災害時及び災害に備えた慢性閉塞性肺疾患等の生活習慣病患者の災害脆弱性に関する研究

文献情報

文献番号
201222060A
報告書区分
総括
研究課題名
災害時及び災害に備えた慢性閉塞性肺疾患等の生活習慣病患者の災害脆弱性に関する研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
木田 厚瑞(日本医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 黒澤 一(東北大学環境・安全推進センター、東北大学産業医学分野)
  • 萩原 弘一(埼玉医科大学医学部呼吸器内科)
  • 土橋 邦生(群馬大学医学部保健学科)
  • 堀江 健夫(前橋赤十字病院呼吸器内科)
  • 桂 秀樹(東京女子医科大学八千代医療センター呼吸器内科)
  • 若林 律子(東海大学健康科学部看護学科)
  • 茂木 孝(日本医科大学内科学(呼吸器内科学))
  • 酒井 志野(帝人ファーマ株式会社在宅医療営業企画部)
  • 矢内 勝(石巻赤十字病院呼吸器内科)
  • 藤本 圭作(信州大学医学部保健学科検査技術科学専攻生体情報検査学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災の際, COPDの急性増悪,喘息の重症発作,肺炎の増加あるいは在宅酸素療法(HOT)患者の電源や予備酸素ボンベの確保などが生じ多くの医療現場が混乱した.この対策として平時から非常時にも備えた患者管理・サポート体制の構築が必要である.本研究では、1.患者自身の自己管理能力を向上させ,これにより「自助」を最大限に発揮させること.さらに、2.確実な酸素供給のための統一管理システムを構築し,「公助」を普及させることを大きな目標とした.24年度はHOT患者の緊急時対応についての教育体制の把握,教育評価ツール開発のための調査研究,HOT登録制度の整備のための現状体制・制度の把握が主目的である.
研究方法
「自助」について以下の1を,「共助」について2,3を検討し,教育ツール開発のため4を,被災地調査として5を実施した.1.非被災地在住のHOT患者の緊急・災害時の対応に関する意識調査:非被災地において現在HOT使用中の患者についてアンケートを実施した.2.自治体による災害時要援護者の支援体制の整備状況調査:「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」の制度がHOT患者に対してはどのように規定されているのかについて,全国自治体に対してアンケート調査を行った.3.緊急・災害時の在宅医療患者の把握に関する地域医師会に対する調査:日本医師会より全国の群市区医師会担当者に対して質問票を送付し,在宅医療患者の把握のためのシステム構築状況を調査した.4.LINQによる患者教育研究および,HOT患者への教育評価ツールの開発:COPD患者が自己管理を行うためにLINQ(Lung Information Needs Questionnaire)を用いた患者教育を評価した.5.被災地における患者の実態調査:石巻市、気仙沼で震災前後の実態調査を行った.
結果と考察
1.非被災地のHOT患者の緊急・災害時の対応に関するアンケート調査:4施設より計303人のHOT患者から回答を得た.緊急時の対応方法は医師および看護師からの指導は20%だけで,60%が指導なしと回答した.2.自治体による災害時要援護者の支援体制の整備状況調査:全国1742の自治体より回答があり,HOT患者が災害時要援護者の対象となっていたのは全体の74%であるが,要介護度・身体障害等級などの条件が厳しく実際はHOT患者のほとんどが対象とならない.松本市は災害時医療救護活動マニュアルが作成済みであるが,個人情報の管理と開示および災害時の具体的な動線確認といった問題点が指摘された.3.緊急・災害時の在宅医療患者の把握に関する地域医師会に対する調査:全国医師会に送付し回答数657(回収率80.6%)であった.緊急時に在宅医療を受けている患者を把握する体制が構築されているのはわずかに6.4%であった.4.LINQによる患者教育研究および,HOT患者への教育評価ツールの開発:HOT患者の教育状態の把握に必要な項目を選定した.今後LINQに追加した形でHOT患者の評価ツールを作成し妥当性を検証していく必要がある.5.被災地における呼吸器患者の実態調査:石巻では発災後60日間は前2年の同時期に比べ肺炎,COPD増悪,喘息発作にて入院する患者が約3倍に増加していた.約2割のHOT患者が呼吸不全悪化にて入院を要した。震災前後に外来で患者教育を受けたCOPD患者106人の自己管理行動の内容を、大規模半壊以上の家屋被害を受けた患者群(50人)とそれ以外の患者群(56人)で調査した。被害が大きいほど,吸入や日誌管理の継続が困難であったが,両郡ともHOTの継続率は80%を超えていた.気仙沼市立病院における肺炎入院患者調査により,発災から3ヶ月間に肺炎患者が増加しており,大半が高齢者であった.肺炎による入院は5.7倍に,また死亡が8.9倍に増加していた.
結論
被災地においては発災から3ヶ月ほどの間に肺炎,COPD・喘息の増悪が増加した.この対策として平時から患者の自助を高めるためには患者教育が重要と考えられたが,現状では患者の受けているHOT教育も完璧ではない.適切な教育を施すための共通した患者評価方法の確立が必要であり,LINQ―HOTはその一部になり得ると考えられた.自治体・医師会による共助については,HOT患者の現状に見合った体制が取れていないことが判明した.また直接的にHOT患者へ対応してきた酸素業者については社会的な認知度が低い可能性があり,今後関係機関とも適切な情報共有を図る必要がある.酸素使用患者の全てに支援が必要な訳ではない.基本は自分の身は自分で守るという「自助」であり,地域の医療連携による「共助」を整備することも必要である.緊急時に誰に支援が必要なのかを明らかにするため,酸素使用患者についての対策を考えておくべきである.

公開日・更新日

公開日
2013-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201222060Z