急性期脳卒中への内科複合治療の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201222039A
報告書区分
総括
研究課題名
急性期脳卒中への内科複合治療の確立に関する研究
課題番号
H23-循環器等(生習)-一般-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 一則(独立行政法人国立循環器病研究センター 脳血管内科)
研究分担者(所属機関)
  • 苅尾 七臣(自治医科大学 循環器内科)
  • 上山 憲司(中村記念病院 脳神経外科)
  • 古井 英介(広南病院 脳血管内科)
  • 塩川 芳昭(杏林大学 脳神経外科)
  • 長谷川泰弘(聖マリアンナ医科大学 神経内科)
  • 奥田 聡(名古屋医療センター 神経内科)
  • 藤堂 謙一(神戸市立医療センター中央市民病院 神経内科)
  • 木村 和美(川崎医科大 脳卒中医学)
  • 岡田 靖(九州医療センター 脳血管センター 脳血管内科)
  • 山上 宏(国立循環器病研究センター 脳神経内科)
  • 古賀 政利(国立循環器病研究センター 脳卒中集中治療科)
  • 有廣 昇司(国立循環器病研究センター 脳卒中集中治療科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳卒中患者への超急性期から急性期における血栓止血学治療と積極的危険因子管理の相乗作用を確かめ、この複合治療法を確立するためのエビデンスを構築する。とくに研究期間内に複数新規経口抗凝固薬(NOAC)の薬事承認が予想され今後の治療法を大きく変え得る心房細動を有する脳梗塞患者の抗凝固療法について、前向き観察研究で治療実態・治療効果を調べる。他にrt-PA静注療法、脳出血急性期の止血、降圧療法などを採り上げる。
研究方法
主任・分担研究者の所属する全国10施設と院外研究協力8施設で、地域の偏りなく全国に普遍化できる研究を遂行する。主研究である「心房細動を伴う脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)患者の抗凝固薬選択と治療成績に関する研究」(SAMURAI-NVAF研究: UMIN000006930、ClinicalTrials.gov NCT 01581502)では、 非弁膜症性心房細動を有する急性期脳梗塞/TIA患者を対象に、多施設共同前向き観察研究を行う。平成25年末までに1000例超の登録を目指す。患者の背景要因と急性期~慢性期における抗血栓治療内容と、急性期および2年間の追跡期間中の転帰、虚血・出血イベントを調べる。他に4つの副次的多施設共同研究を行う。
結果と考察
(1) SAMURAI-NVAF研究: 2012 年度末までに630例を登録した。中間解析では、登録患者の31%で発症前CHADS2スコアが0~1といわゆる低リスク群であったこと、69%が発症前に抗凝固療法を受けていなかったこと、発症後のNOAC選択が、早期退院の独立した予測因子となること等が、解明された。2011年以降にNOACの国内承認が続いたが、日本人での十分な臨床成績に乏しく、実地診療に直結する成果を本研究から得ることを期待する。(2) NOAC服用中の重症出血合併症への止血治療に関する研究: 近年国内承認された一連のNOACは、従来薬ワルファリンと比べて、出血性合併症発症時の緊急中和治療手段が確立していない。NOAC内服中に発症した重症出血合併症に対する、プロトロンビン複合体製剤を用いた止血治療の有効性と安全性を解明するために、前向き観察研究を行う。平成24年度末までに登録された5例のうち2例にプロトロンビン複合体製剤1000単位が急速投与され、その後の血腫拡大を防げた。登録例が少ない理由の一つに、NOACが重症出血を起こし難い可能性が考えられる。(3) 急性期脳出血患者への抗凝固療法再開に関する多施設共同観察研究: 平成20~22年度厚労科研から継続した研究である。ワルファリン内服中に脳出血を発症した患者の抗血栓療法再開の実態と、再開が患者転帰に及ぼす影響を明らかにすることを、目的とする。1年後まで追跡できた50例のうち、出血性合併症が5例に生じ、うち4例は抗凝固療法再開後であった。血栓・塞栓性合併症は症候性を6例、無症候性を5例に生じ、うち8例は抗凝固療法中断中であった。症候性血栓・塞栓性合併症が、1年後の転帰不良に独立して有意に関連した。(4) 超急性期脳出血への降圧療法に関する研究: 平成20~22年度厚労科研で行われた全国アンケートで多数意見として示された急性期脳出血への降圧目標(収縮期血圧160 mmHg以下)や降圧薬(ニカルジピン静注)の妥当性を明らかにすることを、目的とする。211例の3か月後までの追跡で、既報を上回る治療安全性を示したことを、英文誌に発表した。また目標降圧範囲の中でもより血圧低値を保った群の方が転帰良好であること、登録患者の急性期眼球共同偏倚が転帰の独立した予測因子となること、入院時の糸球体濾過率低値が転帰不良に関連すること等のサブ解析結果を、英文誌や国際学会にて発表した。研究成果は、ニカルジピンの海外添付文書における禁忌項目記載の改訂に反映され、またNIH助成研究者主導国際臨床試験ATACH IIを国内で開始する上での貴重な資料となった。(5) rt-PA患者登録研究: 平成20~22年度厚労科研から継続した研究である。平成24年度に4編のサブ解析原著論文が英文誌に掲載および掲載許可され、発症-治療開始時間と治療前NIHSS値の積算値、rt-PA投与前後25時間の血圧変動、rt-PA投与後24時間でのNIHSS値の4点以上増加(早期進行)が各々転帰に良く関連することや、脳底動脈閉塞患者への治療成績を、解明した。一連の研究成果は、rt-PA静注療法適正治療指針第二版の作成における、貴重な参考資料となった。
結論
SAMURAI-NVAF研究を中核とする5つの多施設共同研究を企画、遂行した。急性期脳卒中患者への抗血栓療法(血栓止血学治療法)と危険因子積極的管理を絡めた内科治療の確立に寄与すべく、最終年度へ向けて研究を着実に進めてゆきたい。

公開日・更新日

公開日
2013-08-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201222039Z