大規模コホートを用いた急性心筋梗塞における早期再灌流療法に向けた医療連携システム構築と効果的な患者教育のためのエビデンス構築に関する研究

文献情報

文献番号
201222006A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模コホートを用いた急性心筋梗塞における早期再灌流療法に向けた医療連携システム構築と効果的な患者教育のためのエビデンス構築に関する研究
課題番号
H24-心筋-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
木村 剛(京都大学大学院医学研究科 循環器内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 堀江 稔(滋賀医科大学 呼吸循環器内科)
  • 中川 義久(天理よろづ相談所病院 循環器内科)
  • 古川 裕(神戸市立医療センター中央市民病院 循環器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、CREDO-Kyoto AMI Registryに登録されている患者を対象に発症から来院までに関する情報を調査するとともに長期予後を評価することで、急性心筋梗塞における発症から来院までの経緯が長期予後に及ぼす影響を検討することが目的である。
研究方法
CREDO-Kyoto AMI Registryは2005年から2007年の3年間に参加26施設において発症7日以内の血行再建術を受けた急性心筋梗塞症例連続5429例を登録した大規模急性心筋梗塞コホート研究である。本研究ではこのCREDO-Kyoto AMI Registryに登録された対象患者に対して、発症から来院までに関する情報を調査するとともに長期予後を評価することで、急性心筋梗塞における発症から来院までの経緯が長期予後に及ぼす影響を検討する。研究初年度では、まず、5年の長期臨床成績のデータ収集を行い、特にST上昇型急性心筋梗塞の治療成績を明らかにした。
結果と考察
本研究結果から本邦における急性心筋梗塞患者の特徴と長期予後が明らかとなった。具体的には、本邦の急性心筋梗塞患者の特徴として高齢化社会を反映し75歳以上の高齢者の割合が高いことが明らかとなった。今後も本邦において、ますます高齢化社会が進んでいくであろうことを考えると、こうした高齢者の急性心筋梗塞症例の予後をいかに改善していくかということも今後の急性心筋梗塞治療の課題の1つとなると考えられる。
また、本研究では糖尿病患者の割合は全体の31%に留まったが、他の報告などを鑑みると糖負荷試験など積極的な検査及び診断を行った場合には、更に糖尿病の合併率は高くなることが予想され、糖尿病患者における治療成績の改善が望まれるほか、糖尿病患者をはじめとしたハイリスク患者に対して急性心筋梗塞に関する患者教育を行っていくことが急性心筋梗塞の予後改善に寄与する可能性があることが考えられる。
 5年の長期臨床成績では、死亡率や心筋梗塞の再発といったいずれのエンドポイントでも1年以降のイベント発生率はほぼ一定であり晩期に特別な上昇を認めないことが分かった。しかしながら、死亡/心不全の複合エンドポイントでみると5年時の発生率は24.9%であり、急性心筋梗塞発症後5年で約4分の1の症例が死亡もしくは心不全を発症していることが明らかになった。本研究でも示されているように、現代の再灌流療法を受けた急性心筋梗塞患者の30日予後は5%前後まで改善しているが、長期的には心筋梗塞後の低心機能による心不全発症のリスクなども考慮すると依然として更なる改善が必要であると考えられる。
 先行研究で報告された発症からバルーンまでの時間(Onset to balloon time:総虚血時間)と臨床成績の関連が今回の5年追跡でも確認された。また、ガイドラインで推奨されているDoor to balloon time 90分以内の効果は発症早期来院例に限られることも改めて確認され、病院前救護体制を含めた総虚血時間の短縮が重要であると考えられる。さらに急性心筋梗塞の短期予後が改善した現在においても来院時に心原性ショックを合併した症例では死亡/心不全の発生率は、30日で24.3%、1年で40.1%、5年で51.7%と極めて高率であり、こうしたハイリスク症例の予後改善が急性心筋梗塞全体の予後改善につながる可能性が示唆された。
 このように、研究初年度に行った5年臨床経過の追跡調査により、本邦における急性心筋梗塞患者の5年に渡る長期成績とその特徴が明らかになった。次年度以降では、心筋梗塞発症から病院到着までの情報収集を行うことで、来院形態や施設間搬送における地理的関係の長期予後への影響などを評価するとともに、今回明らかとなったハイリスク症例に対する効果的な治療法を検討する。また、それらを通じて、早期再灌流療法に向けた患者搬送を含む医療連携システムの形成に必要なエビデンスを構築するとともに、救急車による直接搬入を受けなかった症例の患者背景を調査し、救急車による発症早期来院を促す啓発活動の効果的な対象患者を明らかにしていく予定である。
結論
本研究により、本邦における急性心筋梗塞の5年長期治療成績が明らかとなった。急性心筋梗塞発症後1年以後の有害心血管イベント発生率はほぼ一定であり、比較的低率ではあるが、5年時には約4分の1の症例で死亡もしくは心不全を発症していることを考えると、更なる治療成績の改善が望まれる。特に、現代でも心原性ショックを合併した症例などでは短期予後を含めた治療成績の改善が必要であることが明らかとなった。こうしたハイリスク症例を含めた更なる急性心筋梗塞の予後改善のためには、医療連携システムの構築と効果的な患者教育体制の構築が重要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201222006Z