動脈硬化の多角的評価による脳卒中個別化治療開発に関する研究

文献情報

文献番号
201222014A
報告書区分
総括
研究課題名
動脈硬化の多角的評価による脳卒中個別化治療開発に関する研究
課題番号
H22-循環器等(生習)-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
長束 一行(独立行政法人国立循環器病研究センター 脳神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 内山 真一郎(東京女子医科大学 神経内科)
  • 松本 昌泰(広島大学医学部 神経内科)
  • 藤代 健太郎(東邦大学医学部医学科 教育開発室)
  • 北川 一夫(大阪大学大学院医学系研究科 神経内科)
  • 小久保 喜弘(独立行政法人国立循環器病研究センター 予防健診部)
  • 竹川 英宏(獨協医科大学 神経内科脳卒中部門)
  • 山村 修(福井大学医学部 地域医療推進講座)
  • 多賀谷 昌史(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 脳卒中内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 脳卒中の基盤となる動脈硬化は、主として粥状硬化と細動脈硬化に大別される。粥状硬化は画像検査が進歩し、早期から詳細な診断が可能で、治療効果に対するエビデンスも多い。一方、細動脈硬化は、血管径が細いため従来の画像診断技術では評価が困難であり、治療介入の効果に関するエビデンスも乏しい。日本をはじめとするアジア諸国の脳卒中病型は未だに細動脈硬化をもとにしたラクナ梗塞や脳出血が欧米よりも頻度が高いため、細動脈硬化にも注意を払った診断や治療法を確立してゆく必要がある。
  本研究の目的は、多角的な動脈硬化の検査指標を組み合わせることで粥状硬化と細動脈硬化を分離して評価可能な指標の組み合わせを見いだし、より早期から個々の動脈硬化の特徴に合わせた治療介入が可能となるようなsurrogated endpointを確立することにある。
研究方法
 全国8施設の分担研究者により前向き登録を行った。頸動脈エコーのパラメータとしては、最大内中膜厚(maxIMT)、プラークスコア、総頚動脈および内頸動脈の末梢血管抵抗(pulsatility index:PI)、総頚動脈径について調査し、脈波伝搬速度はbaPWVまたはCAVIのデータを収集した。一部の登録例で経頭蓋ドプラー検査による息こらえテストが可能であった症例では、脳血管反応性の評価を行った。
 小久保班員はこれまでに行っているコホート研究(吹田研究)で、総頸動脈内径と循環器疾患のイベント発症との関連について解析を行った。
結果と考察
 病型と頸動脈エコーおよび脈波伝搬速度の関連について多変量解析を行った。穿通枝梗塞群とATIB群を比較すると多変量解析で有意となった項目は、プラークスコア、総頸動脈および内頚動脈のPI値、PVHの有無、微小出血の有無であった。また脳出血群とATBI群を比較すると、プラークスコア、内頚動脈のPI値、PVHの有無、微小出血で有意差が認められた(図2)。粥状硬化の少ないことが穿通枝梗塞および脳出血の要因であったので、生理機能検査を組み合わせた場合の判別解析をROC曲線を用いて検定した結果、穿通枝梗塞とアテローム血栓性脳梗塞の鑑別にはIMT、総頸動脈内膜間径、PWV、内頚動脈PI値の組み合わせ、脳出血とATBIの鑑別にはIMTと総頸動脈内膜間径の組み合わせが最も感度・特異度を効率よく上げることができることが分かった。息こらえ方による脳血管反応性では、まだデータ数は少ないため統計的解析は困難であるが、脳出血・穿通枝梗塞群でアテローム血栓性脳梗塞群に比較して、血管反応性が低下する傾向が得られた。
 また小久保班員による、都市部一般住民を対象とした動脈硬化の多角的評価による脳卒中予測因子に関する研究
で、総頸動脈内膜間径とイベントとの関連を検討したところ、血管径は全脳卒中、虚血性脳卒中の有意な予測因子であることが判明した。
結論
1)多施設前向き研究では末梢血管抵抗を反映するpalsatile indexが細動脈硬化の指標として有用であることが示された。さらに精度を上げるためには、複数の指標を組み合わせた予測モデルを作成する必要がある。
2)脳血管反応性はこれまで高価なSPECTなどの検査でしか評価してこなかったが、簡便で繰り返し行える経頭蓋ドプラによる息こらえ法が細動脈硬化の指標となる可能性が示された。
3)吹田市のコホート研究にて、脳卒中の予測因子として総頸動脈径が有用で、出血性脳卒中の予測因子でもあることが世界で初めて明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201222014B
報告書区分
総合
研究課題名
動脈硬化の多角的評価による脳卒中個別化治療開発に関する研究
課題番号
H22-循環器等(生習)-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
長束 一行(独立行政法人国立循環器病研究センター 脳神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 内山真一郎(東京女子医科大学 神経内科)
  • 松本 昌泰(広島大学大学院 脳神経内科学)
  • 藤代 健太郎(東邦大学医学部医学科 教育開発室)
  • 北川 一夫(大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学)
  • 小久保 喜弘(独立行政法人国立循環器病研究センター 予防健診部)
  • 竹川 英宏(獨協医科大学 神経内科学脳卒中部門)
  • 山村 修(福井大学医学部 地域医療推進講座)
  • 多賀谷 昌史(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 脳卒中内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 脳卒中の基盤となる動脈硬化は、主として粥状硬化と細動脈硬化に大別される。粥状硬化は画像検査が進歩し、早期から詳細な診断が可能で、治療効果に対するエビデンスも多い。一方、細動脈硬化は、血管径が細いため従来の画像診断技術では評価が困難であり、治療介入の効果に関するエビデンスも乏しい。日本をはじめとするアジア諸国の脳卒中病型は未だに細動脈硬化をもとにしたラクナ梗塞や脳出血が欧米よりも頻度が高いため、細動脈硬化にも注意を払った診断や治療法を確立してゆく必要がある。
  本研究の目的は、多角的な動脈硬化の検査指標を組み合わせることで粥状硬化と細動脈硬化を分離して評価可能な指標の組み合わせを見いだし、より早期から個々の動脈硬化の特徴に合わせた治療介入が可能となるようなsurrogated endpointを確立することにある。
研究方法
本研究ではまず現時点で計測可能な脳の細動脈硬化の指標の候補(脳血管抵抗性、脳血管反応性、脈波伝搬速度)および粥状硬化の指標(頸動脈エコーでの内中膜肥厚およびプラークスコア)と、脳卒中病型との関連性を後ろ向きと前向きにデータ収集し解析を行った。前向き登録例の一部には経頭蓋ドプラー法を用いて、息こらえ方による血管反応性を評価した。
 また都市部の疫学研究である吹田研究で、頸動脈エコーで計測されたパラメーターと心血管イベントの発症について、分担研究者である当センター予防検診部の小久保医師が解析を行った。
結果と考察
 3年間の研究で、多施設共同での後ろ向き研究と前向き研究、疫学調査から細動脈硬化のサロゲートマーカとなる指標(特に生理機能検査)の探索を行った。脳卒中病型からアテローム血栓性脳梗塞(ATBI)群、穿通枝梗塞群、脳出血群に分け、粥状硬化の代表であるATBI群との比較を行った。後ろ向き研究では988例が解析対象と成り、多変量解析によりATBI群では粥状硬化の指標であるIMT、プラークスコアが高値を示したのに対して、末梢家間抵抗の指標である頸動脈血流のpalsatility index(PI)が脳出血で有意に高値を示した。前向き研究では327例が解析対象となり、多変量解析からやはATBI群でプラークスコアが他の群に比較して高値を示し、穿通枝梗塞群・脳出血群伴に頸動脈PI値がATBI群に比較して高値であった。しかしオッズレシオが低いため、より感度特異度を上げるためにはIMT、 総頸動脈径、内頚動脈PI、PWIを組み合わせた予測モデルを作る必要があると考えROC曲線を道井高い咳から、穿通枝梗塞とアテローム血栓性脳梗塞の鑑別にはIMT、総頸動脈内膜間径、PWV、内頚動脈PI値の組み合わせ、脳出血とATBIの鑑別にはIMTと総頸動脈内膜間径の組み合わせが最も感度・特異度を効率よく上げることができることが分かった。
 また脳血管反応性をみる指標として経頭蓋ドプラ法による息こらえ試験(Breath holding index)が脳出血の予測に使える可能性も示された。
 疫学調査からは、頸動脈の内中膜厚(IMT)が虚血性心疾患、虚血性脳卒中の予測因子として、日本人でも有用であることが初めて明らかにされた。さらに総頸動脈径は出血性脳卒中、虚血性脳卒中の予測因子となることを世界で初めて明らかにした。
結論
 本研究で探索された細動脈硬化の指標は目新しい物では無いが、これまで全く注目されていない簡便な指標が有用であることを示した点が重要である。頸動脈エコー検査では、粥状硬化の指標であるIMTやプラークスコアが重視されてきたが、細動脈硬化では末梢血管抵抗の指標であるPI値が安定して細動脈硬化の指標となり得ることが分かったため、今後スクリーニングの項目にも加えておく必要があると考えられる。粥状硬化はたくさんの指標が確立しており、治療効果についてもサロゲートマーカーとなるものが実臨床でも使われている。細動脈硬化に関しては、特に治療介入により可逆性のある項目は全くない。また細動脈硬化は今後ますます増加してゆくと考えられている認知症の発症にも大きな影響を持つ。今後は細動脈硬化の治療介入により、これらのパラメータがどのように変化してゆくのかを検討してゆく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201222014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
細動脈硬化は、穿通枝梗塞、脳出血のみならず、認知症にも関連が深く、今後大きな問題となっていくが、現時点で細動脈硬化を評価する指標は乏しいし、動脈硬化はみな同じものとして一括して研究が行われている。まずは確実な評価指標が必要であるが、今回の研究により、まず頚動脈の末梢血管抵抗を反映するpulsatility indexが簡便な指標として有望であることが分かった。吹田研究からは新たな指標として総頸動脈血管径も脳梗塞発症予測因子であることが発見された。
臨床的観点からの成果
頸動脈エコー検査は臨床的に最も普及している動脈硬化の検査法である。多くの施設で利用され、粥状硬化の評価法として成果をあげてきた。ここまで定着した検査に、pulsatility indexの計測を追加するのみで細動脈硬化の評価が可能であることを本研究は示しており、実質的にはpulsatility indexは血流速度の計測で自動計算されるためほとんどの施設では出ているが、利用されていない。新たな項目ではなく今すぐ使える指標を探索できたことが、この研究の臨床上最も大きな成果である。
ガイドライン等の開発
現在日本超音波医学会の頸動脈エコーガイドライン委員会の委員として、ガイドラインの改定にあたっている。超音波による頚動脈の標準化評価法小委員会(2013年5月24日)
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201222014Z