良い機会であるが、血清クレアチニンの測定が必須項目でないため、ステージに応じた保健指導が行えない。さらに、CKDに対する保健指導指針が整備されていないのが現状である。そこで本研究は、発見されたCKD (CKDハイリスク群を含む) に対するステージ別保健指導とその評価法を確立することを目的に計画した。最終プロダクトは、現場で使用できる「CKD保健指導のための教育資材」である。
研究方法
(1)特定健診において血清クレアチニンを測定しないことによるCKDの見逃し率の検討
20府県の2008年の健診受診者のうち血清クレアチニンが自主的に測定されていた578,965人のデータを対象とした。
(2)スポット尿による1日食塩摂取量の推算の試み
眠前尿と来院時尿のNa/Crから1日の食塩摂取量を推算し、蓄尿からの実測1日食塩摂取量との相関を検討した。対象は、浜松医科大学附属病院腎外来に通院中の患者の延べ353尿検体。
(3)運動とCKDの発症の関係の検討
8府県の特定健診受診者のうち、検討項目に関して欠損値の無い2902,132人を対象とした。運動スコアは、運動習慣のうち該当する項目の合計を運動スコア(0~3)と定義した。アウトカムは尿蛋白(+)以上とした。
(4)「CKD保健指導のための教育資材」の作成
平成23年度に作成した教育資材を「CKD診療ガイド2012」における重症度分類の考え方、「標準的な健診・保健指導プログラム(改訂版)」における改正点を踏まえて、再度検討を行った。
結果と考察
(1)
CKDの頻度:18.6%であった。CKD 102,061人の住民のうち、尿蛋白を有するのはわずか28.5 % であった。すなわち、尿蛋白のみの測定ではCKDの 71.5 %を見逃す可能性があることが示された。年齢別にみると、年齢が上がるにつれて、CKDが増加するとともに、尿蛋白陰性のCKDの割合も増加することも示された。特定健診を活かしてCKD対策を立てることは国民の健康を維持するための喫緊の課題である。そのためには尿蛋白の測定のみでは不十分であり、血清クレアチニンを測定することが必須であることが示された。
(2)
適切に蓄尿が行われた216尿検体を検討対象とした。スポット尿からの推算1日食塩摂取量と蓄尿からの実測1日食塩摂取量との相関係数は、来院時尿0.48、眠前尿0.50、来院時と眠前尿の平均0.66 で、来院時と眠前尿の平均が最も高い相関係数を示した。新たな推算式を作成した。
(3)
運動スコアは全体として、尿蛋白の陽性率を有意に低下させた(運動スコア1 0.9 [ 0.86 - 0.94 ],P<0.001, 運動スコア2 0.85 [ 0.81 - 0.9 ] ,P<0.001,運動スコア3 0.77 [ 0.73 - 0.81 ] HR0.9, P<0.001)。女性においては、BMIに関連なく運動スコアによる尿蛋白陽性率の改善が認められた。男性においてはBMI上昇が運動スコアによる尿蛋白陽性率改善効果を減弱させた。肥満が運動の良い効果を打ち消す可能性とレポートバイアス(運動していると報告しているが実際はしていない)の可能性が考えられた。
(4)
CKD予防対象者を明確にする第一段階として、CKD該当者(尿蛋白(1+)以上またはeGFR60未満)とそれ以外の者をCKDハイリスク群とし、2つに大きく分類した。さらに、CKD進展予防の視点から健診対象者を6つにグループ化し、対象者を明確にした。次に、健診対象者からグループ化した6つのCKD進展予防の対象群に対して、どのような保健指導が必要か検討した。学習教材について、全国の保健師・管理栄養士の実践活動を通じた評価を元に、医師の監修を受けて最終案を作成した。
結論
(1)特定健診では血清クレアチニンを測定しなければ、CKDの70~80%を見逃す可能性が示された。特定健診で血清クレアチニンの測定を必須化することが必要である。
(2)特定健診前日の眠前尿を持参し、受診時尿を採取することにより比較的精度良く1日食塩摂取量および1日蛋白摂取量を推算することができる可能性が示唆された。
(3)運動習慣が蛋白尿出現の予防因子であることが明らかとなった。
(4)「CKD保健指導のための教育資材」の最終版を作成することができた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201223001B
報告書区分
総合
研究課題名
CKD進展予防のための特定健診と特定保健指導のあり方に関する研究
課題番号
H22-腎疾患-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
木村 健二郎(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺毅(福島県立医科大学 医学部)
  • 藤垣嘉秀(浜松医科大学 医学部)
  • 柴垣有吾(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 笠原正登(京都大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(腎疾患対策研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、(1)特定健診におけるCKD予防対象の分類基準の策定、(2)CKDステージ別指導内容の確立、(3)健診受診者/保健指導者への教育資材作成を行い、(4)作製した保健指導システムの有効性を検証する、ことを目的に3年間の研究計画を策定した。
 上記目的を達成するためにⅠ. 血清クレアチニンを測定することがCKD対策に必須であることを明らかにするために、特定健診のデータ授受に係わる契約を行った自治体の健診データを解析し(木村、柴垣、渡辺)、Ⅱ. 一般住民の食塩摂取量の推定方法を確立し(藤垣)、さらにⅢ. 生活習慣のCKD発症危険因子としての意義を検討した(守山)。さらにⅣ. 保健師グループの協力を得てCKD教育のための資材の最終版を作成することができた(松川および研究班全員)。
研究方法
Ⅰ. 特定健診において血清クレアチニンを測定しないことによるCKDの見逃しの評価
対象者は20府県の2008年の健診受診者のうち血清クレアチニンが自主的に測定されていた578,965人のデータである。
Ⅱ. 1日食塩摂取量評価法の確立
(1)食生活アンケート(質問票形式)による推算
(2)スポット尿による推算
(3)新たな推算式の作成を試み

Ⅲ. 生活習慣のCKD発症危険因子としての意義の検討
大阪大学保健センターの健康診断受診者および8自治体における健診受診者を対象とした。

Ⅳ. 「CKD進展予防のための保健指導教材」の作成
 平成23年度に作成した「CKD進展予防のための保健指導教材」の初版の修正すべき点を精査し、これをもとに、「保健指導教材」の最終版を作成する(松川洋子氏およびそのグループの多くの保健師)。
結果と考察
Ⅰ. 特定健診において血清クレアチニンを測定しないことによるCKDの見逃しの評価
CKDの頻度は18.6%であった。CKD 102,061人の住民のうち、尿蛋白を有するのはわずか28.5 % であった。すなわち、尿蛋白のみの測定ではCKDの 71.5 %を見逃す可能性があることが示された。
特定健診を活かしてCKD対策を立てることは国民の健康を維持するためには喫緊の課題である。そのためには尿蛋白のみでは不十分であり、血清クレアチニンを測定することが必須であることが示された。

Ⅱ. 1日食塩摂取量評価法の確立
(1)食生活アンケート
 食生活アンケートと24時間蓄尿からの1日食塩摂取量の相関係数はr=0.35であった。
(2)スポット尿による1日食塩摂取量の推算:
 スポット尿からの推算1日食塩摂取量と蓄尿からの実測1日食塩摂取量との相関係数は、来院時尿0.48、眠前尿0.50、来院時と眠前尿の平均0.66 で来院時と眠前尿の平均が最も高い相関係数を示した。
(3)新たな推算式:来院時と眠前尿の尿中Na/Cr比の平均を用いて新たな1日食塩摂取量推算式を作成した。
 減塩食の指導をする上で、アンケートおよびスポット尿からの食塩摂取量の推算は有用である。
 
Ⅲ. 生活習慣のCKD発症危険因子としての意義の検討
(1)5時間以下の睡眠において蛋白尿出現と睡眠時間の間に容量依存的関係がみられた。
(2)アルコール摂取カテゴリーにおいてもGTPの上昇によって蛋白尿の頻度が高まることが明らかになった。
(3)運動スコアは全体として、尿蛋白の陽性率を有意に低下させた。
 
これらの生活習慣・肝機能異常がCKDの初期の現れである蛋白尿と関連することが明らかとなったことは、保健指導の具体を考える上で意義がある。
 
Ⅳ. 「CKD進展予防のための保健指導教材」の作成
 「CKD進展予防のための保健指導教材」の最終版を作成することができた。今後、多くの保健師に現場で使用してもらえるようにweb上にアップロードする。
結論
Ⅰ. 特定健診では血清クレアチニンを測定しなければ、CKDの70~90%を見逃す可能性が示された。特定健診で血清クレアチニンの測定を必須化することが必要である。
Ⅱ. 食生活アンケートと眠前尿と来院時尿を用いた1日食塩摂取量推算を組み合わせることで、特定健診受診者から減塩要指導者の選定や保健指導内容の抽出および効果判定に有用である。
Ⅲ. CKDの危険因子としての生活習慣のいくつかの要因が明らかになったことで、今後のCKD対策における保健指導のさらなる発展を期待したい。
Ⅳ. 「CKD進展予防のための保健指導教材」の最終版を作成した。今後のCKD対策の進展に寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201223001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
CKD(慢性腎臓病)の発症と進展には生活習慣が深く関わっている。特定健診はCKDの早期発見と早期対策のためには絶好のチャンスである。しかし、特定健診では血清クレアチニンの測定が必須ではないため、多くのCKDが見逃される可能性を示した。今後、特定健診の必須項目に血清クレアチニン入れるべきことを提言した。また、特定健診で抽出されたCKDやCKDハイリスク群に対する保健指導の方法が確立していなかった。本研究では、保健指導の現場で保健師が実際に使用できる保健指導教材を作成した。
臨床的観点からの成果
本研究では、スポット尿から食塩摂取量を推定する方法を検討して、推算式を提言した。また、CKDの危険因子としての生活習慣を多角的に検討した。短時間睡眠、アルコール多飲、運動不足とCKDの関係を検討してきた。これらのことは、臨床の現場でCKD患者に生活指導を行う際に大変に有用な情報である。CKDは多くの要因が絡み合って進行していく。CKDには多角的はアプローチが必須である。本研究で得られた知見は、多角的なアプローチの手助けとなる。
ガイドライン等の開発
平成28年3月に「生活習慣病からの新規透析患者の減少に向けた提言~CKDの発症予防・早期発見・重症化予防~」が日本腎臓学会から発行された。この提言は、本研究で得られた知見をもとに腎専門医と保健師・管理栄養士が一般住民、保険者、行政、保健指導に携わる管理栄養士・栄養士、保健師、薬剤師、かかりつけ医に対してCKDの発症・早期発見・重症化予防の具体的な方法を示したものである。
その他行政的観点からの成果
本研究で得られた知見により、特定健診の必須項目に血清クレアチニンを入れることの妥当性が証明された。本年度の特定健診の項目検討では、本研究の結果を踏まえて血清クレアチニンを必須項目とすべきであることを日本腎臓学会として強く申し入れた。結果は残念ながら、血清クレアチニンは必須項目ではなく、詳細項目として位置付けられた。
その他のインパクト
CKD対策においては、今後、地域での保健師の役割が重要になってくる。保健師がCKD患者またはハイリスク群を保健指導する際に、本研究班で作成した「保健指導教材」が役に立つと思われる。地域の現場でCKDの保健指導が活発になることが、CKD対策をすすめることにつながる。2016年3月「生活習慣病からの新規透析患者の減少に向けた提言」を日本腎臓学会としてまとめたが、この提言の作業部会に本研究に参加した保健師が参加している。

発表件数

原著論文(和文)
15件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
1件
CKD進展予防のための保健指導教材
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
日本腎臓学会総会における公開セッションで発表
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
生活習慣病からの新規透析患者の減少に向けた提言~CKDの発症予防・早期発見・重症化予防~

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201223001Z