生活習慣病予防のための運動を阻害する要因としてのロコモティブシンドロームの評価と対策に関する研究

文献情報

文献番号
201222046A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣病予防のための運動を阻害する要因としてのロコモティブシンドロームの評価と対策に関する研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中村 耕三(国立障害者リハビリテーションセンター 自立支援局)
研究分担者(所属機関)
  • 宮地 元彦(独立行政法人国立健康・栄養研究所 健康増進研究部)
  • 樋口 満(早稲田大学 スポーツ科学学術院)
  • 出浦 喜丈(佐久総合病院 人間ドック)
  • 村永 信吾(亀田総合病院)
  • 竹下 克志(東京大学医学部附属病院 整形外科教室)
  • 松平 浩(労働者健康福祉機構 関東労災病院 勤労者 筋・骨格系疾患研究センター)
  • 緒方 徹(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 生活習慣病予防のための身体活動・運動を阻害する要因として、社会的要因と身体的要因があげられる。身体的要因としては運動器の痛みや機能低下が関係すると言われている。運動器の問題は近年、運動器症候群:ロコモティブシンドローム(ロコモ)と定義され、社会生活機能、自立度、生活の質の低下の要因であることが疫学研究で示されている。一方で、体重が重く足腰に負担がかかる肥満者において好発し、肥満者の減量や糖尿病患者の血糖コントロールのための身体活動・運動習慣を阻害する要因としても注目される。我々が実施した1年間の減量のための介入研究では、238名の肥満者のうち17%が軽微な足腰の痛みや不調を訴えた。
 平成20年度から始まった特定健診・保健指導において、メタボリックシンドロームに焦点を当てた生活習慣病の重症化予防対策が進められているが、保健指導の参加や継続に、膝や腰の痛み、筋力や関節機能低下などのロコモがどの程度関係するかについては十分に明らかになっていない。また、ロコモに該当する者あるいは保健指導の途中で運動器の問題が起こった者に対し、どのような対策を取り、運動支援を提供するべきかに関するエビデンスは十分と言えない。
 そこで、本研究では特定保健指導のフィールドならびに既存の疫学コホートを活用し、生活習慣病予防のための身体活動・運動の実施と運動器の痛みの発現や緩和に関するデータを収集すると同時に、生活習慣病予防を阻害する要因としてのロコモに対する、具体的な対策の確立を目的とする
研究方法
<系統的レビューによるエビデンスの収集と分析>
 身体活動・運動とロコモとの関連について検討した、大規模前向きコホート研究、無作為割付介入研究に関するエビデンスを探索・精読し、レビューする。
<フィールド・コホートデータの分析>
独立行政法人国立健康・栄養研究所が中心となって実施した2つのコホート研究のデータを分析し、3次元活動量計で分析された身体活動量とロコモ発症との関係を分析する。生活習慣病予防における身体活動・運動を阻害する要因としてのロコモの位置づけを明らかにする。
<ロコモの簡便かつ客観的なスクリーニング法と対処法の検討>
幅広い年代において利用可能なロコモのスクリーニングシステムを検討し、横断調査によってその妥当性を検証する。また、スクリーニングによって発見されたロコモに対しての指導マニュアルを作成し、その活用をフィールドで試みる。
<ロコモ対策の普及・啓発に関する研究>(中村・宮地・松平)
 研究班員を中心とした研究会やシンポジウムを開催し、単に疫学的研究のみならず、運動生理学、行動科学、社会科学の観点から妥当性・実現可能性・波及性を多面的に分析・討論することにより、ロコモ対策の普及・啓発方針に関するコンセンサスを形成する。また、新聞やテレビ番組などで積極的な情報発信を行うことにより、効果的にアウトリーチを図ることにより、ロコモの認知率をメタボリックシンドローム並の90%以上に上昇させる。
結果と考察
①系統的レビューの作業は該当する文献32編の全文精読を終えた。その結果、身体活動量、運動量、筋力は、メタボやその他の生活習慣病の発症と同様に運動器の症状の発生とも関連していることが示された。これらの成果から、高齢者の余暇活動量の基準値として4メッツ・時/週≒週120分、通常歩行速度の参考値として74m/分が示された。今後、コホート研究や介入研究などを用いて、ロコモとメタボと生活習慣の相互作用に関する検討を、我が国のコホートで検討することが必要である。
②長野県の佐久市に、①の課題を検討するためのコホートを立ち上げた。身体活動量、食事頻度調査、人間ドック検査などをベースラインで実施した。24年度末時点で4454名の参加者をリクルートすることができた。ベースラインの横断的分析の結果、メタボ者は手足に痛みを訴える者の割合が約2倍有意に多いこと、活動量が多い者は痛みの発生リスクが低い傾向にあることが示唆された。
さらに、東京の1,051名が参加する大規模介入コホートの構築が終了し、割り付け後の介入・追跡を始めている。
③ロコモの評価法として、特定健診対象世代の運動機能を定量的に評価する質問票と体力測定セットを新たに考案し、今後その妥当性を評価する体制を整えた。一方、特定健診の現場で問題となる膝・腰の痛み対する対応マニュアルを作成し、活用の準備を始める段階となった。
結論
総合的に、当初の計画よりも先んじる進捗度でメタボとロコモの関連性をコホート調査で明らかにする準備が整った。初年度に考案した運動器尺度や運動器症状に対する対応マニュアルを次年度よりフィールドで活用することにより、メタボとロコモを包括的に捉えた実証データが得られると期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201222046Z