各種禁煙対策の経済影響に関する研究ー医療費分析と費用効果分析ー

文献情報

文献番号
201222020A
報告書区分
総括
研究課題名
各種禁煙対策の経済影響に関する研究ー医療費分析と費用効果分析ー
課題番号
H22-循環器等(生習)-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学 医学部)
  • 今中 雄一(京都大学 大学院医学系研究科)
  • 田中 英夫(愛知県がんセンター 研究所)
  • 谷原 真一(福岡大学 医学部)
  • 中村 幸志(金沢医科大学 医学部)
  • 村上 義孝(滋賀医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
第1に、能動喫煙・禁煙が医療費に及ぼす影響を解明すること。第2に、受動喫煙が医療費に及ぼす影響を解明すること。第3に、各種禁煙プログラムの費用対効果を比較すること。第4に、経済的要因が禁煙行動に及ぼす影響を評価すること。
これらの研究を通じて、エビデンスに基づく禁煙対策の企画立案に貢献し、もって国民の健康増進と疾病予防に資することを目指す。
研究方法
能動喫煙・禁煙が医療費に及ぼす影響に関する研究:研究分担者が管理している全国各地のコホート研究データを使って、個別研究として喫煙習慣と医療費との関連を検討した。さらに、統合解析として、国内5コホートを統合した62,572人(594,587人年)のデータを用いて、メタアナリシスにより喫煙習慣(過去禁煙者・継続喫煙者・生涯非喫煙者)別に医療費を比較した。
受動喫煙が医療費に及ぼす影響に関する研究:大崎国保コホート研究を用いて、非喫煙の女性を対象に、ベースライン調査(1994年)時点における家庭での受動喫煙の有無・程度と1995年から2007年までの月間平均医療費との関連を分析した。
各種禁煙プログラムの費用効果分析:保険を使った禁煙治療、OTC(Over The Counter:薬局での対面販売)禁煙補助薬の利用、職場における個別禁煙支援について、各プログラムの実施に要した費用と参加者の禁煙状況を調査した。これにより、各プログラムの費用効果比(禁煙成功者一人を生み出すための費用)を計算した。
経済的要因が禁煙行動に及ぼす影響に関する研究:職域集団と地域住民の男性喫煙者のうち、禁煙に取り組んだ(成功した)者を対象に、その理由を調査した。それにより、タバコ価格が禁煙行動に及ぼす影響を評価した。
結果と考察
能動喫煙・禁煙が医療費に及ぼす影響に関する研究:観察期間中に高額医療費(個人の医療費が集団の上位10パーセンタイル以内)となるリスクは、喫煙継続者に対して、生涯非喫煙者では0.71(95%信頼区間:0.65-0.77)、過去喫煙者で0.82(95%信頼区間:0.74-0.90)と、有意に低下した。この関連は生存例のみの解析でも認められ、またコホート間で明らかな異質性は観察されず、一般化可能な結果と考えられた。死亡リスクだけでなく高額な医療費の発生リスクが禁煙群において有意に低いことは、禁煙が長寿達成のみならず医療費抑制のためにも推奨されるべきであることを示唆するものである。
受動喫煙が医療費に及ぼす影響に関する研究:70歳代の女性では、受動喫煙に週3~4日以上曝露されている者の医療費は受動喫煙曝露のない者に比べて1.43倍(95%信頼区間:1.13-1.81)と、有意に増加した。しかし、40歳から69歳までの年齢層では有意な関連を認めなかった。本研究は受動喫煙によって医療費が増加することを個人レベルの観察データに基づいて世界で初めて実証したものである。
各種禁煙プログラムの費用効果分析:保険を使った禁煙治療では、協力施設の禁煙外来に受診した607名を対象に調査を実施し、その結果、禁煙成功者一人を生み出すためのコスト(費用効果比)は216,337円であった。OTC禁煙補助薬の利用では、名古屋市内のドラッグストアにてOTC禁煙補助薬を購入した98名を対象に調査を実施し、費用効果比は156,585円であった。職場における個別禁煙支援では、富山県の某製造業事業所での個別禁煙指導(カウンセリングの後、週1回禁煙日誌の提出を6ヵ月間求めて、激励・助言の実施。ニコチンパッチを希望する者には処方)を2006~2008年度に実施した際のデータを用いた結果、費用効果比は46,379円であった。
経済的要因が禁煙行動に及ぼす影響に関する研究:福岡県のある健保組合の健保本人で、20~69歳の喫煙男性2,264名のうち、1年以内に禁煙に取り組んだ者は922名であった。その理由として「健康のため」481名(52.2%)と「2010年10月にタバコの値段が上がった」472名(51.2%)が最も多かった。「健康のため」はニコチン依存度の低い者が理由として挙げる割合が高く、「2010年10月にタバコの値段が上がったから」はニコチン依存度の高い者が理由として挙げる割合が高くなっていた。
結論
長期禁煙による医療費の減少、受動喫煙による医療費の増加が示唆された。喫煙の医療費増加効果を考えると、禁煙プログラムの費用効果比は受容可能な範囲にある。タバコ価格の値上げは禁煙を動機付けることが示された。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201222020B
報告書区分
総合
研究課題名
各種禁煙対策の経済影響に関する研究ー医療費分析と費用効果分析ー
課題番号
H22-循環器等(生習)-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡村 智教(慶應義塾大学 医学部)
  • 今中 雄一(京都大学 大学院医学系研究科)
  • 田中 英夫(愛知県がんセンター 研究所)
  • 谷原 真一(福岡大学 医学部)
  • 中村 幸志(金沢医科大学 医学部)
  • 三浦 克之(滋賀医科大学 医学部)
  • 村上 義孝(滋賀医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
第1に、能動喫煙・禁煙が医療費に及ぼす影響を解明すること。第2に、受動喫煙が医療費に及ぼす影響を解明すること。第3に、各種禁煙プログラムの費用対効果を比較すること。第4に、経済的要因が禁煙行動に及ぼす影響を評価すること。
これらの研究を通じて、エビデンスに基づく禁煙対策の企画立案に貢献し、もって国民の健康増進と疾病予防に資することを目指す。
研究方法
能動喫煙・禁煙が医療費に及ぼす影響に関する研究:岡村は、喫煙とメタボリックシンドロームとの間で医療費に対する影響を比較した。大阪府吹田市の市民健診受診者4,285人を対象に循環器疾患の発症を平均13.0年追跡して、医療費への影響を検討した。中村は、滋賀県内7町1村の40~69歳の基本健康診査を受診した約4,500名を10年間追跡して、喫煙が医療費に及ぼす影響を検討した。三浦(平成22年度)・村上(平成23・24年度)は、滋賀県の基本健康診査受診者39,114人を対象に、喫煙状況とその後3~5年間の医療費との関連を検討した。辻は、研究分担者の管理する5コホートを統合した62,572人(594,587人年)のデータを用いて、メタアナリシスにより喫煙習慣別に医療費を比較した。
受動喫煙が医療費に及ぼす影響に関する研究:今中は、大崎国保コホート研究データを用いて、非喫煙の女性を対象に、ベースライン調査(1994年)時点における家庭での受動喫煙の有無・程度とその後13年間の1月あたり医療費との関連を分析した。
各種禁煙プログラムの費用効果分析:各種禁煙プログラムの実施費用と参加者の禁煙状況を調査し、各プログラムの費用効果比(禁煙成功者一人を生み出すための費用)を計算した。田中は保険を使った禁煙治療とOTC(薬局での対面販売)禁煙補助薬の利用について、中村は職場での個別禁煙支援について検討した。
経済的要因が禁煙行動に及ぼす影響に関する研究:職域集団と地域住民の男性喫煙者のうち禁煙に取り組んだ(成功した)者に理由を調査し、タバコ価格の値上げなどが禁煙行動に及ぼす影響を評価した。前者は谷原が、後者は中村が担当した。
結果と考察
能動喫煙・禁煙が医療費に及ぼす影響に関する研究:岡村の研究で以下の結果が得られた。脳血管障害と虚血性心疾患の合計に対する人口寄与危険割合は、男性で喫煙のみ群11.7%、メタボリックシンドロームのみ群5.1%、両者の合併群6.9%であり、女性では各8.1%、5.2%、1.8%であった。これより推計すると、ほぼ同年代の脳血管障害と虚血性心疾患の国民医療費の総計1兆0781億円のうち、1733億円(16%)が喫煙によると推定された。中村の研究では以下の結果が得られた。対象集団の総医療費のうち、男性で14.7%、女性で1.2%が喫煙(含禁煙)によるものと推定された。三浦・村上の研究では以下の結果が得られた。女性では65歳で非喫煙24.1万円、禁煙54.0万円、現在喫煙35.0万円、75歳で非喫煙46.9万円、禁煙47.7万円、現在喫煙62.1万円と、現在喫煙者における医療費増加と禁煙者における医療費抑制の傾向がみられた。一方、男性では明らかな傾向がなかった。辻の研究では以下の結果が得られた。観察期間中に高額医療費(個人の医療費が集団の上位10パーセンタイル以内)となるリスクは、喫煙継続者に対して生涯非喫煙者で0.71(95%信頼区間0.65-0.77)、過去喫煙者で0.82(同0.74-0.90)と、有意に低下した。
受動喫煙が医療費に及ぼす影響に関する研究:70歳代の女性では、受動喫煙に週3~4日以上曝露されている者の医療費は受動喫煙曝露のない者の1.43倍(同1.13-1.81)で、有意に増加した。
各種禁煙プログラムの費用効果分析:費用効果比は、保険を使った禁煙治療で216,337円、OTC禁煙補助薬は156,585円、職場での個別禁煙支援で46,379円であった。費用効果比の差は禁煙成功率の差を大きく反映した。喫煙の医療費増加効果を考えると、禁煙プログラムの費用効果比は受容可能な範囲にある。
経済的要因が禁煙行動に及ぼす影響に関する研究:職域集団では、禁煙に取り組んだ理由として「健康のため」と「2010年10月にタバコの値段が上がった」が最も多かった。後者はニコチン依存度の高い者で多かった。地域住民では、1999年以前と比べて、2000年以降に禁煙を始めた集団では「出費を抑えたい」と「社会情勢が厳しい」を理由とする者が増えた。
結論
長期禁煙による医療費減少、受動喫煙による医療費増加が示された。禁煙プログラムの費用効果比は、医療経済の観点で受容可能な範囲にある。タバコ価格の値上げは、とくにニコチン依存度の高い者で禁煙を動機付ける。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201222020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
受動喫煙の医療費影響、ニコチン依存度と禁煙治療の費用対効果との関連、γ-回帰モデルによる喫煙と医療費との関連などについて、19編の原著論文を発表した。論文は、Cancer Epidemiology Biomarkers & PreventionやJournal of Epidemiologyなどの一流誌に掲載され、国内外で大きな注目を集めている。本研究成果を日本疫学会で発表した際に、優秀ポスター賞を受賞した。
臨床的観点からの成果
長期禁煙により医療費が減少すること、受動喫煙により医療費が増加することなどが明確に示された。この知見は臨床治療における患者教育においても活用されるべきものである。各種禁煙プログラムの費用効果比とその要因を明らかにしたことは、より効率的な禁煙プログラムの作成に貢献するものと思われる。
ガイドライン等の開発
研究分担者の田中は、本研究成果などをもとに「事例で学ぶ禁煙治療のためのカウンセリングテクニック」という単行本(看護の科学社より2012年に出版)を編集した。
その他行政的観点からの成果
辻と岡村は、厚生労働省「健康日本21(第二次)」計画策定委員会の委員として、本研究の成果に基づいて、健康増進・疾病予防の経済効果について提言するとともに、喫煙などの目標設定に関する検討に貢献した。
その他のインパクト
岡村の研究成果は、2012年1月5日の読売新聞(夕刊)で「喫煙、医療費1733億円押し上げ」という記事で紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
14件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Park JY, Matsuo K, Tanaka H, et al.
Impact of smoking on lung cancer risk is stronger in those with the homozygous aldehyde dehydrogenase 2 (ALDH2) null allele in a Japanese population.
Carcinogenesis , 31 (4) , 660-665  (2010)
原著論文2
Ito H, Matsuo K, Tanaka H, et al.
Non-filter and filter cigarette consumption and the incidence of lung cancer by histological type in Japan and the United States: Analysis of 30-year data from population-based cancer registries.
International Journal of Cancer , 128 , 1918-1928  (2011)
原著論文3
Nakamura K, Okamura T, Ueshima H, et al.
Medical expenditures of men with hypertension and/or a smoking habit: a 10-year follow-up study of National Health Insurance in Shiga, Japan.
Hypertension Research , 33 , 802-807  (2010)
原著論文4
Taniguchi C, Tanaka H, et al
Perceptions and practices of Japanese nurses regarding tobacco intervention for cancer patients.
Journal of Epidemiology , 21 (5) , 391-397  (2011)
原著論文5
Nagai M, Hozawa A, Tsuji I, et al.
Impact of obesity, overweight and under- weight on life expectancy and lifetime medical expenditures: the Ohsaki Cohort Study.
BMJ Open , 11 (2)  (2012)
原著論文6
Nagai M, Tomata Y, Tsuji I, et al.
Association between sleep duration, weight gain, and obesity for long period.
Sleep Medicine , 14 (2) , 206-210  (2013)
原著論文7
Morishima T, Imanaka Y, Tsuji I, et al.
Burden of household environmental tobacco smoke on medical expenditure for Japanese Women: a population-based cohort study.
Journal of Epidemiology , 23 (1) , 55-62  (2013)
原著論文8
林田賢史,辻 一郎,今中雄一,他.
喫煙者と非喫煙者の生涯医療費.
日本衛生学雑誌 , 67 (1) , 50-55  (2012)
原著論文9
Ojima M, Hanioka T, Tanaka H.
Necessity and readiness for smoking cessation intervention in dental clinics in Japan.
Journal of Epidemiology , 22 , 57-63  (2012)
原著論文10
Matsuo K, Gallus S, Tanaka H, et al.
Time to first cigarette and upper aerodigestive tract cancer risk in Japan.
Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention , 21 , 1986-1992  (2012)
原著論文11
Kawakita D, Hosono S, Tanaka H,et al.
Impact of smoking status on clinical outcome in oral cavity cancer patients.
Oral Oncology , 48 , 186-191  (2012)
原著論文12
Nakamura K, Miura K, et al.
Nicotine dependence and cost- effectiveness of individualized support for smoking cessation: evidence from practice at a worksite in Japan.
PLoS One , 8 (1)  (2013)
原著論文13
Nakamura K, Nakagawa H, et al.
Characteristics of smoking cessation in former smokers in a rural area of Japan.
International Journal of Preventive Medicine , 3 (7) , 459-465  (2012)
原著論文14
Murakami Y, Okamura T, Miura K, et al.
The clustering of cardiovascular disease risk factors and their impacts on annual medical expenditure in Japan: community-based cost analysis using Gamma regression models.
BMJ Open , 3 (3)  (2013)
原著論文15
Tanihara S, Momose Y.
Reasons for smoking cessation attempts among Japanese male smokers vary by nicotine dependence level: cross-sectional study after the 2010 tobacco tax increase
BMJ Open  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2015-06-02

収支報告書

文献番号
201222020Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
19,800,000円
(2)補助金確定額
19,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,989,800円
人件費・謝金 6,968,611円
旅費 2,233,990円
その他 4,813,825円
間接経費 1,800,000円
合計 19,806,226円

備考

備考
預金利息、自己資金分

公開日・更新日

公開日
2015-10-13
更新日
-