地域やライフステージを考慮した歯および口腔の健康づくりの支援体制の構築に関する研究

文献情報

文献番号
201222008A
報告書区分
総括
研究課題名
地域やライフステージを考慮した歯および口腔の健康づくりの支援体制の構築に関する研究
課題番号
H23-循環器等(歯)-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
川口 陽子(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 平田幸夫(神奈川歯科大学)
  • 森尾郁子(国立大学法人東京医科歯科大学大学院)
  • 福泉隆喜(公立大学法人九州歯科大学)
  • 植野正之(国立大学法人東京医科歯科大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,808,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、国際的な視点から我が国の歯科保健医療施策を客観的に評価するとともに、国内の歯科疾患をとりまく社会環境の変遷、歯科保健・医療の現状とその評価を行い、今後必要とされる地域やライフステージを考慮した歯および口腔の健康づくりの支援体制の構築に向けた具体的な提示を行うことである。
研究方法
 日本に関しては歯科疾患実態調査の結果をもとに、う蝕や歯周病等の歯科疾患等の有病状況の現状と推移について分析した。また、社会経済的要因と歯科疾患との関連をみるために、教育歴と歯科保健状況との関連について調査を行った。さらに、口腔と全身の健康との関連を明らかにするために、歯周病と心疾患との関連について疫学研究を実施した。海外に日本の歯科保健状況を情報発信していくために、歯科保健医療の提供体制や公的医療保険制度の英訳を行った。
 海外調査は、シンガポール、ドイツ、スウェーデンを対象として各国の歯科保健医療制度、公的医療保険制度、口腔保健状況、歯学教育等に関する実態調査を行った。また、北欧諸国で使用されている口腔保健医療の評価指標、米国の歯科医師法、フランスの歯学教育制度、米国・英国・オーストラリアおよび韓国の歯科医師免許更新制度や生涯研修制度に関する調査を行った。
結果と考察
 日本人の口腔保健状況はこの50年間に大きく改善しているが、口腔保健状況には地域差が認められた。また、8020達成率も約30%であることから、効果的な歯科保健対策をさらに継続していくことが重要と考えられた。教育歴によって歯科保健状況に格差が認められることが判明したことから、歯科保健状況をさらに向上させるためには、個人的な健康習慣の改善とともに、社会的な支援体制も必要である。例えば、中学校までの義務教育期間に必要な歯科健康教育を行うことによってすべての子供達に適切な健康情報を伝え、教育歴による歯科保健状況の健康格差を改善していくことが重要と考えられた。
 諸外国と異なり、国民皆保険制度によって、ほぼすべての歯科治療が公的医療保険でカバーされている我が国においては、社会経済的状況に関係なく国民は歯の欠損部を義歯等で補綴している状況が明らかになった。また、日本人を対象とした疫学研究の結果より、歯周病対策を行うことはCHDの発症リスクを低下させることとなり、CHDの発症予防に貢献できると考えられた。
 海外に関する調査研究より、社会的環境、背景が比較的類似している北欧諸国においても各データの調査年、対象、調査方法が異なっている等、共通指標を用いて口腔保健状況や歯科医療状況を国際比較、経年比較することは非常に難しいことが判明した。我が国には豊富な口腔保健データが蓄積されている。国レベルで口腔保健医療の推移をモニターしたり、国際比較を行っていくための世界共通の指標作成に、我が国も積極的に関与して、これまでの情報や経験をもとに、海外諸国と共同作業を行っていくことが必要と考えられた。
 日本とシンガポールを比較することで、歯科治療項目の公的医療保険制度への含有の有無が、国民の口腔保健状況に影響を与えていることが明らかになった。我が国の健康保険制度は日本人の歯の喪失における抑止力の一つとなっている可能性が示唆された。
 スウェーデンにおける定期受診率は日本と比較するとかなり高いが、さらに定期受診率を上げるため、定期受診していない人に受診を促す補助制度が取られており、子供だけでなく成人に対する歯科疾患予防のための政策が充実していた。
 調査した米国、英国、オーストラリアのすべての国において、日本では実施されていない歯科医師免許更新制度があり、2~5年ごとの更新が義務付けられていた。韓国においても2012年より、免許更新および生涯研修が義務化された。こうした制度は、歯科医師が最新の歯科の知識や技術を身につけ、患者や社会に対しより質の高い歯科医療を提供するために不可欠と考えられた。日本では現在、歯科医師免許更新制度はないが、生涯教育は実施されている。しかし、それらへの参加は希望者のみであるため、生涯教育を受けない歯科医師の中には依然として古い歯科医療の知識や技術のままで診療を行っている者がいると推察される。常に最新の歯科情報を入手し、患者に信頼されるためには、日本においても免許更新制度等の導入を検討する必要があると考えられた。

 
結論
 本研究で国際比較を行ったことで、我が国の歯科保健医療制度の優れた点、改善すべき点が明確になってきた。それらの情報をまとめて英訳資料を作成し、海外に向けて発信していくことが重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2016-08-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
201222008Z