健康増進のための多面的指標および到達目標の設定ならびにその評価手法に関する研究

文献情報

文献番号
199800084A
報告書区分
総括
研究課題名
健康増進のための多面的指標および到達目標の設定ならびにその評価手法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
柳川 洋(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 尾島俊之(自治医科大学)
  • 神田晃(昭和大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康日本21における目標値設定のために必要な基礎的事項を明らかにすることを目的として本研究を行った。具体的には、現状データを基礎にした目標値設定の方法を開発し、実際に目標値設定を試みること、健康日本21におけるデータ収集のあり方を明らかにすること、自覚的健康観や健康指標の地域較差が健康指標として有効か否かを検討することを目的とした。
研究方法
現状データによる目標値設定に関しては、年齢調整死亡率の過去からのトレンドを直線回帰により外挿して目標設定を行った(トレンド法)。また、年齢調整死亡率の都道府県変動による目標設定を行った(地域較差法)。具体的には、直近の年次について、各都道府県の指標値の平均と標準偏差を求め、平均-2×標準偏差を目標値とした。データ収集のあり方に関しては、現状における我が国の情報収集体制と、米国における Healthy People 2000 で使用された目標指標を分析した。そして、我が国における必要性や現状の情報収集体制をふまえながら、我が国における問題点や改善方策について考察した。自覚的健康観および健康較差に関しては、まず、「自覚的健康観(感)」または「健康観(感)」を抄録に含む論文を検索し、対象、方法の検討、及び基準関連妥当性についてまとめた。次に、国民生活基礎調査において自覚的健康観が、「よい」と回答した率、及び「あまりよくない」または「よくない」と回答した率について、直接法により年齢調整を行い比較した。また、都道府県別値は間接法年齢調整を行い、年次別及び都道府県別に比較した。検討に当たっては、各死因の都道府県別年齢調整死亡率、及び都道府県別平均余命との関連を分析し、よい率、よくない率のいずれが将来予測指標として有効かを検討した。さらに、各死因の年齢調整死亡率及び平均寿命の男女別都道府県データにおける範囲、標準偏差、変動係数を求め、各々について過去30年間の傾向及び将来推計より、健康指標としての有効性を検討した。
結果と考察
【現状データによる目標値設定】多くの死因について、過去から現在まで死亡率が減少傾向にあることが観察され、それを外挿することにより現状より良い将来推計値を求めることができた。ただし、一定の傾向が見られないものや、増加傾向にあるため、外挿した将来推計値は、現状よりも悪い値となってしまうものもあった。心疾患は1994年より急激に減少した。トレンド法と地域較差法とで、算出された目標値の高低が死因によって異なった。従来、減少傾向にある死因については、トレンド法の方が低い目標値となり、不変または増加傾向にある死因については、地域較差法の方が低い目標値となった。なお、目標値がマイナスになってしまうものもあり、指数関数回帰なども考慮すべきであろう。心疾患は第10回修正国際疾病分類(ICD-10)の導入により1993年以前に比べて1994年以降は大幅に減少した。そこで、回帰分析を行う際には、1993年以前の傾きを用いて、回帰直線が1996年の現状値からつながるように切片を設定して算出する方法が良いと考える。トレンド法は、回帰分析という将来推計の常套手段を用いている点で説得力があるが、悪化している指標には使えず、また時に実現困難な低値目標が算出されることがある。一方、地域較差法は、安定して常識的な範囲の改善目標値が求められるが、この値を何年の目標値とするかについては根拠がないという問題点がある。また、政策的に考えた場合、有効な対策が無い死因について、低い目標値を立てたとしても絵に描いた餅になることは明らかである。逆に、現状よりも悪化した値を目標値とすることは社会的に認められがたいもの
がある。そこで、直線回帰もしくは指数回帰を用いたトレンド法による推計値を基本とし、現状より悪化する死因については、現状維持を目標とするのが妥当であると考えられる。
【データ収集のあり方】まず、米国での Healthy People 2000 で使用された指標を分析、分類した結果、健康寿命、異常者の治療割合、一般医の診療範囲、地域の指標、地域政策など多種多様な目標指標が設定されていた。次に、我が国の現状データ収集体制について分析を行った。健康日本21に最も有用なものは厚生省で所管している種々の厚生統計調査である。その他に、労働省による労働者福祉施設・制度等調査報告、総務庁の社会生活基本調査報告などが有用である。さらに、より広範囲で詳細な情報の収集方法について検討した。索引書籍、インターネット、法令、地方自治体、各種団体への照会、学術文献、単行本の検索、新規調査などの方法が整理された。今後の提言としては、基本的には、官公庁もしくはその補助金によって実施されるすべての統計調査について、何らかの機関において一元的に把握されていることが好ましいと考えられる。また、代替案としては、近年発達がめざましいインターネットの活用が考えられる。異常者の治療割合、精神保健、母子保健、思春期保健、学校保健、一般医師の診療範囲、地域の指標、地域政策などに関して、新規の調査が必要であると考えられた。他に既存統計調査へ調査項目を追加すべきものもあった。低所得者層における健康情報把握のため、国民生活基礎調査と国民栄養調査、循環器疾患基礎調査、人口動態統計との照合分析などを検討すべきであろう。
【自覚的健康観および健康較差】まず、自覚的健康観の文献的考察を行った。概ね、健常者においては、自覚的健康観は健康診査等の身体的所見よりも、問診等による生活習慣やQOLを反映している傾向があった。また、「自覚的疲労感」と咀嚼満足度または食生活パターンとの関連が示された。前向き研究では、疲労自覚症状スコアが食生活パターンの変化を反映していることが示された。国民生活基礎調査による分析では、自覚的健康観と死亡率や平均寿命は年次や死因によって有意な相関関係が見られるものがあった。健康指標の都道府県較差を分析した。平均寿命の標準偏差及び変動係数は男女とも減少傾向を示したが、範囲は変動が大きく、一定の傾向は見られなかった。年齢調整死亡率の標準偏差は各死因で男女とも概ね減少傾向を示したが、変動係数は結核、老衰において上昇傾向を示し、全死因、心不全、肺炎には一定の傾向は見られなかった。範囲は標準偏差に類似した変動を示した。自覚的健康観に関する文献的考察によって、自覚的健康観は身体的所見よりも生活習慣やQOL等の長期的あるいは質的な指標を反映している可能性があった。次に、都道府県別データを用いて、平均余命及び年齢調整死亡率との間の相関を見た。その結果、自覚的健康観がよい率と平均余命との間に弱い正の相関が見られた。このことは、自覚的健康観がよい率を高くすることが、数年後の平均余命上昇と関連する可能性を示した。しかしながら、自覚的健康観がよくない率と85歳平均余命との関連は逆転しており、これが高齢での平均余命に限って見られる傾向か、または自覚的健康観が「まあよい」、「ふつう」の回答率との関連かは、さらに検討する必要があろう。一方、自覚的健康観と死亡率との関連は、過去から調査時点までの結果ないし現状を反映している可能性が示された。健康較差の指標に関しては、平均寿命、年齢調整死亡率とも、標準偏差がこの30年間で減少傾向を示しており、1次回帰による将来推計が可能であった。標準偏差は分布のばらつきを表す指標として用いやすく、変動係数は実際のデータと単位が異なるため一般に分かりにくい。しかしながら、年齢調整死亡率で見られたように、標準偏差が減少しても変動係数が増加した場合は統計的なばらつきは増大したので、ばらつきによるリスクの差に注意して評価する必要があろう。範囲は計算が最も簡単であるが、最大値、最小値に大きく影響されるので、目標値や将来推計値としては不適切と思われた。
結論
年齢調整死亡率の過去からのトレンドによる目標設定(トレンド法)と、年齢調整死亡率の都道府県変動による目標設定(地域較差法)の2つの方法により目標値設定を試みた。トレンド法を基本にしつつ、各方法の特徴をふまえて目標値を設定すべきであると考えられる。データ収集のあり方について、我が国の現状を基礎として、一部、米国の Healthy People 2000 と比較しながら改善提案を行った。今後、健康日本21をより有効に機能させるために、現行の統計調査制度を一部改変したり、また、必要に応じて新たな統計調査を実施することが求められている。自覚的健康観は、数年後の平均余命を反映する可能性から、健康日本21の目標値として考慮に値すると思われた。健康指標の都道府県較差については、ばらつきによるリスクの差を考慮の上、標準偏差が利用可能と思われた。

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