保健医療研究遂行に際しての事前評価、倫理に関する研究

文献情報

文献番号
199800085A
報告書区分
総括
研究課題名
保健医療研究遂行に際しての事前評価、倫理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
平良 専純(放射線影響研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生行政に関連した保健医療研究の中で、疫学研究は、広く行われ、かつ重要な役割を持っている。疫学研究は、集団を対象とするものであるので、研究対象者の権利保護の観点から特有の倫理規範を作る必要がある。そこで、疫学研究における倫理規範の作成を目的とした。
研究方法
本年度は、2年度に作成した「疫学研究に際しての倫理に関する指針(案)」(以下指針(案)と略す)について、全国の疫学調査を行っていると思われる施設、大学医学部、研究所、コメディカル大学計199施設に調査票を郵送し意見を求め、同時に、倫理審査委員会および研究計画の科学的有用性を評価する委員会についての実態調査を行った。
結果と考察
研究結果=郵送調査の回答率は、54.4%で、回答のあった大学医学部、医科大学の中で、倫理審査機関を持つ大学は63%であった。しかし、この大部分は、医療現場の倫理問題に対応する委員会で、研究計画に対する倫理評価機関では必ずしもなかった。研究計画の科学的有用性を評価する機関がある施設はわずか20%であった。 さらに、7施設については、過去に行った疫学調査について、「指針」の各項目についてどの程度実施されていたかについての調査を行った。これらの2つの調査によって得られた現指針(案)に対する意見、問題点などを検討、整理して、「疫学研究に際しての倫理に関する指針(改訂版)」を作成した。
「指針(改訂版)」における大きな改訂点は、1)「指針(案)」の審査基準4項目、すなわち、(1)インフォームド・コンセント、(2)秘密の保護、(3)研究参加による利益を最大にすること、(4)研究参加による不利益を最小にすることから、(1)インフォームド・コンセント、(2)秘密の保護、(3)研究参加による最大限の利益を確保すること、の3項目に変えた点と、2)倫理審査委員会でインフォームド・コンセントを個々にとる必要性の有無を決定し、インフォームド・コンセントを個々に取ることを免除される場合を規定して明記した点、3)科学的有用性は、倫理審査委員会とは別の委員で審査し、倫理審査委員会では、科学的有用性が評価された研究計画を審査することを原則とする。ただし、科学的有用性を評価する機関がない施設では、科学的有用性を表記したものを資料として倫理審査委員会に提出し、倫理審査委員会では、科学的有用性を確認することを明記した点である。疫学研究に際しての倫理に関する指針(改訂版)の抜粋を以下に示した。
疫学研究に際しての倫理に関する指針(改訂版)(抜粋)
第1章 はじめに: 研究は,適切な資格および経験のある研究者により,目的と方法などを明確に記述した研究計画に従って実施されなければならない。その研究計画は、研究者から独立して構成された審査機関により、その科学的有用性および倫理が評価されるべきである。ただし、科学的有用性を評価する機関がない施設では、科学的有用性を表記したものを資料として倫理審査委員会に提出し、倫理審査委員会では、科学的有用性を確認する。研究者は、研究の倫理問題すべてに常に責任を負い、倫理審査委員会の指示に従わなければならない。
第2章 倫理審査委員会
2.1 倫理審査委員会(以下「委員会」という)の設置と構成: 1) 委員会の長および委員は施設長が委嘱 2) 施設内外からの異なる分野の委員から構成 3) 男性または女性だけで構成されることがないように努める 4) 委員が研究計画に関係する場合は、その委員を審査に参加させてはならないが、意見を求めることはできる 5) 委員会は、委員以外に必要な専門知識を有する専門家の出席を求めることができるが、委員会の審査決定に参加することはできない。
2.2任務:1)委員会は研究許可の権限を持つ者からの諮問により、研究計画が人権擁護上、道義的及び法律的見地から適切であるか否かを審査する。委員会は、インフォームド・コンセントを個々に取る必要があるか否かを協議し決定する。なお、委員会は、研究実施の段階で、中間報告あるいは2年1回の審査により監視し、必要に応じて適正な是正措置を勧告する。 2) 研究結果が学術誌等に発表される場合、その発表内容が、委員会が当初承認した研究計画によって行われた研究であるか否かについて審査することが望ましい。 3)申請書類、申請方法、中間報告、危害の発生の報告、運営方法について規則を定め、公表する。 4)審査結果は、研究許可権限を持つ者に報告される。 5)委員長が簡易審査手続きに適していると判断した研究は、委員長が委員から任命した2名以上の審査委員により審査を行う。研究の審査にあたっては、審査委員は委員会のすべての権限を行使することができる。簡易審査による結果は直近の委員会に報告され、承認を受けなければならない。研究の不承認は簡易審査でなく、委員会の手続きに従った審査の後にのみなすことができる。 6)委員会は、審査基準に従って実施されていない研究や、研究対象者に対する重大な危害が発生した研究について承認を停止または撤回することが適切であると判断された場合には、これらの判断をした理由の説明を含め、研究許可権限をもつ者に勧告する。
2.3 会議の成立要件:1)委員会は、委員の3分の2以上の出席が必要。 2) 委員会の決定は、出席委員の3分の2以上の意見の一致が必要。
2.4. 研究に対する委員会の承認決定:1)委員会は、研究計画を承認するために、第2章の「審査基準」の要件が満たされていることを確認しなければならない。
2) 審査結果は、次の区分のいずれかの決定を行うものとする。a)承認 b)条件を付けて承認 c)承認を保留、研究許可の許可権限をもつ者に変更の勧告 d)審査基準に適合しないときは不承認とし、その理由を文章で明示する。
2.5記録: 1) 委員会は、次の記録を作成し保存しなければならない。 a) 審査した研究計画、その評価内容、研究対象者の同意書の書式の写し、研究対象者に危害が発生した場合その報告のすべての写し b)委員会の議事録 c)その他の審査内容の記録 d)委員会と研究者との間の通信文書のすべての写し e)委員の名簿。 2)本指針で要求される記録および実施される研究に関連する記録は少なくとも5年間保存されなければならない。
第3章 本指針の適用対象: 本指針は、分子疫学研究を除くすべての疫学研究に適用される。 3.1本審査:疫学研究計画は、本指針の要件に従って運営される委員会によって、審査および承認されなければならない。
3.2簡易審査:委員会は、研究が 1)既存のデータ、文書、記録等の資料を利用した研究で、それらの資料が一般に公開されている場合 2)研究対象者に対して倫理的問題を惹起しないことが明らかな場合 3) 1)、2)以外に委員会が認めた場合 には、簡易審査によることができる。
第4章 倫理審査基準 :倫理審査基準は、提案されている研究計画が、倫理的に受け入れられるかどうかを判断するためのもので、インフォームド・コンセントを得ること、秘密が保護されていること、研究参加による最大限の利益を確保することである。
4.1インフォームド・コンセント: インフォームド・コンセントに関して研究者は次の義務を負う。a) 承諾能力が明らかにある者のみを研究対象者にすることを原則とする。 研究対象候補者に対し、 b)インフォームド・コンセントに必要なすべての情報を伝えること c) 質問をする十分な機会を与えること d) 同意は、研究対象候補者が十分な知識を得て考える期間を与えた後に求めること e)強制、威圧、脅迫および誤魔化しの可能性を取り除くこと f)インフォームド・コンセントは、書面によらなければならないこと g)研究の条件、手順に重要な変更がある場合は、それぞれの研究対象者からインフォームド・コンセントを改めて取得すること。だたし、インフーォムド・コンセントを個々に取ることが免除される場合がある。この決定は倫理審査委員会が行う。
4.2 秘密の保護: 研究者は、研究のすべての過程において秘密保護のための確実な手段を講じなければならない。研究者は、常に秘密漏洩の危険性を自覚し、漏洩のないよう最大限に努力する。また、漏洩した場合でもその被害が最小になるようにする。
4.3 研究参加による最大限の利益を確保すること: 研究対象者が研究参加によって期待しうる利益の中には、健康に関する研究結果が知らされることが含まれる。
Ⅱ.保健医療研究に際しての事前評価、倫理に関する実態を把握するために、大学医学部、医科大学、保健医療研究機関、コメディカルの大学に郵送調査を行った。倫理委員会は、大学医学部で63.2%、保健医療研究機関で90%、コメディカル大学で21%に設置されていた。しかし、この大部分は、医療現場で倫理問題を検討する委員会で、必ずしも、研究計画に対する倫理評価機関ではなかった。
結論
疫学研究に際しての倫理に関する指針(改訂版)を作成した。 疫学研究は、実質的には科学的有用性と、研究対象者の承諾によって、手続き的には倫理審査によって正当なものになる。この指針は、研究計画を人権擁護上、道義的および法律的見地から適切であるか否かを審査する倫理審査委員会について、およびその審査基準[ 1)インフォームド・コンセント、2)秘密の保護、3)研究参加による最大限の利益を確保すること]について定めた。日本国内で、倫理委員会は、回答が得られた大学医学部の63.2%、保健医療研究機関で90%、コメディカル大学で21%に設置されていた。
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