大規模災害における循環器病診療の体制と手法の確立に関する多施設共同研究

文献情報

文献番号
201222053A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模災害における循環器病診療の体制と手法の確立に関する多施設共同研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
内藤 博昭(独立行政法人国立循環器病研究センター 病院)
研究分担者(所属機関)
  • 下川 宏明(東北大学大学院医学系研究科 循環器内科学分野)
  • 中村 元行(岩手医科大学医学部 内科学講座・心血管・腎・内分泌内科分野)
  • 森野 禎浩(岩手医科大学医学部 内科学講座・循環器内科分野)
  • 竹石 恭知(福島県立医科大学医学部 循環器・血液内科学講座)
  • 平田 健一(神戸大学大学院医学系研究科 内科学講座・循環器内科学分野)
  • 宮本 恵宏(独立行政法人国立循環器病研究センター予防医学・疫学情報部)
  • 安田 聡(独立行政法人国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
  • 小川 久雄(熊本大学大学院生命科学研究部 循環器病態学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
12,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
初年度の目的は東日本大震災前後の循環器疾患の発症状況を明らかにすることにある。
研究方法
後向き観察研究:宮城県、福島県および岩手県において震災前後各々3ヶ月間に発症した症例を対象とする。2008~2010年の同時期に発病した患者を比較対照として評価する。
(倫理面への配慮)本研究ではデータ提供時に匿名化された情報を用いる。そのため、対象者個人が特定されるような情報、すなわち氏名、住所、電話番号などを使用しない。
結果と考察
≪結果≫岩手県:大津波による被災地域(久慈釜石、大船渡)において、発災後の3ヶ月の間に心不全の発症数は過去の対照期間と比べ約1.5倍(68例から105例)となり、心筋梗塞/突然死の発症率も約1.5倍となった(41から63例) 。また発災後8週間における発症増減数は、浸水率(R=0.73,P<0.001)、避難生活者数(R=0.83, P<0.001)と正の相関関係を示した。
宮城県:心不全、肺炎の増加は、震災後各々6週、8週間に渡って持続していた。急性冠症候群は震災後2週目にピークを形成し、その後低下を示す一方で心肺停止例は震災後1週目から増加し、発災約1か月後の最大余震後2つめのピークを形成した。共変量のサブ解析では、心不全、急性冠症候群、脳卒中、心肺停止は年齢、性別、居住地に関わらず増加しており、肺炎のみが沿岸部の増加率が有意に大きいという結果であった。
福島県:急性心筋梗塞発症数(年単位)は、2009年786例/年、2010年770例/年、2011年772例/年と2011年の県全体での総数は過去2年間と比較し同等であった。地域別に年毎の発症数を比較してみると、2011年はいわき地区の患者数が著明に増加していた(2009年96例;2010年98例;2011年139例)。震災および原発事故による避難のために、原発周辺地域よりいわき地区への人口流入がおこったことが一因と推測されるが今後さらなる解析が必要であると考えられた。
これら各県ごとの調査に加えて、被災3県全体の動向を総計193,162件に及ぶ厚生労働省人口動態統計を用いて検討した。
2011年3月11日~12月10日の9ヶ月間について、心筋梗塞・脳梗塞・脳出血・心不全・不整脈、腎不全、肺炎の死亡者数(10万人あたりに換算)を調査し、2008年~2010年3月11日~12月10日との比較を行った。震災年では通年に比し、被災3県ともに循環器系疾患による死亡者が増加傾向にあることが明らかになった。
≪考察≫厚生労働省人口動態統計による解析結果は、被災地を広範囲に調査し震災後3県において循環器系疾患が増加傾向にある可能性について初めて言及したものである。地域によって被災人口、避難環境、疾病構造などが異なっているため、実際どのような要因が影響しているかは今後更なる検討が必要である。さらには阪神淡路大震災(1995年1月17日発災)との比較も重要であると考えている。震源地に近いものの直接的な被害は比較的少なった兵庫県立淡路病院(淡路島唯一の総合中核病院 452床 当時全科対応 震源地から直線で約30㎞)から発表されているデータ(Suzuki S, et al. Lancet 345: 981, 1997)とも比較する予定である:県立淡路病院では、急性心筋梗塞は、震災後増加し、約3~4週間継続、特に淡路津名地区では、1995年の冠動脈疾患死は震災の1月17日から4月末までに前年の同時期に比し1.5倍増であった。循環器病の発症の推移を明らかにすることは、東日本大震災被災地での医療体制の整備を適正に行うことに必要であるとともに、将来に起こりうる南海トラフなどの大規模災害に備えた基礎データとなる。
結論
被災による急性期のストレスが循環器疾患、特に心不全の増加をもたらした可能性が示唆された。
生活環境・生活習慣の変化がもたらす慢性期のストレスとの関連性について今後更なる検討が必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201222053Z