温泉利用が健康づくりにもたらす総合的効果についてのエビデンスに関する研究

文献情報

文献番号
201222045A
報告書区分
総括
研究課題名
温泉利用が健康づくりにもたらす総合的効果についてのエビデンスに関する研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
前田 豊樹(九州大学病院別府病院 内科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は温泉療法の医学的効果を疫学、臨床効果、ゲノム変化と多面的に検証し、温泉治療の汎用性向上させ、生活習慣病の予防法あるいは補助的治療としての医療上の確固たる位置づけを目標とする。
研究方法
 アンケート調査:温泉と身体状況の調査アンケートは、その項目について、申請者、別府市医師会理事会、別府市役所健康づくり推進課の協同で検討して作成した。年齢、性別、温泉利用型健康増進施設の利用頻度、入浴時間などと既往歴、治療中の疾患、治療内容、身体活動度など、項目を極力絞り、できるだけ簡単なスケールで回答できるものとした。
 鉱泥浴治療のテロメアへの影響:温泉浴の医学的効果のゲノムレベルでの検証は、鉱泥浴治療を受けた線維筋痛症患者を対象に各種臨床検査値の推移とテロメア解析を行った。鉱泥浴は、42℃に設定され、1日1回10分の入浴を行った。入院時と退院時の各種臨床検査値、テロメア関連パラメータの測定値を比較して、鉱泥浴の臨床的効果並びにゲノムレベルでの老化性変化への影響の検出を試みた。
 培養実験による温熱効果の検証:細胞レベルでの温熱効果の検証を目的とした培養細胞実験は、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞を用い、37℃条件下と42℃条件下で培養して、テロメア長、テロメア関連蛋白、ヒートショック蛋白などの発現の追跡を行い、細胞レベルでの温熱効果を探索した。

結果と考察
 アンケート調査結果:当初予想された30~40%のアンケート回収率を多きく上回る11,146名(56%)から回答が寄せられた。温泉の利用状況と3大疾患既往率について見ると、温泉を毎日利用する人とそうでない人では、がん、虚血性心疾患、脳卒中の既往率は、それぞれ11%と13%、6%と8%、2%と3%であり、虚血性心疾患、脳卒中の既往については、有意に毎日温泉を利用する人で有意に少ないという結果であった。温泉利用頻度と3大疾病のうちの、心臓病(虚血性心疾患)もしくは脳卒中の既往と関連している可能性が示されている。
 鉱泥浴のテロメアへの影響:連日の入院鉱泥浴治療(平均入院治療日数45日)を行った線維筋痛症患者7名の解析結果を示す。線維筋痛症による全身各所の疼痛は、入院当初5点満点フェイススケールで平均3.3点であったものが、退院時には、0.8点と有意に低下していた。臨床検査値の変化を見たところ、血清アルブミンの増加効果、貧血の改善効果が有意に認められた。これに対してテロメア変化では、入院時と退院時における平均テロメア長では有意差がなかった。しかし、アルブミン値と赤血球数の推移に対して、平均テロメア長が有意に短縮する傾向が検出された。このことは、テロメアの短くなった老化細胞が延命されて、末梢血中により長くとどまれることを示している可能性がある。
 培養実験による温熱効果の検証:培養実験では、培養温度42℃条件下では、ヒト血管内皮細胞のテロメアの平均長には影響がなかったが、初期(1日)には、長いテロメアが一時的に減少し、長時間(3日)では、短いテロメアが減少した。さらに、ヒートショック蛋白の発現が上昇した。また、初期にはテロメア伸長酵素であるテロメラーゼのタンパク部分の発現が上昇した。高温条件下培養細胞のゲノム老化の変容:42℃環境への暴露は、長時間に及ぶ場合、血管内皮細胞に障害を与えるストレスになると考えられる。しかし、短時間であれば、そのストレスに対抗しようとするヒートショック蛋白やテロメラーゼの発現を上昇させるなど、温熱による細胞障害を防ぐ作用が誘導されていた。テロメラーゼの発現上昇は、ゲノム老化に抑制性に作用すると考えられた。このことは、温熱刺激は、生体にダメージを与える可能性があるが、短時間であれば、温熱に対抗するホルミシス効果としてのアンチエイジング効果につながる生体作用を誘導する可能性があることを示していると考えられる。

結論
 温泉アンケート調査:温泉の連日入浴は、虚血性疾患と脳卒中の予防に繋がる可能性がある。今後、温泉利用頻度、温泉入浴時間、温泉利用期間、各年齢層などのパラメータを細分した上で、さらに統計解析を行い、今回の結果を検証し直すとともに、最も好適な条件を見つけ出していく必要があると思われる。
 鉱泥浴の老化への影響:鉱泥浴には、鎮痛効果、栄養改善効果に加え、それと平行して細胞レベルでの延命効果がある可能性がある。ただし、今回の結果を確認するために、症例の蓄積が必要である。
 血管内皮細胞の高温培養:高温への暴露は、血管内皮細胞において、ストレスに対抗する一種のホルミシス効果としてのアンチエイジング作用を誘導できる可能性が示された。今後、さらに高温暴露の時間や、温度条件を複数設定して再実験を行うことなどにより今回の仮説を検証していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201222045Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,180,000円
(2)補助金確定額
4,180,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,188,930円
人件費・謝金 573,000円
旅費 0円
その他 2,038,070円
間接経費 380,000円
合計 4,180,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-06-04
更新日
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